人気のボディコンテスト「サマースタイルアワード」PRO戦8連覇を果たすボディアスリートでありながら、実はヨガ歴の長い射手矢味香さん。強さとしなやかさを兼ね備えた彼女が語るのは、身体づくりと心の整え方がつながるという確かな実感です。ヨガとフィットネスの相関について詳しく伺いました。
柔道の挫折が導いたヨガとの出合い
━━射手矢さんといえばサマスタ8連覇などで知られるボディアスリート。ヨガ歴のほうが長いと伺い驚きました。
射手矢 実は数年前、『ヨガ&フィットネス』に読者モデルとして写真を載せていただいたこともあって。
━━読者モデルに!?
射手矢 はい。ヨガは私の人生と切っても切れない大切な存在なので、今回お声をかけていただけて、とってもうれしいです。
━━ぜひヨガとの出合いやフィットネスライフでの取り入れ方など伺いたいです。まず、子ども時代は様々なスポーツに取り組んでいたとか。
射手矢 習い事はクラシックバレエに始まり、ピアノやダンス、柔道など、とにかく身体を動かすのが好きでした。中学では柔道部がなくて陸上部を選び、4種競技で全国を目指しました。けれど最終的には、柔道家であり指導者、教育者でもある父の背中に憧れて柔道を選びました。
━━高校、大学ではかなり打ち込んでいたと聞いています。
射手矢 父は世界レベルの選手を育てていたので、自分もそこに近づきたいと思ったのですが、現実は怪我との戦いで。大学最後の全日本学生選手権の直前には前十字靭帯を断裂し、もう何も見えないほど絶望してしまって。でも、そのときにふと、母が始めていたヨガを思い出して、近くの教室に通い始めたんです。

大学最後の柔道・全日本学生選手権の直前に前十字靭帯を断裂。怪我をきっかけにヨガ教室に通い始めた
━━最初はリハビリのような意味合いもあったのですね。
射手矢 最初はそんなつもりでしたが、あるときヨガのクラスで先生の言葉にハッとさせられて。「現状の自分を知り、受け入れる」という教えでした。それまで私は常に理想の自分を追い求め、他人の評価ばかり気にしていたんですよね。けれどヨガを通して、自分の身体と心の声に耳を傾けることの大切さを知りました。いつも怪我をしていたのも、きっとその声を無視して走り続けた結果だったんだなと気づかされました。
━━まさに心身の再生ですね。
射手矢 「今ここにいる自分」を受け入れること。受け入れながらどう生きていくかを"他人軸”ではなく"自分軸”で考えて判断できるようになったのは、ヨガのマインドも大きく影響しているなと思います。どん底のときにヨガで救われたからこそ、今度は私が誰かの心に寄り添える人になりたい。そんな気持ちも少しずつ芽生え始めてきました。

毎日表情を変えるバイロンベイの海で、自然に身を委ねてヨガをした日々
素晴らしいヨガ指導者に共通していること
━━大学卒業後はオーストラリアへ留学されたそうですね。
射手矢 英語だけでなく、ヨガとフィットネスも本格的に学び直そうと。滞在先は柔道の元オリンピアンのご家族のお宅でした。たまたま知人の紹介でつながったご縁だったのですが、その家では柔道教室とクロスフィットジムを運営していて、日常的にフィットネスの文化に触れる環境でした。もっとヨガを深めたいとバイロンベイに行き、7カ月間住み込みで働きながら学んだのも貴重な経験でした。

バイロンヨガセンターの仕事仲間と休憩時間にヨガ練習
━━住み込みでオーストラリアのヨガの聖地に。濃密な時間だったのでしょうね。
射手矢 一番印象的だったのは、指導していただいた先生方が皆さん、まず自分を整えてからレッスンに入っていたことです。瞑想で心を落ち着かせ、自分のエネルギーを良い状態にしてから人と向き合う。自分が整っていないと、相手にも安定を与えられない。その姿勢は、今のトレーナー業にも通じています。
━━帰国後はヨガのインストラクターに?
射手矢 はい。オーストラリアの後、バリ島でもヨガのスタジオを学び、海外の指導法を見て回るうちに、自然と「自分も発信する側になりたい」と思うようになって。ヨガを教える中で「アスリートヨガ指導員」の資格も取得し、スポーツ選手のサポートにも携わりました。自分がアスリート時代にヨガで救われた経験があったので、競技者にもその良さを伝えたいと思ったんです。

バリ島に住むヨギーの叔母と、グワン村にあるヒドゥン・キャニオンにて大自然ヨガ
ボディコンテスト女王へ挑戦を通して自分を知ること
━━その後、ボディメイクの世界へ挑戦しました。
射手矢ヨガで培ったマインドや生き方、考え方、向き合い方、自分のあり方、そういうものを伝える人になりたい。その目標のための自己ブランディングという意味もありましたし、やるならトップを目指したいという気持ちも強かったですね。
━━その志通り、サマスタでは初出場からいきなり頂点の座に。その後も無敵の快進撃を続けています。
射手矢 サマスタの私だけを知る方はそんな印象を持たれると思いますが、柔道などアスリート時代は〝二番手止まり〞ばかり。「本当はトップになりたい」と思っていても、父の教え子にはオリンピアンもいましたし、どこかで「上には上がいる」と心の中で葛藤する自分がいて。
━━射手矢さんにも葛藤や劣等感に苦しむ時代があったのですね。
射手矢 でも、その思いが逆にプラスに働いて、「柔道や陸上ではなくても、いつか何かで絶対に日本一になる」という強い気持ちにつながったのだと思います。
━━サマースタイルアワードでの連覇は、まさにその証ですね。

サマースタイルアワードとは…サマスタ、SSAと呼ばれ、夏が一番似合う男性・女性を決める大会。健康的でたくましく、スタイルが良く、そしてかっこよさを追求する大会。俳優の金子賢さんプロデュース。(写真●夏目英明)
射手矢 ありがとうございます。でも、今は勝ち続けること自体が目的ではなくて、挑戦の中で自分を知っていくことが大事だと思っています。ヨガで心の軸をつくって、ボディメイクでそれを外に出す。その両方があることで、自分らしさが形になるんだなって。考えてみるとヨガとボディメイクだけじゃなく、柔道にも通じるものがあるんですよね。
━━ヨガと柔道の共通点……パッと浮かびません。
射手矢 柔道には「精力善用、自他共栄」という教えがありますが、自分の心身の力を最大限に活用し、それを自分だけでなく社会全体の幸せのために役立てるという考えです。また「柔よく剛を制す」という言葉もよく耳にしてきましたが、柔らかさが剛さに勝るというニュアンスにも何か共通点を感じています。強さの中にしなやかさを持つこと、他者と調和すること。ボディメイクも筋肉を鍛えるだけでなく、バランスや美しさ、心の穏やかさがあってこそ完成するものですよね。それに、裸足で行う柔道とヨガの足裏感覚の重要性、道具を持たず身体一つで行う点にも通じるものがあります。
━━今伺うと、共通点は本当に色々あるのですね。
射手矢 それを考えると、自分がやってきたことで無駄なことは一つもなくて。過去のいい経験も悪い経験もすべてが財産になり、その先の未来の糧になっていくんだなって。自分のマインドが今どこにあるかわからなくなったとき、私は過去の日記を見返して自分を振り返ってみるんです。そうすると自分の本質が見えてきて、心がいったん整う。サウナで「整う」のとちょっと似ているのかもしれません(笑)。
サマースタイルアワードのベティ部門8連覇中。昨年(2024年)はサマスタ10周年の年。大きなトロフィーが贈られた(写真●SSA事務局)
日々のルーティンに息づくヨガ
━━現在は、ヨガを日常の中でどのように取り入れているのですか。
射手矢 朝起きてまず水を飲み、太陽を浴びながら太陽礼拝を1回。気分が良い日は2回行います。そのあと、近くに気持ちのいい森林があるので30分ほどウォーキング。有酸素運動をしながら心と身体の状態を確かめる時間にしています。
━━習慣化するために心がけていることはありますか。
射手矢 「絶対にやる」と決めすぎないことでしょうか。体調が悪い日は休むし、呼吸だけ整える日もあります。アスリートタイプで〝やらなきゃ精神〞を持つ方も多いですが、自分で自分の生活を窮屈にしてしまう場合もあって。なので、自分の心と身体の声に耳を傾けて選択することも大切かなと思います。

バリ島ウブドの美しい自然に囲まれたバンブーインダにて
━━ヨガを日常に溶け込ませることで、メンタルにも変化はありますか。
射手矢 トレーニングや仕事で疲れても、呼吸を整えることで「落ち着いた自分」に戻れるようになりました。ヨガには「心と身体はつながっている」という考えがベースにありますよね。本当にその通りで、私自身、身体が整うと心も整うし、心が乱れると身体にも出ます。ヨガを続けてそれを実感するようになった今は、トレーニングのためのケアだけでなく〝生き方の土台〞としてヨガを取り入れています。
━━2年前にオープンさせたキャロル・ライフスタイルジムにも、「ライフスタイル(生き方)」という言葉が入っていますね。
射手矢 そうなんです。ジムを開いたのも「心と身体を整えることで人生を豊かにしてほしい」という思いからでしたし、トレーニング指導のほか食事やマインド面のアドバイスもさせていただいています。私との時間を「パワースポットみたい」と言ってくださる方もいて、それが本当にうれしくて。集まる人たちが笑顔になり、また次の人を元気にしていく。そんな皆さんの良い「気」がパワースポットを作ってくださっているなと日々感じているんです。
ヨガ×ボディメイク
「表裏一体」という哲学
━━改めて、射手矢さんにとってヨガはボディメイクにどんな影響を与えていますか。
射手矢 心身の感覚を研ぎ澄ますことが一番の効果です。ヨガを通じて「今の自分に何が必要か」を判断できるようになると、トレーニングにも迷いがなくなります。筋トレで成果を出すには、トレーニングで筋肉を壊すだけでは駄目で、栄養と休養で再生させるプロセスが必要ですよね。そこにヨガで得た〝欲のコントロール〞が加わると、食事や休息の選択も自然と整ってくるんです。

ヨガセンターの畑で採れる野菜を使った食堂のベジタリアンフード
━━ヨガで得た心の安定は、トレーニングの質にも影響しますか。
射手矢 そう思います。筋トレ前に数分だけでも呼吸を整えると集中力が高まり、心の波が静まります。そうなると、その日のコンディションに関係なく一定のマインドを保て、アスリートでいう「ゾーン」のような状態を自分でつくり出せるようになります。結果としてフォームの精度も上がり、可動域の向上につながるなどトレーニングの効きも違ってくると思います。
━━まさに相乗効果ですね。
射手矢 私の経験からも、ヨガをしている方がボディメイクの世界に少し踏み込んでみることもお勧めしたいですね。ヨガで育んだ芯の強さを活かして、軽いウエイトや自重トレーニングを取り入れると、それがヨガのポーズに活きてくるかもしれない。ボディメイクとヨガは「自分の身体と心をコントロールする」という意味でも切り離せない、表裏一体のような存在だなと思います。
━━ただ、筋トレで柔軟性が失われることを心配する声もあります。
射手矢 筋肉がつくと身体がカチコチになったように見えるかもしれませんね。でも、本当に身体がきれいな方やトレーニングが上手な方は皆さん、しなやかさを伴っています。それはトップアスリートにも共通しているんじゃないかなと思います。
━━やはり美しさには、しなやかさが欠かせない?
射手矢 私の生き方としても、理想とする身体としても、フィジカルとマインドの両方で強さとしなやかさを宿す、美しい人でありたいと思っていて。強いからこそ人に優しくできるんじゃないかなって。
━━そうありたいと思います。
射手矢 私も強くあれるように自分を育みながら、その心の余裕で人に手を差し伸べられるようなマインドでいたいです。身体も同じで、パッと見は強くてもその中にしなやかさと美しさがあること。それが私のボディメイクのコンセプトです。ごつごつした身体でも細すぎる身体でもなく、健康的で、ラインのある女性らしいヘルシーボディを生涯の目標にしています。

ヨガセンターにて、乳がんの女性のためのチャリティイベント、ピンクリボンヨガに参加
━━最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
射手矢 ヨガのマインドに立ち返ると、理想を追い求めることも大事ですが、まずは「今の自分を知り、受け入れること」がすべての出発点。自分の身体と心の声を聞きながら、自分の道を描いていけばいい。人生は一度きりですし、自分の人生の主役は自分。私も通ってきた道ですが、他人を気にしすぎるといつの間にか誰のために、何のために生きているのかがわからなくなってしまいます。だからこそ、まずは自分に集中すること。そして、自分を愛する努力を惜しまないこと。無理をしすぎず、自分に優しくいられることが継続にもつながると思います。
━━続けてこそのフィットネスライフですね。
射手矢 そうなんです。自分に厳しすぎないことも、長く続けるための大切な要素。フィットネスもヨガも頑張りすぎず、楽しむことが一番です。私の願いは昔から変わらず、より多くの人にフィットネスを生活の一部として取り入れてもらうことです。身体を動かし、呼吸を整え、自分と向き合う時間を日常に持つことで、きっと人生はもっともっと豊かになると思います。

サマスタ女王直伝!
トレーニングの質を高めるヨガ2選
立木のポーズ
ヴリクシャーサナ
①まず動かない1点を見つけ目線と意識を集中させる。足裏で地面を確かめたら足の指を全部あげ、再びゆっくり地面に下ろしてスタートの土台を作る。
②右足の股関節を外側へ90度開く
③右足裏と左太ももで押しあうようにして下半身を安定させる。
TARGET
集中力アップ、バランス感覚向上。特に下半身種目の前に行うと足裏の感覚を養える。
POINT
その日の体調やマインドにより身体の揺れ方は変わってきます。トレーニング前にその日の自分の状況を知り、いつものマインドに持っていくメソッドとしてもお勧め。ジムでやるのが恥ずかしければ、足首にもう片方の足裏をつけるだけでもOKです。(射手矢さん)
戦士のポーズ
ヴィラバドラーサナ
TARGET
全身の確認、体幹強化、筋トレへのスイッチオン
POINT
足裏でしっかりと地面を踏み込み、インナーもしっかり締めて下半身で土台を作った上に上半身と頭の軸を取ります。ポーズで静止することで、足裏からひざ、股関節、体幹、肩、首などの可動域と状態をすべて確認でき、その日の身体の調子を知るウォーミングアップとして最適です。(射手矢さん)
いてや・みか
1995年7月15日生まれ、東京都出身。小学校4年生から柔道を始め、中学では陸上4種競技で全国を目指す。高校から柔道を再開し大学卒業まで柔道一筋。怪我をきっかけにヨガに出合う。大学卒業後、オーストラリアへ留学し、ヨガとフィットネスを本格的に学ぶ。サマースタイルアワード ベティ部門ではPRO戦7連覇中。ポージング公認講師や大会審査員、ボディメイクトレーナーとして多岐に活動中。CAROL Lifestyle Gym代表。
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取材・文:藤村幸代 撮影:AP,Inc. 舟橋賢(大会写真) ヘアメイク:平塚美由紀 Web構成:中村聡美
















