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大胸筋を鍛え上げるために必要な方法をボディビル世界王者・鈴木雅が解説

鈴木雅選手がトレーニングをディープに、詳細に解き明かしていくこのコーナー。今回はトレーニング部位としては腕と並び、根強い人気を誇る「大胸筋」。発達する人とそうではない人との差が出やすいこの部位のトレーニングを鈴木選手が詳しく解説!

構成:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩

【動画】ボディビル世界王者・鈴木雅が細かく解説「意外とできていない!?横腹をしっかり鍛えるためのツイストクランチ」

構造から考える

大胸筋は「上部」「中部」「下部」の三つに分けられ、さらに「下部」は二つに分けることができます。他にも胸部を形成している筋肉には小胸筋、前鋸筋などがあります。大胸筋「上部」「中部」「下部」の停止部は、三つとも上腕骨大結節陵についています。つまり、中部のためのトレーニングを行えば、上部も下部も収縮します。そのため、トレーニングをやりすぎないことも一つのポイントになってきます。「上部」「中部」「下部」と三つに分けてトレーニングを進めている人は多いかと思いますが、しっかりと胸が発達している人は、デクラインやインクラインなどを活用しなくてもいいというのが私の考えです。

大胸筋上部は鎖骨の2分の1の部分に起始部、上腕骨の少し下の位置に停止部があります。中部の起始部は胸椎の真ん中あたり、下部の停止部は上腕骨から肋骨の外のラインと、腹直筋の上一枚のところにあります。鍛えたい筋肉の起始と停止を結ぶラインに沿って種目を行うことが大切です。

小胸筋と前鋸筋

小胸筋は大胸筋を内側から盛り上げてボリュームを作るために必要な部分です。小胸筋を鍛える場合は、筋の走行方向通りに動かしていけばいいでしょう。つまり、腕を左右に開くのではなく、150度上方にバンザイのように腕を上げる動作です。

その小胸筋と連動しているのが大胸筋下部(腹直筋の上一枚)と前鋸筋です。前鋸筋は収縮すると肩関節が内転するような動きになります。前鋸筋が弱いと肩甲骨が寄せられず、プッシュ動作がしっかりとできなかったり、肩が前に出てしまったりします。

前鋸筋を動かすことは、かなり熟練しているトレーニーでないと難しいと思います。前鋸筋に関しては、前鋸筋そのものを鍛えるというより、フリーウエイトを行う際に肩甲骨を寄せたり、固定したりする動作を行っていけばいいでしょう。

胸に関してもう一つ重要なのは、腹直筋の上一枚。大胸筋の下部とつながっているこの部分が拘縮していると、胸の下部が伸展しにくいです。呼吸筋である横隔膜ともつながっている部分なので、腹式の呼吸がしっかりとできていないと、大胸筋下部は発達しづらいのです。

腹筋は発達しているけど胸は弱いという選手はあまりいないものです。大胸筋下部を発達させるには、腹筋をしっかりコントロールできるようになることも重要です。

肩甲骨と肩甲棘きょく

肩甲骨を寄せると、胸を自然に伸ばすことができます。その際、しっかり骨盤を立てることで、肩甲骨を寄せやすくなり胸を張れます。骨盤を立てても猫背になる人は、脊柱や胸椎が硬くなっている可能性があるので、その場合はストレッチを行いましょう。

大胸筋の付き方は鎖骨の位置と肋骨の付き方によって変わってきます。猫背気味で、鎖骨が前に巻いているような体型の人は肩甲骨を動かしづらく、肋骨全体が平坦な形をしています。その姿勢でプッシュ動作を行うと、肩が支点になって痛めてしまうケースが多いです。逆に背筋が伸びて、胸郭が広い体型の人は肋骨が丸く、大胸筋が発達しやすいです。

発達しにくい方ほど、より考えながらトレーニングする必要があります。胸のトレーニングでは肩甲骨と肩甲棘(肩甲骨についている)が大きなポイントとなります。

肩甲棘を上げると肩が上がります。鎖骨が内巻の人は肩甲棘が上がり気味になる傾向があります。その状態でプッシュをすると、肩甲骨が開いて肩が前に出てしまいます。

さらには、大胸筋を最大収縮させるには、肩甲棘を上げて肩甲骨を開く必要があります。逆に、ストレッチポジションでは肩甲骨が寄ります。つまり、最大伸展時、最大収縮時では肩甲骨の位置が変わってくるのです。

肩甲骨を固定した種目ばかりを行っていると、大胸筋の外側ばかりが鍛えられることになります。収縮させる種目が苦手な人は収縮種目は肩甲骨を開いた状態で、ストレッチ種目は肩甲骨を寄せた状態でやるなどして、動作を分けたほうがいいでしょう。

グリップについて

肩甲骨周りの筋肉が固くなければ手首は立てた方がいいです。寝かせてしまうと、胸ではなく肘から動かす動作になってしまいます。肘から動く動作になると、大胸筋ではなく三角筋を使いがちになってしまいます。また、サムレスグリップで握ると、手首が返ってしまうことが多いです。

グリップに関しては、マシンによって変化してきますが、サムアップ・グリップで握ると手首が立ちやすく、胸の筋肉を動かしやすくなると思います。

もう一つ、収縮種目かストレッチ種目かによって親指側で握るか、小指側で握るかが変わってきます。親指側で力を入れると正中神経が働き、胸を収縮させやすくなります。ただ、戻す動作のときは肩甲骨を寄せづらくなるので、そこでは小指側で握ります。収縮種目は親指側、ストレッチ種目は小指側で握ると覚えればいいでしょう。ミッドレンジ種目のベンチプレスの場合は中指の下で強く握ります。

足上げベンチの是非について

ていねいな動作を行うためにベンチ台に足を乗せてベンチプレスを行う人がいますが、脚を乗せること=ていねいな動作、というわけではありません。

足を乗せると骨盤が後傾し、肩甲骨を寄せられなくなります。胸を鍛えたいなら、脚はしっかりと床につけ、ブリッジをかけたほうが肩甲骨を寄せやすく、胸のストレッチができます。

体の構造から考えると、ブリッジしないと肩や腕の筋肉を動員することになります。ですからクローズドグリップ・ベンチプレスで三頭筋を狙いたい場合は、足上げベンチプレスは有効になります。

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鈴木 雅
1980年12月4日生まれ。福島県出身。身長167cm、体重80kg ~83kg。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2010年からJBBF日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と2つの世界大会でも優勝を果たした。DMM オンラインサロン“ 鈴木雅塾”は好評を博している。


執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。


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