トレーニングの成果を左右するのは、「何を、どう鍛えるか」だけではない。パフォーマンスを最大化するためには、“プレワークアウト”=トレーニング前の栄養戦略がカギを握る。高重量で挑む川中健介と、ハイレップ&効かせる方法で追い込む佐藤貴規──対照的なスタイルを持つ二人が、それぞれの視点からサプリメントの活用術と開発の裏側までを語り合った。トレーニング前の“仕込み”が、筋肥大と差別化の決め手になる。
取材・文:飯塚さき 写真:EastLabs PhotoTeam、中原義史、岡部みつる Web構成:中村聡美
高重量とハイレップトレーニングスタイルの違い
佐藤 今回のテーマはプレワークアウト、つまりトレーニング前にとるサプリメントについてです。サプリメントは、身体づくりをする人にとって欠かせないものですが、摂取するときに重要視するタイミングについて、川中くんとお話ししたいと思います。
川中 筋肉を成長させるためには、トレーニングそのもののほかに、トレーニング前・中・後の栄養摂取が大切です。適切な栄養補給を行ってトレーニングの質を高めること。そうすれば、減量中でも筋肥大が十分可能になります。
佐藤 私も同意見ですね。筋肉が成長するきっかけはトレーニングなので、いかに栄養でトレーニング効果を引き出すかが重要なポイント。もっとも重要なタイミングはトレーニング後だと思っていて、それは一般的にも共通認識でしょう。トレーニング後30分~1時間以内がゴールデンタイムといわれています。では、それ以外の部分でどう差をつけるかというところで、トレーニング前にフォーカスします。その前に、トレーニングそのものについて、川中くんの場合は特徴的ですが、どんな考え方で取り組んでいますか。
川中 私のトレーニングは、とにかく高重量。チーティングを使って、スティッキングポイントをうまく通過させて重いものを扱います。高重量を扱うとき、気持ちが入っていないと挑戦すらできないので、なるべく体が覚醒している状態で臨むように一番意識しています。
佐藤 トレーニング姿も見ますが、尋常じゃないくらいの負荷で取り組んでいるよね。具体的にどれくらいの重さ?
川中 スクワットは200キロ後半、ベンチプレスも200キロくらいです。トレーニングの時間も長く取れなくなってきたので、アップもしないでロッカーからいきなりベンチ180キロとか。そうなったら余計に、トレーニングのスイッチが入っていないとできません。ジムに行くまでに気持ちを作らないとダメで、それくらい集中力が大事です。

川中健介 2023年IFBB世界選手権クラシックフィジークジュニア21~23歳以下級優勝
佐藤 集中してスイッチ入れても、スクワット200キロ後半は持てないよ(笑)。才能と努力を感じます。自分の場合は真逆で、重さにこだわりはなく、とにかく筋肉をいかに疲労させるかを重視しています。重さを扱うよりは、回数と運動量で追い込むハイレップトレーニングスタイル。そんな我々は、それぞれ必要な栄養素も変わってくると思います。
川中 昨年から佐藤さんと一緒にトレーニングする機会が増えました。筋肉に載せた状態でトレーニングするっていうのが自分と全然違うなと感じています。自分のように、覚醒した状態で高重量をガツガツやると、筋肉の負荷が抜けることがある。佐藤さんの気持ちの作り方はまた違って、落ち着いた状態で、そのなかでも集中してやるスタイルですよね。
佐藤 そう、覚醒とかハイテンションではないですね。そこまで高めなくてもトレーニングできるやり方。それをベースに置いて、覚醒しないとできない、ではなく、ニュートラルな状態でもできるのが理想です。
スタイルに合わせた必要な栄養素とは
佐藤 では、トレーニング前の栄養補給に話を絞ると、川中くんは自分でどういう栄養が必要だと思いますか?
川中 私の場合、トレーニングのパフォーマンスを高めるのが一番の目的なので、覚醒作用を大切にしています。ただし、トレーニングは夜にすることが多いので、カフェインの摂りすぎには注意しています。目的は、トレーニングへのスイッチを自然に入れること。例えば、必ず同じものをとっていると、摂っているだけでトレーニングモードに入れるようになるので、常に毎日同じものを摂り、ルーティン化することが大事です。
佐藤 お互いに同じ環境で仕事しているので、だいたい川中くんのルーティンも把握しているんですけど(笑)、日中はエネルギードリンクを飲んでいるよね。日頃からカフェイン摂取は気にしていない?
川中 日中は気にしていないです。朝礼が終わった後は、必ずコーヒー。コーヒーを飲むと勝手に仕事モードになります。午後はエナジードリンク。これらはルーティン化しているので、スイッチが入りやすくなります。イチロー選手は毎日カレーとか、相澤隼人選手もタリーズコーヒーのブラックを飲むとか、トップ選手は徹底しているイメージなので、いろんな選手のルーティンを参考にしています。あと、トレーニング前はコーヒーやエナジードリンクにプラスして、テアクリンというカフェインの代替にあたるサプリメントをとっています。持続力があって、夜眠れなくなる「カフェインクラッシュ」もないので、自分のライフスタイルに合っているんです。ちなみに、トレーニング中のドリンクは2パターンあって、ひとつはホエイペプチドとBCAA。もうひとつは、例えば脚のトレーニングは時間が長くなるので、アルティメットエネルギードリンクにホエイペプチドとBCAAを混ぜて飲んでいます。これは即効性も持続性もあるので、長いトレーニングや早く栄養がほしいときに重宝しています。加えて、クレアチンは朝食後と夕食後にとっています。佐藤さんの栄養補給は?
佐藤 自分もトレーニングは夜が多いんですが、まずはトレーニング2時間前に軽食で、ホエイプロテインとおにぎりを100グラムくらい。私は空腹だと力が出ないので、この軽食を結構重視しています。そして、トレーニング直前に、アミノ酸とシトルリンとアルギニンというパンプを高める成分をとる。私はハイレップで追い込むので、パンプが高められるように意識しているんです。トレーニング中は川中くんと同じく、ホエイペプチドと糖質を摂取して、筋肉を追い込んでいく。現役の頃はトレーニング時間が2時間近くあったので、BCAAも摂っていました。いまは1時間前後と、集中力が低下するほど時間が長くないので、BCAAは摂っていません。

佐藤貴規
JBBF日本クラス別ボディビル選手権65kg級・70kg級・75kg級3階級優勝
川中 佐藤さんは、空腹ではトレーニングしないと言っていましたが、自分は真逆です。夕方5時くらいにプロテインをとったら、固形食は昼食が最後。夜8時のトレーニングは空腹ですることが多いです。体感的に、空腹のほうが集中しやすいのと、腹圧をかけることを意識しているので、未消化のものがあると腹圧のかかりが悪くなるんです。高重量を扱うときは、集中力を高めて腹圧をかけないといけないので、空腹がベター。でもカタボリックが多いので、栄養補給ではBCAAやホエイペプチドのように、吸収の速いものを選択しています。
佐藤 こんなに違うものなんですね。個人的には、固形物を含めてちゃんとした栄養補給をしないと全然できないんです。
川中 僕が特殊なのはありますが(笑)。まれに、朝トレーニングすることがありますが、絶対に朝食もとらないです。筋中にグリコーゲンある状態だと思うので、何も入れずに行きます。ただし、トレーニングでエネルギーは使われるので、素早い栄養補給は大事だと思います。
プレワークアウトの概念と新商品の開発
佐藤 そもそも、プレワークアウトのサプリメントって、いつくらいから取り入れていますか。私は割とトレーニング歴が後半になってきてから始めたんですが。
川中 自分はもともと好きで、高校生くらいからパウダーでとっていました。いまはいろんな年代の方がとっていますが、僕が高校生の頃は、SNSなどで若い人のなかで流行っていたんです。
佐藤 私の場合、プレワークアウトというカテゴリーがあったんではなく、トレーニングの成果を高めるためにどういうものをとったらいいかいろいろと試した結果、トレーニング前にとったほうがいいものが出てきた、っていうのが正しい流れだったんだよね。
川中 そもそもアミノ酸って、吸収がめちゃくちゃ早い認識だと思いますが、自分の体感だと、トレーニング中にとると筋中に回るまでに時間がかかっていました。だったらトレーニング前にとったほうがいいと思い、そうしたところ、バテにくく長時間トレーニングできるようになりました。
佐藤 自分は、パンプ系のシトルリン・アルギニンを取り入れてみて、パンプがより高まる、持続するようになった体感はあります。トレーニング中は低重量も高重量も、ハイレップも扱うので、サプリメントがあるおかげで、残りの2割3割を高められているので、非常に重要な栄養補給ですね。ただ、プレワークアウトに関しては、市場がまだ発展途上です。プレワークアウトというカテゴリーができたのはここ10年。まだ日本に定着していない感じがありますね。注力していない人が多いので、逆にこれを取り入れると差が出るでしょう。食事とサプリメントを、ケースバイケースで使い分けられればいいのではと思います。そして!このたび、GGでプレワークアウトのサプリメントが発売されます。
川中 私のところでも、トレーニング前にどんなものをとればいいかという相談が多かったので、今回作りました。「アルティメットプレワークアウト」は、エネルギー産生をサポートして、運動パフォーマンスの向上に役立ちます。配合されているelevATP™は画期的な成分で、扱っているのは国内だとまだ珍しい存在です。これに加えてアルギニンとシトルリン。あと、私が重視しているカフェインとテアクリンも入っています。さらに、チロシンという集中をサポートさせる成分と、トレーニングのパフォーマンスをサポートするベータアラニンも入っていて、これらをバランスよく配合しました。
佐藤 川中くんのような高重量でガンガントレーニングする人にも、自分のような回数で追い込むタイプの人も、全方位的に幅広く当てはまるものです。実際に飲んでみていますが、すごく体感もできています。
川中 私もすでに愛用しています
佐藤 ぜひ、トレーニング前に取り入れて、周りと一歩差をつけてみてください。
さとう・たかのり
1979年6月28日生まれ、東京都出身。株式会社THINKフィットネスゴールドジムプロダクツ事業部GGPグループ主任としてサプリメントの企画・開発を行う。2002年東京オープン60㎏級優勝、2012年日本クラス別70㎏級優勝、東京選手権優勝、2013・2014年日本クラス別75㎏級優勝、2015年日本クラス別65㎏級優勝、2017年日本クラス別75㎏級優勝、日本選手権5位、世界選手権70級7位
かわなか・けんすけ
2001年11月1日生まれ。千葉県出身。株式会社THINKフィットネスフィットネスプロダクツ事業部でサプリメントの企画・開発を行う。2022年オールジャパンジュニア選手権メンズフィジークオーバーオール優勝、2023・2024年日本クラシックフィジーク選手権175cm以下級優勝、2023年IFBB世界選手権クラシックフィジークジュニア21~23歳以下級優勝