9月14日(日)、岩手県・盛岡市民ホールで開催された『オールジャパン・フィットネスチャンピオンシップス2025』(以下、オールジャパン)。
「オールジャパンの2週間前に救急車で運ばれたんです。正直、大会も諦めなくちゃいけないのかな、ここで終わりなのかなという思いが頭をよぎりました」
こう話すのは、小倉あれず(おぐら・あれず/28)選手。ビキニフィットネスカテゴリーで活躍し、このオールジャパンでも「ビキニフィットネス158cm以下級」で優勝。昨年に続いて2連覇を飾った。
「ボディビル」は回復薬
輝かしい成績だったが、その裏では冒頭のような波乱のエピソードがあったようだ。救急車で運ばれたのは激しい腹痛のため。正確な病名は不明だが「腸が動いておらず、消化吸収ができていない」と言われたそうだ。
「体重が5kgぐらい一気に増えました。何をしても出ないから何をしても落ちないし、むしろ増えていく。大会もどうしようか本気で悩みました」
そんな小倉選手に効果的だったのが「休養」と「ボディビル観戦」だった。
オールジャパンの1週間前・9月7日は、千葉県で体重別の日本一を決める『日本クラス別ボディビル選手権大会』(以下、クラス別)が行われた日だ。ボディビル観戦が好きな小倉選手は、片道3時間かけて現地へ行ったという。
「メンタルも体調もめちゃくちゃ落ち込んでいたタイミングでした。だから元気を出すために行ったんです。減量末期の長時間移動で疲れているはずなのに、翌日2kg落ちたんですよ!」
これには自身も驚いたそうだが、「多分メンタルが回復したんだと思う」と小倉選手。カテゴリーは違うが、同じ競技者だからこそ感じるものがあるのだとか。「ボディビル観戦して元気をいただいて、本当に助けられました。自分の回復薬なのかも」と笑う。
何もしない大切さ
クラス別の観戦後、小倉選手は「基本的に何もしない」ようにした。
「普段は大会の3日前までトレーニングするんです。しかし今回はみんなに『休みなさい』と言われて、休む選択肢をとりました。有酸素も筋トレもやめて、ポージング練習とストレッチだけ。ちょっとカロリーも上げてみました」
正直不安だったそうだが、この選択肢は「吉」と出てさらにストンと体重が落ちた。救急車で運ばれる前と比べたらマイナス7kg。
この日のために1年間準備をしてきた。そして1年間取り組んできたことの答え合わせをしたかった。「出られないかも」と本気で悩んだからこそ、オールジャパンを迎えられたことに「安心と感謝の思いが溢れた」と言う。
小倉選手の次戦は、10月12日に行われる『グランドチャンピオンシップス』。今回の学びを糧に、小倉選手自身も元気を与えられる存在になっていくだろう。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材・文:小笠拡子 撮影:中原義史
小笠拡子(おがさ・ひろこ)
ボディビルにハマり、毎年筋肉鑑賞への課金が止まらない地方在住のフリーランスライター。IRONMAN・月刊ボディビルディング・Woman’s SHAPEなどで執筆・編集活動を行う。筋肉は見る専門で、毎月コツコツ筋肉鑑賞貯金をしている。