昨年の日本選手権では11位に後退し、引退を思い描いた須山翔太郎。だが、10年ぶりに挑んだ日本クラス別選手権で掴んだ勝利は、ただのタイトル獲得ではない。目の前に続くのは、戦友・木澤大祐が刻んだ轍。輝きと自信を、取り戻すときがきた。
[初出:月刊ボディビルディング2025年11月号]
──優勝、おめでとうございます。すばらしい勝利でした。
須山 ありがとうございます。ここで〝いい状態の須山〟を見ていただいて、昨年のイメージを払拭してから日本選手権に挑みたいという思いがありました。もちろん優勝できたことに、うれしさは感じています。ですが、それ以上に、昨年とは異なる身体をみなさんに見ていただけたことが、何よりもうれしいです。
──ここまでの軌跡を振り返っていただきますと、まず23年のシーズン後、食事にパイナップルを加えたそうですね。
須山 僕は毎年、シーズンが終わると次に向けていろんな食材を試したり、トレーニングを見直したりするんですが、そうした中で、たまたま食べたのがパイナップルでした。
──2016年に75㎏級に階級を落として以降、胃腸の不調に悩まされていました。
須山 それが、パイナップルを食べるようになってから、調子がよくなっていったんです。調べてみたら、タンパク質分解酵素のブロメラインが豊富に含まれているらしくて。それで昨年はオフのあいだに久々に体重を83㎏まで増やせました。
──ここ数年間はオフシーズンに80㎏台にのせられないのが悩みでした。
須山 昨年の日本選手権は78㎏で出場するつもりだったんですが、9月の初旬と下旬に2回、風邪を引いて、大会当日は76㎏まで減ってしまいました。でも、手応えはありました。

記事が掲載されている月刊ボディビルディング11月号
──そして、トレーニングも見直した?
須山 昨シーズンが終わった後にトレーニングフォームを修正したら、それがうまくいきました。大雑把な説明になりますが、具体的には胸郭、胸腔、インナーマッスルなどの使い方を意識しました。その感触がすごくよくて、さらに呼吸エクササイズも加えるようにしました。胃腸の調子が回復し、食べられるようになったこと。トレーニングの根本的な見直し。その相乗効果で、身体がよくなっていきました。
──今回のコンテスト体重は?
須山 今年のオフは84㎏まで増やせて、大会3日前の段階で79・6㎏、前日が79・2㎏、当日の検量は78・3㎏でした。今回は、79㎏でステージに立ちたいと思っていたんです。でも、大会前に本当はもう少し食べようと思っていたのですが、不安もあったので、ここではカーボアップは避けました。もう、その時点で筋肉の張りは感じていたので、今回はここでとどめようと。だから、結果的に当日は79㎏を下回ることになりました。
自分としては、そこでもう少し攻めていたら、もっといい仕上がりになっていたかもしれないという思いはあるんです。ただ、胃腸の調子がまた崩れはじめていたので、無理は避けました。
──SNSなどにも、その仕上がりを絶賛する声が多くあがっています。
須山 でも、僕としては、ピークを外してしまった感があるんです。「他の選手たちはここからさらに仕上げてくるから、日本選手権ではどうなるか」みたいな声もあるようですが、僕もこの状態のまま日本選手権に出場するわけではありませんから。自分の中には、まだ伸びしろはあります。
──日本選手権を前に、いい感じで答え合わせができた?
須山 感覚的には、それに近いかもしれません。最終調整までの計画を立てて、それに沿って実行して、その結果が評価されたということなので。「たまたまコンディションがよくなった」というわけではありません。だから、再現性も高いんです。もっとこのように調整を進めたら、もっといいコンディションになる、という実感は掴めました。
──昨年の日本選手権では11位まで後退しました。見事な復活劇です。
須山 (昨年優勝した)木澤(大祐)さんの姿が、大きな励みになりました。木澤さんも(17年に)11位になって、そこから優勝するという前例を見せてくれました。引退を考えたこともありましたが、今年を含めてあと3年、やり抜く決心をしました。
その3カ年計画の中で、今回の日本クラス別の時点での達成度は、30%ほどなんです。だから、僕の感覚としては、「まだまだ」です。ただ、これだけの評価を得られたので、「この段階で、そんなによく見えるんだ」という自信にはつながりました。
──今年の日本選手権で、目標としている順位はありますか。
須山 順位を目標にするのではなく、「自分の身体をどこまで高めていくか」という意識が先にあるんです。そういうマインドでいる自分は、多分、強いと思います。精神状態も、昨年までとはかなり変わっています。ただ、順位に関してはそうなんですが、今回のこのような結果、例えば昨年度2位の嶋田(慶太)選手に勝ったとなると、みなさんがそれまで思い浮かべていたことも、変わってくると思うんです。だから、この先どんな結果が待っているか、僕自身も予想はつかないです。
──今回の優勝は、須山選手自身にとっても大きな意味を持つものではないでしょうか。
須山 おそらく僕のボディビル人生の中で、かなり大きな意味を持つ大会になったと思います。昨年までの僕は、引退するかどうかの瀬戸際に立っていましたからね。そこからまた、自分の可能性に楽しみを感じながらボディビルに取り組めるようになりました。ありがたい人生を送らせてもらっていると感じます。
──大会後の反響も大きかったと思います。
須山 木澤さんからはLINEで「めちゃくちゃうれしかった。日本選手権、楽しみにしてます」というメッセージをいただきました。会場には佐藤(貴規)さんが応援にきてくれて、僕が優勝した瞬間、すごく喜んでくれたそうです。本当にうれしく思います。
──同じ時代を生きた戦友たちですね。そうした〝平成世代〟の40代以上の選手たちも、日本選手権のトップ12に名を連ねる数は少なくなりました。そうした状況のなかで、ご自身はどんな役割を担っていくべきだと感じていますか。
須山 俯瞰すると、日本選手権はベテランと若手が混ざっていたほうが面白いんじゃないかなと思うんです。そういう意味では、僕が大会を盛り上げられるなら頑張りたいという気持ちはあります。
──世代闘争はスポーツの醍醐味の一つでもあります。
須山 おそらく多くのボディビルファンが、この日本クラス別を境に、日本選手権の予想をリセットせざるを得なくなったと思います。昨年は木澤さんが優勝し、その記憶がまだ鮮明に残っているなかで、「もしかして……」という雰囲気があるのは楽しいですよね。そんな〝エンターテインメント〟を作れているのがうれしいです。やっぱり、たくさんの人に見て、楽しんでもらうのが一番ですから。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:中原義史
●すやま・しょうたろう
1981年9月26日生まれ/44歳/東京都出身/身長172cm /体重は78.3kg(オン)、84kg(オフ)/トレーナー/2015年日本クラス別80kg以下級優勝。2016年世界選手権75kg級3位。2017、2019年日本選手権2位。2016、2018、2021年日本選手権3位。
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