ダンスと和太鼓とヨガと、幅広い分野で活躍を続けている水戸桜里枝さん。アメリカ生活で出会ったヨガ文化とともに、妊娠、出産をする過程で水戸さんのヨガへの思いが変化していったという。(初出:Yoga&Fitness Vol.12)
【写真】ダンス、和太鼓、ヨガで活躍する水戸桜里枝さんショット
はじめはコンディショニングとして
初めてヨガに触れたのは、2003年。ニューヨークにダンス留学をしていたときです。もう20年も前になるんですね(笑)。通っていたダンススタジオのプログラムのひとつに、ダンサー向けのコンディショニングレッスンとしてヨガとピラティスのクラスがあり、そこに参加したことがきっかけです。
当時、日本ではまだヨガというと思想が強いものという印象が強かったです。しかしアメリカ、とりわけニューヨークではカルチャーのひとつとして存在し、そこで暮らす人たちのライフスタイルの一部として浸透していました。
ただ、私のなかの第一印象は、ヨガよりもトレーニング要素の強いピラティス派かな?という感じでした。もちろんどちらも素晴らしいボディワークだというのはわかっていますが、その頃メンテナンス不足により腰を痛めていたため、ピラティスをすることによって自分の身体を自分で鍛えて守っていく感じが、とてもしっくりきたんです。
でも、それからしばらくして普段通っていたスタジオとは別のワークショップに参加した際、受講生のなかにとても美しい動きをするダンサーさんと出会いました。
ウォーミングアップにヨガを取り入れていることに気づき、話しかけると彼女はダンサーであると同時にヨギーニであること、そしてヴィンヤサフローヨガをしていると教えてくれました。ヴィンヤサはフローそのものが美しいだけでなく、バランス感覚を養ううえでもダンサーにとって素晴らしい効果のあるヨガだとのことで、すぐにヴィンヤサフローヨガのDVDを購入、独学で学びトレーニングに取り入れるようになりました。
妊娠・出産期を支えたヨガ哲学
ここからヨガをより深く知っていったのは帰国後、長男を妊娠してからのことです。
20代なかば、ダンサーとしては一番の踊り盛りの時期に妊娠・出産期を迎え、とても複雑な想いのなかで少しずつ気持ちが不安定になっていきました。これまで懸命に積み上げてきたスキルとキャリアを放棄しなければならないことへの何とも言えない悔しい気持ちと、自分のなかで日に日に大きくなっていく新たな命に対する言葉にできない責任感と、消えない不安。
仲の良い友人たちは誰も子育てのフェーズには入っておらず、気軽に相談や共感しあえるママ友もいない状況がさらに心を圧迫していきました。そのときに本を通して知ったのが、ヨガ哲学でした。
たくさんの気づきを得ましたが、最も大きな影響を得たのは「手放す」という思想です。手放すべきタイミングがきたら、必要以上に執着せずに手放すこと。そうすることで自分自身の心が守られて、そこからさらなる成長を実感することができる。このアイデアは、私にとって本当に斬新で目が醒めるような感覚を得ました。
もちろん、すべてを手放せば良いというわけではありません。例えば、どこまでが手放しでどこからが怠けになるのか。バランスの取り方について、正解はその時々の時期や状況に応じて変わってくるところでもありますよ。常にヨガの考え方を現実世界で実践しながら、学びを深めている過程にあるわけで、それがつまるところ、ヨガ哲学のひとつでもある「今を生きる」に通ずるのかな、なんていう風にも解釈しています。
アメリカで深めた「私のヨガ」
夫の仕事の都合でアメリカで2年間暮らすことになった際、RYT200を取得しました。もっと早くに取る選択もあったのですが、私が最初に触れたヨガが海外でしたので、可能であればティーチャートレーニングも海外カルチャーのなかで取りたいと考えました。
念願叶ったこともうれしかったのですが、さらに喜ばしかったことは……。滞在地のノースカロライナは、決して都会ではありません。ニューヨークで触れたヨガとはまた別の、自然に囲まれた村の生活に溶け込んだヨガを体感することができたのです。本当に穏やかにのんびりとした空気のなかで、終始平和にトレーニングを終えることができました。それがとても幸せに感じられたのです。
現地のコミュニティ・インターナショナルワイブスの仲間たちに向けてヨガ会を開催し、インストラクションを担当。異国の地で暮らす女性たちの安らぎと憩いとコミュニケーションの場として、ヨガを提供できたことも大きな喜びとなりました。
大変なことは男性にも女性にも、性別を問わずそれぞれにありますが、特に、女性はライフステージの変化と合わせてホルモンバランスの変化が起こりやすく、それは心身ともに大きな影響を与えます。パートナーの仕事の都合に合わせて移住することもまた、大なり小なり心身に影響を与えるもの。そういう環境においてヨガをお伝えする役割をいただいたことは、その後の私の考えにも大きな影響をもたらしました。
生きていくなかで次々やってくる変化の渦のなかで、変わっていくものと変わらずにあり続けるものと、自分という存在とのバランスを取るためのツールとしてヨガを伝えていきたい。そのような想いが芽生え始めました。
ダンス・和太鼓・ヨガの3本柱で
アメリカでの暮らしを終え、帰国後は渡航前に勤めていた和太鼓スタジオに復帰しました。ヨガも、仕事と育児の合間を縫ってRYT500を取得。直後のコロナ禍ではオンラインレッスンに終始せざるを得ませんでしたが、状況が落ちついてからは各種インストラクターとしてだけでなく、さまざまな表現ジャンルの要素を取り入れたフィジカルアートのパフォーマーとしても国内外で活動を続けています。
ダンスと和太鼓とヨガ。一見すると全くの別物のように感じられるかもしれませんが、リズム・呼吸・体幹の意識・姿勢・精神性……と、追求していくと実はかなり親和性が高いのです。そして、私自身がさまざまな場面で積んできた経験や学びがすべて生きてくるものでもあります。ゆえに、他の何者でもない、一番自分らしい在り方なのです。
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取材:鈴木彩乃 写真提供:水戸桜里枝
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