ジュニア世代の栄養戦略は、単に「タンパク質を増やせば正解」ではない。成長期にまず確保すべき食事量(総エネルギー)、タンパク質の“取り過ぎ”が招く落とし穴、脂質と糖質の組み立て方、そして女子選手の脂質目安量まで。ジュニア競技者が迷いやすいポイントについて、東海大学の安田純先生に話を聞いた。
取材・文:月刊ボディビルディング編集部 Web構成:中村聡美
最初に見るべきは「エネル ギー量」
まず、ジュニア世代(23歳以下)でもそれ以上の大人でも、取るべき栄養素そのものは大きく変わらないと思います。ただ、ジュニア世代で私が強く意識してほしいのは、栄養素の配分以前に「食事量」、つまり1日のエネルギー摂取量をまず確保することです。特に増量期は、タンパク質を増やす以前に、エネルギーをどのように確保するかが出発点になります。
成長期にあるジュニア世代は、成人と比べても組織の合成や代謝が活発であり、骨や筋肉の成長のためのエネルギー必要量が極めて高い状態にあります。だからこそ、まずは成長の土台である必要な食事量(総エネルギー)を確保する。その土台があって初めて、栄養素の話が成立すると私は考えています。
増量期のタンパク質摂取量は体重1㎏あたり1.62gが「天井」
次に、多くの選手が気になるであろうタンパク質摂取量です。増量期に最適な摂取量に関しては、体重1㎏あたり1・62gという値が、現状もっとも信頼できる数字だと見ています。タンパク質研究者の方々も納得しやすいラインだと思いますし、必要量であると同時に天井効果、つまりこれ以上の摂取は効果が期待できないラインでもあります。これ以上タンパク質を取っても、余剰分は結局エネルギーとして使われていきます。
ここで押さえておきたいのは、タンパク質はそもそもエネルギーになりにくい栄養素のひとつだという点です。学術的には摂取したタンパク質の30%は代謝の過程で熱として利用されてしまいます(糖質10%、脂質3%)。エネルギー確保&運動時のエネルギー利用を考慮すると、糖質を多めに取る方向に振っていただいた方が合理的だと考えています。若年者には高齢者のようなアナボリックレジスタンス(タンパク質の吸収・利用の鈍さ)はほとんど見られないと思いますので、タンパク質必要量は最低限に置き、身体の代謝で使われていくエネルギーを補填してあげるほうが、結果として筋肉づくりの効率を落としにくいと考えられます。

しかし実際には、「ボディビル競技者なら、タンパク質は体重1㎏あたり2g、3gは当たり前」という信仰ができてしまっている印象があります。私としては取りすぎだと思いますし、体重1㎏あたり3gはどう見てもやりすぎです。そこまで取ろうとすると、相当タンパク質を意識して食事メニューを組まなければいけません。そうすると他の栄養素が取れなくなってきます。さらに、タンパク質の消化吸収にも限界があるため、未消化のタンパク質が腸に届いてしまうと浸透圧による下痢や腸内環境の悪化も起こり得ます。
ただし、減量期はエネルギー不足の状況になりますので、タンパク質もエネルギーとして使われやすく理論上必要量も上がります。研究では2g、場合によっては2.4gで筋量維持の報告をしているものもあります。そのため減量期は体重1㎏あたり2gほど摂っても問題はないかと考えています。
PFCバランスの決め方
ここまではタンパク質の話をしましたが、同じく糖質をどれくらい取るべきかは、ボディビルでは一律の基準が作りづらいのが実情です。有酸素を全くやらない人もいれば、しっかり入れる人もいる。1日の身体活動量が大きく違うからです。
私がおすすめする計算方法を紹介します。まずメンテナンスカロリーを把握し、1日のエネルギー摂取量を決める。次にタンパク質を1.62g/㎏に設定します。タンパク質は1gあたり4キロカロリーですので、そこを差し引けば残りの摂取できるカロリーが出ます。残りを糖質と脂質に分配するのですが、糖質が計算しづらいなら、脂質を先に決めると組み立てやすくなります。
脂質は、厚生労働省の食事摂取基準でも総エネルギーの20〜30%程度が推奨されています。ボディビル・フィットネス競技者の場合は25%程度を設定し、残りを糖質に配分する方法を取れば良いのではないでしょうか。もちろん、例えばクロスフィットもやる、有酸素も好きだという選手なら、糖質の割合を高めにするなどの工夫は必要になります。
特に女子選手は脂質に注意
脂質はホルモンの材料にもなります。肌が乾いてきた、生理不順が続いているという選手は、脂質量を1日に摂取する全体カロリーに対して20%から25%、30%へ調整するのもひとつの方法です。普段の食事スタイル的に30%になってしまう人がいても、私は大きな問題だとは思いません。ただ、50%となるとケトン食に近くなってきますので、またそれは特殊な食事方法になってきてしまいます。一旦脂質を30%にしてみて、軟便などが出るなら脂質の割合を下げ、糖質を動かしてみてください。ここで述べるのは目安であり決まりではないです。自身の状態に合わせてコントロールしましょう。

脂質は「あぶら」なので、フィットネス競技者が嫌う体脂肪とリンクされやすいです。もちろん、脂肪をつけたくない気持ちは理解できますが、脂質自体が脂肪をつけるわけではありません。脂肪がつくかどうかはエネルギー摂取量の問題ですので、栄養素を悪にしないでほしいです。栄養素の偏りは、ホルモンバランスが不安定になり得ますので、ご注意ください。
P・F・Cそれぞれのおすすめ食材
まずタンパク質源は、現状のエビデンスベースでは動物性と植物性で筋肉の合成に差はなさそうですが、摂取できるのであれば動物性から優先的に取ることを考えてください。筋肉の合成には必須アミノ酸がポイントとなるため、卵、牛肉、豚肉、鶏肉、魚など、必須アミノ酸が揃ったものが多いからです。
脂質源としては、魚やナッツ類など、不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸)を中心に取ることをおすすめします。揚げ物など飽和脂肪酸が多いものは、競技的にも健康的にも避けたほうがいいと思いますね。
糖質源は、増量期なら吸収しやすい白米など、GI値が高いものを積極的に取ってほしいです。減量期は食物繊維も重要になりますので、玄米、オートミール、全粒粉系のパスタやパンも選択肢になります。ただし、玄米や全粒粉食品で多いフィチン酸には鉄の吸収を阻害する可能性があるので女子選手で貧血が気になる場合は注意してください。貧血は酸欠状態と同様の反応が体内で起きるのでトレーニングに支障が出ます。怖がらずに白米を食べる、という選択肢もあることを伝えたいです。
P・F・Cそれぞれの安田純先生おすすめ食材
■P(タンパク質)おすすめ食材
動物性・植物性で差はないトレンドだが、取れるなら動物性を優先に。例:卵、牛肉、豚肉、鶏肉、魚(必須アミノ酸が揃いやすい)
■F(脂質)おすすめ食材
競技者は、揚げ物(飽和脂肪酸が多い)は極力避けたい。例:魚、ナッツ類など、不飽和脂肪酸(多価不飽和脂肪酸)を中心に
■C(糖質)おすすめ食材
増量期例:吸収しやすい白米など、GIが高いものをしっかり。
減量期例:白米、玄米、オートミール、全粒粉系のパスタ・パンなども選択肢。
※女子選手で貧血などを気にする場合:玄米や全粒粉系食品に多いフィチン酸が鉄吸収を阻害し得るので注意
増減量期のカロリー摂取の目安は±1000kcal
カロリー設定についても、私は極端に偏らせすぎないことを重視しています。増量期は文献的にメンテナンスカロリーからプラス500〜1000kcalが推奨されています。1日に筋肉を合成できる量には上限がありますので、プラス2000kcalのような上乗せは脂肪として蓄積されやすくなります。
減量期も、明確に危険ラインがあるわけではありませんが、マイナス1000kcal程度を目安にした方が良いと考えています。減量は生理学的に「死に向かっている状態」で、身体に強いストレスがかかります。極端にカロリーを減らしすぎるとホルモンが作れなくなったり、身体が倹約(省エネ)状態に入ったりする可能性があります。減量期に代謝を戻すための手段としてよく言われるチートミールやチートデーは、現状は研究として効能が立証されているわけではありません。基本的に増量、減量はメンテナンスカロリーから±1000kcalと考えておけば良いでしょう。
先ほどから出てくる「メンテナンスカロリー」の把握方法ですが、ウェアラブルデバイスに体重を入れて推定値を出す、厚生労働省が開示している計算式を使うなど、いくつか方法があります。ただ、どの方法でも本当の値とはズレが生じてくるかと思います。ですので、まず摂取カロリーの目安を作って食事を取り、体重が変わらないかどうかで確かめるのが一番シンプルで良いのではないでしょうか。
増量/減量期の摂取カロリーとPFCバランスの決め方
①体重が変わらない「メンテナンスカロリー」を把握する
②メンテナンスカロリーから、増量なら+1000kcal以内、減量なら-1000kcal以内に設定
③タンパク質摂取量を増量期なら体重1kgあたり1.62gに、減量期なら体重1kgあたり2gまでを目安に計算
④脂質を総エネルギー量の20~30%に設定
⑤残りのカロリーを糖質に充てる
サプリメントとの付き合い方
最後にサプリメントについて。私は、食事がしっかりバランスよく取れていれば基本的に不要だと考えています。日本では運動後のゴールデンタイムという言葉が流行しましたが、研究的には証明できていませんし、海外ではほとんど使われません。運動後のプロテインサプリメントが身体のすべてをつくりあげている、という考え方は切り離してほしいです。
皆さんの身体をつくっているのは、日々の食事です。ただし、プロテインサプリメントには利便性があります。朝に時間がないなど、ケースによっては非常に使いやすいですし、水があればいつでも取れるという利点もあります。だから結論はケースバイケースになりますが、食事で準備できるのであれば食事で問題ありません。
多くのアスリートをサポートしてきた経験上、ある程度の食事量が確保できていれば、おのずとタンパク質も取れます。ジュニア世代こそ、タンパク質だけに目を奪われず、脂質と糖質を含めた総エネルギーの設計を優先してください。それが成長と競技力の両方を支える、最も現実的な栄養戦略だと私は考えています。
安田純(やすだ・じゅん)
東京農業大学(管理栄養士専攻)を卒業の後、東京農業大学大学院(修士課程)、ELSLanguage Centers(Boston, America)、 立命館大学大学院(博士課程)修了。東京都健康長寿医療センター(研究員)、国立スポーツ科学センター(研究員)を経て、現在は東海大学健康学部健康マネジメント学科の講師、同学スポーツ医科学研究所の研究員を兼務している。











