ボディビル界のバルクの基準を変えた男、扇谷開登のトレーニング解説連載の最終回は脚だ。
メンズフィジークで競技デビューし、当初は脚トレを全くしていなかった扇谷開登。しかし、2023年のクラシックフィジーク出場を決意して以降、脚トレを本格的に行っており、現在では特に脚の強化を重点的に取り組んでいる。
それでは、日本選手権に向けて行っている「高密度・高強度」の扇谷開登の脚のトレーニングを紹介しよう。
文と写真/吉田真人 大会写真/中島康介 Web構成/中村聡美

2024年日本男子ボディビル選手権4位
扇谷開登
扇谷開登の考えるボディビルにおける脚
ボディビルにおける脚は「体の完成度を決定づける」もっとも重量な部位の一つです。脚は単なる「下半身」ではなく、骨格やプロポーションを左右する極めて重要な部位です。どれほど上半身が発達していても、脚が細ければ「アンバランス」と評価され、競技における順位にも大きく影響すると考えています。
扇谷開登が目指す脚
脚はフロント、サイド、バックのどのポーズにおいても評価対象となる部位です。大腿四頭筋の厚みと深く刻まれたセパレーション、ハムストリングスと臀筋の明確な分離感、前面と背面の厚みを保ちつつ、バランス良く発達したカーフなど、どの角度から見ても破綻のない「全方位型」の脚を作り上げることが重要だと考えています。
脚のトレーニングメニュー
現在行っている脚のトレーニングは、「レッグプレス」、「レッグエクステンション」、「ダンベルブルガリアンスクワット」の3種目です。
トレーニングパターンは2通りあり、レッグプレスから始めるパターン(パターン1)と、レッグエクステンションから始めるパターン(パターン2)を使い分けています。
現在はレッグプレスから始めるパターン1をメインに行っていますが、参考までにパターン2の内容もお伝えします。
《パターン1》
①レッグプレス(ハンマーストレングス)
1セット目493㎏×8〜12回
2セット目473㎏×8回→(20秒程度のレストポーズ)→フォーストレップで限界まで
3セット目453㎏×8〜10回→400㎏(ネガティブ3秒以上)×限界まで
②レッグエクステンション(ハンマーストレングス)
1セット目134㎏(フルスタック)×限界まで
2セット目134㎏×限界まで→82㎏×(ネガティブ3秒)10回→72㎏×限界まで
3セット目110〜120㎏×10回→75㎏×(ネガティブ3秒)×10回→60㎏×(丁寧に)限界まで
③ダンベル・ブルガリアンスクワット
1セット目36㎏(片手ずつ)×10回
2セット目30㎏×限界まで→自重(ネガティブ)×5回→自重(テンポ良く)×10回
レッグプレス
《パターン2》
①レッグエクステンション(ハンマーストレングス)
1セット目134㎏(フルスタック)×限界まで
2セット目134㎏×限界まで→98㎏×(ネガティブ3秒)10回→82㎏×限界まで
3セット目134㎏×限界まで→82㎏×(ネガティブ3秒)10回→75㎏×限界まで
②レッグプレス(ハンマーストレングス)
1セット目373㎏×限界まで
2セット目373㎏×10回→350㎏×(ネガティブ重視)限界まで
3セット目350㎏×8〜10回→300㎏×(ネガティブ3秒)限界まで(補助あり)
③ダンベル・ブルガリアンスクワット
1セット目36㎏(片手ずつ)×10回
2セット目30㎏×限界まで→自重×(ネガティブ)5回→自重×(テンポ良く)10回
3セット目22㎏×10〜12回→自重×(ネガティブ)5回→自重×(テンポ良く)10回
レッグエクステンション
ダンベル・ブルガリアンスクワット
トレーニングの理論背景
扇谷開登のトレーニングパートナーであり、扇谷のトレーニングメニューを考えている美濃川大に扇谷のトレーニングについて理論解説してもらった。
扇谷開登の脚のトレーニングは、種目数、セット数ともに、非常に絞り込まれています。ウォームアップを除いたメインセットは多くても計8〜10セット程度です。他のトップ選手たちが3時間以上、30セット以上こなす中で、このトレーニングスタイルは一見すると「少な過ぎる」と感じるかもしれません。
しかし、私たちは、この「高密度トレーニング」こそ、最も効率が良く、かつ筋肥大に直結すると確信しています。トレーニングの本質は「量より質」。上級者になるほど、1セットに込める密度と集中力が成果を分けると考えています。
この高強度トレーニングでは、筋肥大の主要要素である、「メカニカルテンション(機械的張力)」、「マッスルダメージ(筋損傷)」、「メタボリックストレス(代謝ストレス)」を全て網羅するように構成しています。
例えば、1種目目の1セット目では高重量でメカニカルテンションを最大化し、2〜3セット目ではドロップセットやネガティブ動作を駆使してマッスルダメージとメタボリックストレスを意図的に高めます。1セット毎に異なる刺激を狙うことで、限られたセット数でも高い効果を引き出すことができます。
1セット毎の強度が高いため、適切な補助は非常に重要です。特にネガティブ動作のサポートや、限界を超えた追い込みには、信頼できるパートナーの存在が欠かせません。また、高強度トレーニングを成立させるには集中力も求められます。各セットの合間に十分なレスト(場合によっては10分近く)をとることで、神経系と筋肉をしっかり回復させて次のセットに臨んでいます。
ボディビル競技において、トレーニングと同じように重要なのが「休養」です。筋肉はトレーニング中に成長するのではなく、その後の休息と回復によって発達していきます。
近年では「何時間トレーニングしたか」「何セットこなしたか」が話題になりがちですが、「どのような質でそれをこなしたか」また、「しっかりと休めているか」を問う姿勢がより重要です。休養もまたトレーニングの一部であり、刺激と回復のサイクルをいかに最適化できるかが成長を分けます。
今回紹介した高密度トレーニングは、万人に適した方法ではないかもしれません。しかし、「量ではなく質」にフォーカスし、的確な刺激を与えることで、限られた種目、セット数でも十分な結果を得ることは可能です。この解説がトレーニングに真剣に向き合うボディビルダーのみなさんにとって、何かしらの気付きやヒントになれば幸いです。(完)
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