バーベルを軽々と持ち上げる小柄な少女がいる。山本美彩希(やまもと・みさき)さん、11歳。小学6年生ながらデッドリフト50kgを挙げ、パワーリフティングの大会でも驚異の記録を叩き出した注目のトレーニーだ。父・勝三さん(パワーリフター)の影響でトレーニングを始めた美彩希さんの生活を追った。
父の背中を見て始めたトレーニング
美彩希さんがトレーニングに興味を持ったのは、父・勝三さんが自宅のジムで日々汗を流す姿を見ていたからだ。勝三さんは、子どもでも取り組みやすいゴブレットスクワットから指導をスタート。8歳の妹と一緒に楽しんでいた美彩希さんが、ある日「デッドリフトをやってみたい」と言い出した。そしてなんと、身長150cm、体重40kg台の美彩希が初挑戦で体重に近い40kgを軽々と持ち上げた。その後も熱心に取り組む姿に「そんなに興味を持ったなら」と、大会出場を提案したのは父だった。美彩希さんは快諾。
「重いものが結構持てるようになったから、『そういう大会があるなら出てみたい!』って思いました」
そして2023年、兵庫県で開催された『第4回ストロングガールズ』で、美彩希さんはスクワット45kg、ベンチプレス17kg、デッドリフト45kgのトータル107kgを達成。初めての舞台で圧巻のパフォーマンスを見せた。
「学校の友達にはトレーニングをしている人がいないので、『大会に出たよ』といっても『すごいね(?)』くらいの反応ですが、とても楽しかったです」
トレーニングは自分のペースで楽しむ
美彩希さんのトレーニングは、土日のどちらかに2時間ほど。スクワット、ベンチプレス、デッドリフトのBIG3を中心に、好きな種目を好きなだけ取り組むスタイルだ。特にデッドリフトが大好きだが、ベンチプレスは「ちょっと苦手」とはにかむ。勝三さんは安全管理とフォームチェックに徹し、美彩希さんのペースを尊重して静かに見守っている。
「トレーニングはしんどいけど楽しいです。続けていると重量が上がっていくのがうれしいし、コツコツ自分のペースで挑戦できるのが好きです」
大会後にも記録を更新し続けており、スクワット50kg、ベンチプレス20kg、デッドリフト50kgでトータル120kgを達成。11歳とは思えない成長曲線を描いている。
また、パワーリフティング以外にも、美彩希さんは地元のバレーボールチームで活躍中。3年目のアタッカーとして、レフトもライトもこなす。トレーニングで鍛えた筋力がアタックや脚の動きに生き、「前より上手くなった気がする」と語る。3歳から習っていた水泳では日本水泳連盟の泳力検定1級を取得。幼少期からの運動経験が、美彩希の強靭な背筋の礎となっているようだ。
「バレーボールも大好きです。同学年の友達と集まってワイワイ過ごす時間がとても楽しいです」
一方で、読書への情熱も並外れている。昨年は99冊を読み、学年で読書ランキング2位に輝いた。ショートショート(特に短い小説)や『時間割男子』シリーズが特に好きで、ジャンルを問わず本の世界に没頭する。あらゆる興味へのまっすぐな姿勢が垣間見えた。
司書を夢見て、未来への一歩
美彩希さんの目標は、14歳から出場可能なパワーリフティングの『サブジュニア』カテゴリーでメダルを獲得すること。だが、競技以上に「家でコツコツ練習して記録を伸ばす」時間そのものが楽しいと語る。
「出場しなくなってもトレーニングは続けたいです。将来は司書になって、図書館で働きたいなと思っています」
この目標は父・勝三さんにとっても初耳だったそうだが、「どんな道を選んでも応援したい」と温かい後押しを送った。自分のペースでバーベルを握り、本をめくり、仲間とコートを駆ける。11歳のトレーニー・山本美彩希さんの挑戦は、可能性の煌めきに満ちている。
取材:にしかわ花 撮影:岡 暁
執筆者:にしかわ花
『IRONMAN』『FITNESS LOVE』『月刊ボディビルディング』寄稿。広告・コピーライティング・SNS運用。ジュラシックアカデミーでボディメイクに奮闘している。