経験豊富な選手ならば、感覚だけで最適解を導き出せるかもしれない。しかし、万人がそうではない。選ばれし強者たちと肩を並べるために必要なのは、闇雲な人体実験の繰り返しではなく、科学的根拠に裏打ちされた緻密な戦略だ。
そこで本記事では「ナチュラルボディビルディングを語る②」として、NBA 初の栄養士であり、自身もアスリートとして活躍するダグ・グラント氏が解説する身体の状態を客観視する「バイオマーカー」の重要性と、それに基づく栄養摂取についての最新事情報告をまとめて紹介する。
(IRONMAN2026年3月号「from IRONMAN USA」より転載)
著者プロフィール
ダグ・グラント
「ザ・フォーミュレーター」の異名を持ち、NBA 初の栄養士として多くのアスリートをサポートしてきた。また、彼自身、試行錯誤を重ね、何十年にもわたって「ホリスティックヘルス(総合的な健康)」と競技能力向上のための方策を研究するパイオニアとして、多くの医師やエリートアスリートに支持されている。
パートナーのデニー・ケイコス氏とともにナチュラルボディビルにスポットライトを当て、現『アイアンマンマガジン』の復活に尽力している。プッシュアップの元世界記録保持者、パワーリフティングの世界チャンピオン、INBA/PNBAの殿堂入りアスリート。また、ナチュラルオリンピア・フィギュアマスターズ・チャンピオンである妻ヒラリーのコーチを務めている。
理論か?感覚か?

理論的な「トライ&エラー」が成功を呼ぶ
トレーニング経験が長い人は、自分に合うメソッドをいくつか確立しているはずだ。だが、その仕組みを明確に言語化できる人は少ないのではないだろうか。例えば、世間では高タンパク質食が一般的でも、中には炭水化物も十分摂取した方が出力も回復も向上し、結果として筋量を効率的に増やせる事例もあるからだ。結局、流行や教科書通りのやり方に左右されず、自分に適した方法を見つけることこそが最も効率的だと言えるだろう。
これは正論ではあるが、ある程度の指標がなければ単なるトライ&エラーの繰り返しであり、貴重な時間の浪費になりかねない。
そこで紹介したいのが、自分の身体の状態を数値で確認する「バイオマーカー」だ。現在のトレーニングや食事が筋発達にどう影響し、ホルモンや疲労回復がどう進んでいるのかなどが数値として確認できる。
ここからは少々宣伝を兼ねた話に入っていく。宣伝なら興味はないという人もいるだろうが、アメリカバスケットボールリーグのNBA を始めとした競技アスリート、そしてボディビルを含むフィジーク系アスリートたちも実践している方法だ。
このサービスを提供しているのは「ニュートリエンツRX(nutrientsrx.com)」社であり、私はその技術の開発者である。メーカーの売り込みだというならここで止めておいてもらって構わないが、興味が湧いてきたという人はぜひ読み進めてほしい。
血液は情報の宝庫
ニュートリエンツRXがまず行うことは、被験者(選手)の血液を採取することだ。被験者から摂取した血液は情報の宝庫であり、採取した血液にさまざまな試薬を添加することで、体内で起こっていることが明らかになる。ここでの私の仕事は、試薬を添加した血液を追跡し、被験者に何が足りないのかを推測することだ。実際、このバイオマーカーによって被験者の身体の状態を客観的に判断できる。そして、この検査結果をきっかけに、優秀なアスリートが偉大なレジェンドに変貌を遂げていく様を私は何度も目の当たりにしてきた。
現状維持で満足ならともかく、どんなアスリートも常に高みを目指しているはずだ。しかし、そのレベルに到達するのはトライ&エラーで目指せるほど簡単ではない。そこでバイオマーカーが効力を発揮する。何が不足しているのか、何が効率的な最適解か。それを指し示すのがバイオマーカーであり、バイオマーカーのノウハウを開発した私たちニュートリエンツRXなのだ。
根拠のあるアドバイスを提示できる
私たちの身体は多くの点で共通しているが、個体差もある。実際、似たような身体つきの人でも、血液や唾液、尿を解析すれば、その違いが歴然となる。例えば、同じ内容のトレーニングを行っても、疲労回復の速度や筋肥大の反応は一様ではない。
バイオマーカーを見ると、筋肉の損傷を示すクレアチンキナーゼ、持久力に重要な鉄の貯蔵量を示すフェリチン、ストレスの度合いを示す異化分解ホルモンのコルチゾールなども数値で示される。そしてそれらの数値から、強度を調節するタイミングや不足栄養素、睡眠の過不足などについても判断することが可能になる。もちろん、スランプやプラトーに陥って競技成績が停滞したときも、その原因を探る手がかりとして役立つ。
他にも、ビタミンDレベルが低いケースがよく見られる。この数値が低いと筋力やパフォーマンスの向上は望めない。バイオマーカーでビタミンD不足が出たら、私はまず運動強度を下げ、食事療法で体調を整えることから指導する。
また、超高強度プログラムを実施しているアスリートの場合、バイオマーカーはオーバートレーニング回避に役立つ。過度な負荷は肝臓や腎臓のダメージリスクを高めるが、数値をモニタリングすることで内臓機能の低下を未然に防ぐことも可能だ。
検査はカスタマイズできる時代

アスリート向けのバイオマーカー検査を提供している会社は、ニュートリエンツRX だけでなく他にも存在している。一般的には、検査と指導はセットで行われるが、自分のバイオマーカーを知るだけでも、トレーニングや食事を自分なりに見直すことができる。それぞれの目標に合わせて主要なバイオマーカーを測定してもらい、自分の現状を確認しよう。
バイオマーカーの主要項目
テストステロン
テストステロンは、筋発達を促す上で非常に有用である一方、オーバートレーニング、睡眠不足、カロリー不足の影響を受けやすい。
『ジャーナル・オブ・ストレングス&コンディショニング・リサーチ』誌に掲載された研究によると、テストステロンが慢性的に低いアスリートは疲労回復が遅く、筋肉へのタンパク同化率が低い傾向にある。
そのため、バイオマーカーで数値が低かったアスリートに対しては、トレーニングボリュームの調整や、脂質の増量など、テストステロンを最適な範囲に保つための調整を行う。
C反応タンパク質
身体の中で炎症が起きると、血液中のC反応タンパク質が増加する。この数値が上昇すると筋肉の異化分解が促され、エネルギーが浪費される。C反応タンパク質が上昇しているときは、できるだけ身体へのストレスを軽減した方が良いとされている。そのため、運動強度を抑え、食事の摂取を心がける。
鉄分
バイオマーカーでフェリチンやヘモグロビンのレベル低下が検出されたときは、鉄分不足だと判断できる。鉄分が不足すると疲労が抜けづらく、パフォーマンスは劇的に低下する。
アルブミンや尿素窒素
アルブミンや尿素窒素は血中に多く含まれるタンパク質であり、どれだけのタンパク質が筋中に運搬されているかを知ることができる。
たとえ体重1kg あたり2g のプロテインを摂取していても、これらの血中レベルが低ければ、筋肉へ届いていないと判断する。この場合、食材の種類を変えたり、1回の食事の摂取量、摂取タイミングなどを調整したりなどして状況を改善する。
亜鉛、マグネシウム、ビタミンB12
これらが不足している場合、エネルギー不足や疲労回復能の低下が疑われる。その場合、食事による改善が基本だが、不足分をサプリメントで摂取しても良い。
検査会社の多くは、不足している栄養素のサプリメントパックを提供している。自分の検査結果に沿って構成されているので、市販のサプリメントを自分で組み合わせるよりも効率が良い。それらを活用して一気に問題を解消するのも一つの手だ。
長期計画に組み込む
バイオマーカーで得られる項目の数値は、トレーニングや食事の内容、生活スタイル、ストレスなどによって変化していくものだ。
バイオマーカーを利用して最善のトレーニングや食事プログラムを組みたいなら、できれば3カ月ごとの定期検査を受けることを勧めたい。
夢を現実にするために

私はこれまでに多くのアスリートのバイオマーカー検査に立ち会い、、プログラムづくりに関わってきたが、中でも印象的だった選手のことについて少し触れておきたい。彼はバイオマーカー検査によって低マグネシウム、低炭水化物と判断されたので、炭水化物の摂取量を増やす指導を続けていた。その結果、競技能力に著しい向上が見られ、最終的には自己新記録を樹立することに成功した。彼は努力家であったにもかかわらず結果が伴わないことに苦悩していたが、バイオマーカーと出合ったことでようやく努力が実を結んだに違いない。
私としては、ニュートリエンツRX の宣伝をしたいわけではない。バイオマーカーを用いることで、当て推量で失敗するリスクを減らすことができることを知ってほしい。
トライ&エラーにも意味はある。しかし、それが時間、経済、エネルギーを無駄にするリスクは非常に高い。そんなリスクを少しでも減らしたい、あるいは効率良くゴールに向かいたいという人には、バイオマーカーは試す価値があるだろう。
血液や尿の解析から得られる情報は非常に多い。興味がある人は、ニュートリエンツRX のサイトにアクセスするか、もしくは「アスリート バイオマーカー」などのワードでネット検索してみてほしい。
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