腰痛はスポーツ界に限ったことではなく、世界中の人たちを悩ませている。今回は、ウエイトトレーニングが原因で発生する腰痛について解説する。
※IRONMAN 2024年8月号に掲載された「筋肉のこわばりを放置しない!ストレッチで下背部(腰)を守ろう」をWEB用に編集したものです。
身体の要をケアする
下背部(腰)の痛みの強さや種類は人によって様々だろう。例えば「刺すような痛み」や「広範囲での鈍痛」であり、生活に支障が出ることも多い。
痛みを緩和するストレッチは固く萎縮した筋肉の緊張をほぐし、筋肉の長さを確保するのに役立つ。そのため、結果的に動作の可動域が広がり、筋肉の柔軟性が高まる。筋肉の萎縮が緩和されれば、骨格にとって楽な姿勢、すなわち正しい姿勢が保ちやすくなる。
痛み緩和&可動域確保のためのストレッチ
キャットカウ・ストレッチ(脊柱周りの柔軟性を高める、可動域を広げる)
【やり方】
①両手と両膝を床につけて四つんばいになる。このとき、手首は肩の真下に、膝は股関節の真下に来る姿勢を作る。
②首の緊張を解いて、視線は軽く床に向けておく。
③猫のポーズは、息を吸いながらゆっくりとヘソを背骨のほうに引き上げ、尾てい骨をひっこめ、アゴを胸に近づける。この状態を数秒間保持する。
④続けて牛のポーズを行う。息を吐きながら背中を弓なりに反らせていき、ヘソを床に近づけるイメージで行う。尾てい骨は天井に向け、背骨に緩やかなカーブを作る。この状態を数秒間保持する。
⑤猫と牛のポーズを交互に繰り返すが、ポーズの移行はできるだけゆっくり滑らかに行う。動作中は呼吸を止めないこと。一つのポーズに3~5秒間はかけるようにしてほしい。猫と牛のポーズを交互に4、5回ずつ繰り返して終了する。
赤ちゃんのポーズ・ストレッチ(下背部、股関節、大腿部、足首、身体の緊張を和らげる)
【やり方】
①ヨガマットに四つんばいになる。このとき、手首は肩の真下に、膝は股関節の真下に来るようにする。
②ゆっくりとかかとに尻を近づけ、腕を前方に伸ばしてひれ伏すようにしていく。
③額は床につけ、胸を床に近づけて、できるだけ力を抜く。かかとの上に尻が乗らなくても無理をせず、大腿部とカーフの間にタオルやクッションを挟んで高さを作ってもかまわない。
④この姿勢を20~30秒間保つ。静止中はできるだけ深呼吸を丁寧に、静かに繰り返す。
ニー・トゥ・チェスト・ストレッチ(下背部、殿筋、ハムストリングなど)
【やり方】
①ヨガマットなどの上に両脚を伸ばしてあお向けになる。
②片方の膝を曲げ、膝関節の少し下、もしくはハムストリングあたりに両手を添えて、膝を胸に引きつける。
③膝を胸に近づけている間、伸ばしている方の脚はリラックスさせておく。
④曲げている方の下背部や殿筋、場合によってはハムストリングにも心地よいストレッチが得られるはずだ。
⑤20~30秒間、膝を胸に引きつけた姿勢を保ったら脚を伸ばし、反対側も同様にして行う。
⑥1日に数回行ってもかまわない。ただし、膝に痛みが起きるようであれば、胸に引きつける力を緩め、膝を曲げ過ぎないように調整しながら行うようにしてほしい。
ブリッジポーズ(背中、殿筋、ハムストリング、首、胸、脊柱)
【やり方】
①床にあお向けになり、両膝を曲げて足の裏を床につける。足は腰幅に開いておく。
②膝はできるだけ鋭角に曲げ、かかとを殿部にしっかり近づける。
③下背部を床面に押しつけ、体幹部の筋肉を収縮させる。
④足裏で床を踏みしめて、股関節を天井に向けて腰を床から浮かせる。このとき、殿筋と大腿部をしっかり収縮させる。
⑤肩から膝までが一直線になるまで腰を浮かせる。
⑥この姿勢を20~30秒間保つ。
⑦ゆっくり腰を下ろして終了する。
シーテッド・ハムストリング・ストレッチ(ハムストリング)
【やり方】
①床に座り、片脚だけ身体の前に伸ばす。反対側の脚は膝を曲げ、伸ばした方の大腿部内側に足裏をつけておく(数字の4のような形になる)。
②脊柱はまっすぐに立てて、肩はリラックスさせておく。
③股関節から曲げることを意識して上体を前屈させる。両手を伸ばし、足のつま先にタッチしてみよう。手がつま先に届かない人は無理に伸ばそうとしないこと。肝心なのは、この姿勢でハムや下背部がしっかり伸びていることを感じられるかどうかだ。
④この姿勢を20~30秒間保持する。
⑤ゆっくり上体を戻したら、反対側の脚も同様にして行う。
スパイン(脊柱)ツイスト・ストレッチ(下背部、殿筋)
【やり方】
①床にあお向けになり、両脚をまっすぐ床に伸ばす。
②両腕を肩の真横に伸ばし、身体と腕とでT字を作るようにする。
③両膝を曲げて胸に引きつける。
④手のひらを床につけて固定し、肩もできるだけ床から浮かないようにした状態で、ゆっくりとウエストをひねって両膝を右(または左)に倒していく。
⑤脊柱、股関節の外側、殿筋に心地よいストレッチ感が得られたら、その状態で20~30秒間静止する。
⑥ゆっくり膝を中央に戻し、反対側も同様にして行う。
骨盤を丸めるストレッチ(下背部、柔軟性を高める)
【やり方】
①ヨガマットにあお向けになり、両膝を曲げて足裏を床につける。このとき、両足は腰幅ぐらいに開いておく。
②両腕は体側において床に伸ばし、手のひらは床面に向けておく。
③下背部はできるだけ楽に保てるポジションを探す。脊柱のS字カーブがきつくならず、かといって伸ばしきってしまわないように、自然なカーブを維持する。
④あお向けの姿勢が決まったら大きく息を吸って、吐きながら少しずつ腹部の筋肉を収縮させ、ヘソを脊柱に近づけるイメージで骨盤を丸めていく。ヘソを脊柱に近づけるイメージを作ることで、無理なく骨盤を丸めることができるはずだ。
⑤骨盤を丸めていくと、床から浮いていた下背部が床面につく。このとき、下背部に心地良いストレッチが得られる。
⑥この姿勢を5~10秒間保持する。骨盤を丸めた状態をしっかり保てるように腹筋を適度に収縮させておく。
⑦ゆっくり骨盤をスタート地点まで戻す。この動作を8~10回繰り返す。
シーテッド・フォワード・フォールド(背中、ハムストリング、カーフ)
【やり方】
①脚を伸ばして床に座る(長座の姿勢)。このとき、両脚はそろえ、脊柱は床面に対して垂直に立てておく。もし、ハムストリングや下背部に痛みがある場合や、長座の姿勢がつらい場合は、尻の下にタオルや適度な厚みのクッションを敷いてもかまわない。
②両腕を前方に伸ばし、股関節から屈曲させるようにして上体を折り曲げる。このとき、背中が丸まらないように注意しよう。
③これ以上上体を前方に屈曲させられない位置に達したら、背中、ハムストリング、カーフなどを心地よくストレッチさせた状態で20~30秒間保持する。
④ストレッチ中は息を止めたりせず、しっかり吐いて吸うことを意識しよう。なお、できるだけ息を吐くことで脊柱をより伸ばすことができるので、強いストレッチを背面の筋肉に得ることができる。
痛みの原因を探る
変性椎間板症
年を重ねるにつれ、脊柱を構成している椎骨と椎骨の間にある椎間板は自然にすり減り、本来あったはずのクッション機能が失われていく。このような「変性」は、脊柱の痛みや安定性の欠如、柔軟性の低下につながる。変性によって炎症が起こり、痛みを感じる。なお、関節炎は脊椎に悪影響を及ぼす変性疾患の代表的な形態である。
妊娠
妊娠すると、胎児の成長に伴って子宮内が押し広げられる。拡張すればするほど脊柱への負荷が増す。これによって身体の重心も変化し、下背部に大きな負荷がかかり腰痛の原因となる可能性がある。
間違ったリフティング
高重量を間違ったフォームで挙上すると、背中の筋肉や脊柱に過度な負担がかかる。崩れたフォームのままトレーニングを続けると、特に下背部の痛みが起きやすくなる。デッドリフト、スクワット、オーバーヘッドプレスなどのトレーニング種目を高重量で行うときは十分な注意が必要だ。
オーバートレーニング
無計画にやりたいだけトレーニングを行っていると、オーバートレーニングの状態に陥る。それでもトレーニングを高頻度で続けようとすると、やがて怪我を招き、慢性的な痛みから逃れられなくなってしまう。背中の筋肉と脊椎構造は疲労回復に時間がかかるため、回復を考慮したスケジュールやトレーニング計画が欠かせない。
筋力のアンバランス
誰にでも好きな部位と苦手な部位があり、好きな部位のトレーニングは高強度で量も多くなりがちだ。逆に、苦手な部位には身が入らないという人も多いだろう。そのようなトレーニングが常態化してしまうと筋力がアンバランスになってしまい、身体機能にも影響を及ぼし、痛みなどの原因を作ってしまうこともある。
疲労回復を意識していない
クールダウンの習慣がなかったり、日ごろのストレッチをおろそかにしていたりすると、筋肉のこわばりが起きやすくなり、怪我のリスクも高まる。トレーニングを行ったら、対象部位の疲労を回復させるためにできる限りのことを行うようにしてほしい。疲労を残したまま次のトレーニングを行おうとしても効率が上がらず、痛みを大きくすることにつながってしまう。
文:IRONMAN編集部