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「世界の怪物たちと戦いたい」バルクモンスター・寺山諒の見据える日本一・世界への『計画的野望』

2025年日本男子ボディビル選手権4位
第3回ジュラシックカップ グランドクラス優勝
寺山諒

寺山諒選手がボディビル競技を始めた当初から掲げていた、「日本一」と「世界で戦う」という目標。しかし「まだ手に届かない」という理由から、これまであまり明確に口にしてこなかった。しかし、ついに「日本一を狙う」という言葉を放つ。見据える未来と抱く野望について明かしてもらった。

取材・文:小笠拡子 写真:中原義史 Web構成:中村聡美

日本一を狙うためにトップ3から優勝へのマインドへ

━━10月12日開催の日本選手権、その1週間後にはジュラシックカップでした。激闘を振り返ってみて、感じたことはありますか?

寺山 ジュラシックカップでは優勝できましたが、扇谷選手だけではなく他の選手と比較しても、自分自身はまだまだ身体の面や、メンタリティの面の水準など足りていない部分が多いと思いました。うかうかしていられないと言いますか……。気持ちとしては、もう来年に向けて始まっています。
ボディビルを始めたころに立てた2軸の目標が「日本一になること」と「世界で戦うこと」。これまでは「日本一を狙う」という目標に手を伸ばせず、トップ6に入るとかトップ3に入るといったメンタリティでいました。ですが、もう「日本一を狙う」段階に差し掛かっている。トップ3を狙うマインドには一度区切りをつけて、このオフシーズンから、しっかりと日本一を狙うマインドを置いていこうと考えています。

2025年日本選手権では前年5位から1つ順位を上げ4位に

━━寺山選手にとって「日本一を狙う」と言うのは、かなり重たい言葉なんですね。

寺山 そうですね、見栄を張って「日本一狙います」とは答えられない。ゲストポーズのインタビューでも「今年は優勝を狙っていますか?」と聞かれましたが、「将来的には狙っていくけれども、今年できる目標」を返事にしました。本当にやりきってこないと言えない言葉、それほど重い言葉です。
ボディビルってラッキーパンチのような「偶然」で決まる競技ではないですよね。良いものを作れなければ、一発で順位も変動してしまいます。いくら頑張っても届かないような高すぎる目標を立ててしまうと、競技が楽しくなくなってしまうと思うんです。
だから現実的に手が届く範囲の目標をしっかり設定し、そこに向けてやりきる。それで結果どうかっていう積み重ねをしていった方が、確実に伸び続けてくれるんじゃないかなと考えています。

━━過去に届かない目標を立ててしまったことで、嫌になった経験は?

寺山 それはあんまりないですね。ですが、「若気の至り」のような勢いで目標を立てたことはあります(笑)。それは、自分の競技デビューでもある『ベストボディ・ジャパン札幌大会』でした。
このときのエントリー数は70名。普通に考えたらめちゃくちゃ多いんですが、「絶対優勝してやる」という気持ちで臨みました。結果的に優勝できたので良かったですが、当時は大学生で若かったということもあって、身の程知らずでしたね(笑)。

━━これまでとは違い、日本一が射程圏内に入ってきました。トップ3を狙うメンタルと1位を狙っていくメンタル、何がどう違うのかが知りたいです。

寺山 最終的には、大会当日のステージでこれまでの積み重ねが現れます。つくり上げてきた身体だけでなく、ポージングとか表情とかの雰囲気、つまり「目で見えない」部分が、最終的に審査員に伝わるのかな、と。そういった部分は、自分の中に秘めた自信から生まれると思うんです。そしてその自信は、1日1日の積み重ねでしか得られないもの。
だから何か行動するにしても「日本一(になるために)」を枕詞にするイメージでこのオフシーズンを大切に過ごしていきたいと考えています。
たとえばトレーニングにおいて。常に出し切ることは意識していますが、出し切る中でも「どういう質で出し切るのか」、「本当にもう1レップいけないのか」という自問自答をし続けて取り組むことで、より高い水準の1レップが可能になります。
このようなマインドで積み重ねることが、来年の身体の進化にもつながるはず。何かを大きく変えるのではなく、小さなことでも強いマインドで取りこぼしのないようにやっていくことが自分にとって重要なんです。日本選手権のトップ層ともなると、少しでも取りこぼしたり、自分の限界値を更新していかなかったりすると、簡単に順位が変わってしまうような時代にはなってきているので。

第3回ジュラシックカップ時。日本選手権からちょうど1週間、気を抜かず減量を継続してきたという

寺山諒が考える「1レップの質を高める」とは

━━1レップの質を高めるとは、寺山選手にとってどういうことなんでしょうか?

寺山 1レップの中に関わる要素ってたくさんありますよね。TUT(※)の時間、可動域、テンポ、可動域の中の挙上スピードのコントロールとか。こういった要素を「去年よりも濃くしていく」というイメージです。

※ Time Under Tension の略。トレーニングの 1 セットの中で、筋肉が負荷にさらされて緊張している時間のこと

たとえば同じ重量・回数だとしても、去年より筋肉で負荷を受けて、筋肉がちゃんと伸びている・縮んでいるというのを感じられているのか。最後の1レップのときにきつくなって、体幹部の状態が崩れてエラー動作になっていないか、可動域が小さくなっていないか、とかですね。
筋肥大という指標で考えると、「重さ×回数」が伸びていけば、数字上ではそれが実際に筋肥大する目安になります。ここを伸ばしていくのは、根本的に絶対大事だと思うんですけど、そこだけ伸び続ければ良いかと言うと、そうでもないと考えています。

━━質の向上の測り方は?

寺山 完全に感覚です。自分でもこの感覚はかなり良い方だと思うんです。同じ重さでも前回よりも軽く感じるなとか、関節周りのこわばる感じがないな、筋肉が伸び縮みしているな、とか。客観的に見たら毎回同じようなトレーニングをしていると思われるかもしれませんが、自分の中では質がどんどん上がってきているなっていう感覚があります。
また、こういった感覚はトレーニングノートにも残していて。見返すことで質の向上を改めて認識していますね。

━━どういうふうに書き記していますか?

寺山 腹圧の入れ方が悪かったとか、テンポが良くないとか、ラスト1レップは最後まで挙がらずに半分しか挙がらなかったとか。そういった改善点や、できたことをノートの余白に書くようにしています。たとえばショルダープレスのときに、「胸椎は伸展して、腰椎の伸展を抑えたまま最後に出力しきれた」とか。そういったことを書きます。
さらに、減量が進むとベルトを締める穴の位置も変わってきますよね。なので、種目によってはどの位置で締めたのか、タオルをベルトに挟んだ、など細かいところも残すようにしています。かなり細かい部分ですが、マシンのシートの高さまで書きますよ。特にハンマーストレングスのマシンだと、高さを若干ズラすことができるので「4・3」という感じで書くことも(笑)。

トレーニング撮影日:2025年9月(撮影:舟橋 賢)

━━緻密なデータですね!書く理由としては過去の自分と比較するためでしょうか。

寺山 こういった細かな設定まで残しておくことで「この体重付近なら、この設定をすれば良いパフォーマンスが出せるな」と分かるので。設定がズレてしまうと、筋肉への刺激の入りが悪くなったりするので、なるべく一定にしたいんですよね。胸・背中・肩・腕・脚の部位ごとにノートを分けているので、1年前の設定は見返しやすいです。
毎日測っているわけではないのですが、定期的に測った体重も記すようにしています。減量が進むと、種目によっては重量が落ちてくるので……。残しておいた去年のデータを見ると、落ちていく許容範囲がより分かりやすくなるんです。「落ちてしまった」という不安要素をなくすために、体重も書きます。

新たな取り組みは体重管理
自分だけの武器を搭載する

━━日本一の座をつかむための戦略として、他に何か考えていることがあれば教えてください。

寺山 最終的にステージで評価してもらうのは、メンタリティではなく「当日の身体」です。なので、やはり一番の要になってくるのは、「サイズアップを図る」こと。あとは「仕上がり面のクオリティを上げること」です。
ただ、この「サイズアップ」と「仕上がりのクオリティを上げる」ためには、根底にある「メンタリティを引き上げること」が自分にとって重要になってきます。来年に向けてもう始まっているので、先ほど述べた1レップ1レップの質を去年よりも高くしていって、筋肉に対する負荷も上げていくようなところを今実際に取り組んでいます。

━━仕上がりの面については、減量幅なども関係してきそうですよね。

寺山 はい。なので、すでに体重管理も意識しています。今シーズンの減量始まりの体重が97・8㎏でした。そして、今年は減量期間が7カ月だったんですけど、ラスト1カ月くらいはやはり少し疲れが出てくる日が多いなっていう感覚があって。
来年は減量期間を5〜6カ月程度にしたいと思っています。それぐらいの期間だと、身体も元気な状態で、シーズンの最後まで走り抜けられそうなスタミナだと感じたので!そこから逆算すると、体重は10〜11㎏ぐらいの増加、つまり92〜93㎏あたりで収めたいですね。来年の減量が今年よりも楽になるような体重の上限設定です。

━━寺山選手にとって初挑戦なのでは。

寺山 はい、新たな取り組みではありますが、食事内容をガラッと変えるような変なことはするつもりはありません(笑)。減量食を少し増やし、そこに野菜を加えるだけです。こういった変化は、変な失敗するリスクがあまりないと思うので、来年の身体にどう影響するのか。自分自身もそこが楽しみですね。―

━━寺山選手といえば「THEボディビルダー」という評価をよく耳にします。ご自身でもそれが強みだと感じていますか?

寺山 そう言っていただけるのはありがたいのですが、正直、自分は「THEボディビルダー」だと思っていないんですよね(笑)。それよりも足りない部分に目が行ってしまうというか……。まだまだ足りないところだらけだよなぁって。多くの人が自分の良さよりも、コンプレックスの方を意識してしまうのと一緒だと思います。
日本一を狙うために必要不可欠なサイズアップですが、自分の平均値を上げつつ、ウィークポイントを平均値あるいはそれよりプラスにしたいです。自分の中で特に課題だと捉えているのは脚のサイズ。具体的に言うと、サイドポーズをとったときの脚の厚みです。四頭筋のピークと、ハムストリングのピークをしっかり出して、上半身に見劣りしない厚みを作ることが今後は絶対必要になってきます。

━━今のバランスのままサイズアップをし、仕上がりのクオリティが高くなると、相当な武器になりますね。

寺山 今年の日本選手権の上位3名と比べて感じたことの一つが「自分には圧倒的な武器がない」ということでした。トップ選手たちは、みなさん本当にバラバラの身体ですし、「極み」たちがたくさんいます。課題を少しずつクリアして、自分の武器となるものを搭載したら、来年は今年より良い身体になる。そうした自信を胸に秘めて、臨みたいです。

2025年日本選手権セカンドコール。左から渡部選手(5位)、寺山選手(4位)、須山翔太郎選手(7位)、喜納穂高選手(6位)、嶋田慶太選手(3位)

2つ目の目標は「世界」
ユーザーと戦う道を選ぶ背景

━━寺山選手が掲げるもう一つの目標が「世界で戦っていくこと」でした。「日本一になる」という目標は、世界のための通過点という考えなのでしょうか?

寺山 いえ、完全に別物です。日本一になることと、世界で戦っていくっていうことは、比べられないくらいどちらも大変なことなので、通過点にもできないですね。また、「日本一にならなければ、世界と戦ってはいけない」というふうにも考えていません。だから目標は2軸なんです。

━━ご自身の中で切り離しているんですね。では、そもそも世界を意識するようになった背景を教えてください。

寺山 自分自身、16年間野球をやってきました。そういった競技者としての考え方的なところが影響しているのかなと思います。野球業界って日本だけではなく、みんな世界を目指したり、実際に世界で戦ったりしているんですよね。スポーツの最高峰って、やっぱり「世界」なんです。
自分は野球でプロになることもできなかったですし、日本代表として世界と戦っていくっていうこともできなかった。でも、ボディビル競技に出会って、世界と戦う可能性がつかめる、そういった環境があるっていうことを知りました。このような背景もあって、ボディビルを始めた当初から「いずれは世界と戦っていきたい」と思うようになりました。

━━寺山選手にとって、世界選手権はどのようなものでしょう。

寺山 きれいな言葉で言ったら「自分が成長し続けられる刺激をもらえる場所」です。日本では出会えないような選手たちと並ぶことで、「自分はまだまだデカくなれる」というようなマインドに引き上げてくれるきっかけになるんじゃないかと。
包み隠さず言うと、(ステロイド)ユーザーの選手と戦える機会って、世界選手権でしかないんですよね。今年と来年は、世界選手権が中東で開催されます。中東開催であれば必然的にそういった選手も多くなるはず。国内のJBBFの大会ではユーザーの選手と並ぶ機会なんてないので、世界でそういった人たちと戦っていきたいです。

モンスターを制していく
今後の展開と、抱く野望とは

━━昨年、東京で開催された男子ワールドカップでは、少人数ながらも海外選手が出場されていました。ご覧になって、世界で戦うことのイメージはつかめましたか?

寺山 正直、自分がイメージしているのは2019年に出ていた身長が160㎝ほどしかないにも関わらず、仕上がり体重が80㎏級のようなモンスターを想定しています。

━━いつごろ世界に挑戦したい、など具体的なスケジュールはありますか?

寺山 それはもう来年です。中東開催なんで!しかも自分が出るとしたら、おそらく階級は80㎏級になると思います。この階級はモンスター選手がいっぱい出てくるだろうな、と。むしろ出てほしいですが(笑)。

━━非常に厳しい、茨の道ですよ。

寺山 もちろん、初めての世界選手権では、木っ端微塵にされると思います(笑)。現実的に考えても、初戦から同等に戦えるとは全然思っていないので。ですが、せっかくなら自分が挑戦する年に、一人でも多くのモンスター選手に出場してもらい、ユーザーの世界を知ってこようと思います。
そして、それを自分の成長の糧にしたいですね。ボロボロの結果になることで「まだまだ満足しちゃいけないぞ」と、自分の心を奮い立たせられる。その次のチャレンジで、少しでも多くの選手を倒していきたいです。しっかり戦えるように、昨年では持ち合わせていなかったそのようなイメージを持ち、オフシーズンを過ごしていきます。

━━今年11月下旬にサウジアラビアで行われる世界選手権は、寺山選手にとって貴重な中東選手の情報源になりそうですね。

寺山 はい。現地に行かれた選手団のみなさんがSNSにアップしてくれると思うので、それをチェックしてみます。中東で世界選手権が開催されるのは久しぶりだと思うので、どういった選手が出てくるのか見るのが楽しみですね。
自分がこれから戦っていくであろう、具体的な選手像があると、日々のトレーニングでギアを一段階上げることができますから。

━━世界一になるのが最終目標ですか?

寺山 そこは、正確に定まっていません。まずは「世界で戦うこと」を据えて励んでいる段階で。挑戦してみて、自分がどのくらいの順位になれるのか、立ち位置みたいなものがある程度見えてくるようになったら、より鮮明な目標設定ができると思います。

━━ボディビル競技を始めたときに立てた2軸の目標の輪郭が、どんどん鮮明になってきていますね。今後の日本選手権では「刈川啓志郎・扇谷開登・寺山諒の三つ巴になっていくだろう」という予想もあります。寺山選手にとって、お2人はどのような存在ですか?

2025年日本選手権ポーズダウン。左から扇谷開登選手、寺山選手、渡部史也選手、刈川啓志郎選手。特に扇谷選手、刈川選手に関して「自分自身の水準を引き上げてくれる、ありがたい存在」と語る

寺山 自分自身の水準を引き上げてくれる、ありがたい存在ですね。まだ何歩か自分の方が2人の後ろにいるので、彼らにちゃんと追いつきたいです。そして、誰が優勝してもみんなが讃え合えるような、全員が「やり切った」と言える試合を、今後できるように日々頑張っていきたいです。

てらやま・りょう
1995年9月12日生まれ/東京都出身/身長 170.4㎝、体重 82.7㎏(オン)97.8㎏(オフ)/パーソナルトレーナー
【主な戦績】
2019年東京オープンボディビル選手権75㎏超級優勝
2021年東京ボディビル選手権2位2021、2023年日本クラス別ボディビル選手権80㎏以下級3位
2024年日本クラス別ボディビル選手権80㎏以下級優勝
2024年日本男子ボディビル選手権5位
2025年日本男子ボディビル選手権4位
第3回ジュラシックカップ グランドクラス優勝

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