熱狂を呼んだ2025年のJBBF日本男子ボディビル選手権。その裏にある、コールの呼び方、審査の進め方、演出、会場環境、そしてドーピング検査━━。誰よりも長くステージに立ったファイナリスト12名には、日本選手権がどのように映り、どんな可能性を感じたのか。それぞれが考える課題や改善点を聞いてみた。
取材:IRONMAN編集部・小笠拡子 文:小笠拡子 Web構成:中村聡美
座談会 当日出席者
- 扇谷開登
- 刈川啓志郎
- 渡部史也
- 藤井貫太朗
- 杉中一輝
- 江川裕二
ファーストコールは人数多め希望が多数!
━━近年、SNSでも選手の呼び方(コール)について話題になることが多いです。選手の皆さんが実際に感じていることがあれば、教えてください。
江川 何年か前、すごく単調なコールだったときがありました。最初に1・2・3位、次に4・5・6・7位、そして8・9・10位といった、選手を混ぜずに審査が行われたんです。ここ最近は、そういった呼び方ではないのですが、単調すぎるコールではなく、いろんな順位の選手を混ぜて呼ぶ方がいいと個人的には思います。
扇谷 今年のファーストコールで言うと、僕と刈川君を呼んでいただきました。そして後から嶋田さんが入ってきましたよね。僕としてはありがたい限りですし、どういうルールで呼び方を決めているのか詳しく分からないんですが……。もし審査委員長が決めているのであれば、あの呼び方だとトップ3が確定してしまうような雰囲気になり、それが他の審査員の方々にも広がってしまうような気がします。寺山さんや渡部くんが入ってきて、逆転を狙うっていう現象が起こりづらくなってくるのかな、とか。
今年優勝できましたが、僕は他の選手に勝っているとか微塵も思っていません。当日のコンディションや、ポーズの取り方一つで順位が大きく変わるようなレベル、つまり逆転があってもおかしくない世界線だと思っているんですよ。競技性を高めるためにも、しっかり比較されて「やっぱりこの人が1位だな」っていうのを、観客の方も審査員の方も分かるといいのかな、と思いました。
━━今年のコールについて、刈川選手はどう感じましたか?
刈川 ファーストコールにしろ、セカンドコールにしろ、最初は4人〜6人などもっと選手を呼んだ方が面白いと思います。そして、1位を決めるときに最後2人だけ呼ぶというのはありかな、と。

2025年日本選手権のファーストコール。刈川啓志郎選手(左)と扇谷開登選手の2人のみが呼ばれ、会場はどよめき、ざわつきに包まれた(撮影:中原義史)
杉中 僕も同意見ですね。その方が見ている側も、やっている側ももっと面白くなると思います。最初から2人だけだと、審査員の方も人間なので、どちらかが1位でどちらかが2位、他の選手はそれ以下になるという錯覚に陥ってしまうかもしれません。
だからこそ、最初は人数多めに呼んだり、隣同士で並んでいない選手を呼んだりしてもらえたらうれしいです。明らかな差があるのであれば話は別ですが、隣に並ぶ人で身体の見え方が結構変わってくることもあるはずなので、いろんな並び方で選手の身体を見てほしいですね。
藤井 ただ、長すぎるのもあまり良くないのかなと思います。別の大会にはなりますが、すごく比較が多くて長かった印象がありました。正直、出ている選手はキツいだろうなって……。長すぎると審査もややこしくなるので、日本選手権を少し長くするくらいがいいのかな、と個人的に感じました。
渡部 皆さんと同意見ですが、付け加えるならスイッチ(位置の入れ替え)してほしいですね。入れ替えた方が、会場が沸きそうな感じがします。
【日本選手権でのファーストコールの決め方について】
●全審査員から比較したい選手「5名以内」のゼッケン番号を記入した用紙を回収
●審査委員長・副審査委員長で集計を行う
●集計で多くの審査員から指名された選手数名をコールする
※IFBBは呼びたい選手を「5人」記載する決まりになっており、JBBFでは「(最大)5人まで」記載する決まりになっているという違いがある
過去10年の日本選手権ファーストコール!
2015年──5名 須山翔太郎、佐藤貴規、鈴木雅、田代誠、合戸孝二
2016年──5名 佐藤貴規、加藤直之、鈴木雅、田代誠、須山翔太郎
2017年──5名 佐藤貴規、須山翔太郎、鈴木雅、田代誠、合戸孝二
2018年──5名 合戸孝二、田代誠、鈴木雅、須山翔太郎、横川尚隆
2019年──6名 合戸孝二、木澤大祐、横川尚隆、須山翔太郎、加藤直之、田代誠
2021年──4名 加藤直之、木澤大祐、相澤隼人、須山翔太郎
2022年──3名 嶋田慶太、相澤隼人、木澤大祐
2023年──3名 嶋田慶太、相澤隼人、木澤大祐
2024年──3名 嶋田慶太、木澤大祐、刈川啓志郎
2025年──2名 刈川啓志郎、扇谷開登
審査基準は「気にしない」
ただ、並び方には意見あり
━━審査基準に対して、選手の皆さんはどう感じていますか?基準が分からないとか、明確になってほしいなど感じたことは?
江川 正直、感じたことないですね。審査基準に合わせて身体を作ろう、というのも、これまで考えたことがなくて(笑)。
扇谷 僕も気にしたことがありませんでした。自分が最高だと思う身体を大会には持っていきますし、それで評価されなかったらしょうがないっていうか。
藤井 例えば僕の身体は絞りとプロポーションが強みになります。ですが、そういう武器がありつつも、やっぱりボディビルって筋肉の搭載量やデカさを競ってこそなのかなと。審査基準やそのときのトレンドを意識するよりも、ボディビルダーとしてデカい身体を僕は目指したいですね。
刈川 審査員も7名いらっしゃって、バルクや絞りといった、ある程度の審査基準はあるにしろ、何を美しいと思うかは人それぞれ。そして、選手それぞれに目指す身体や求める美学があって、それを極めた結果、ボディビルがレベルアップしていると感じています。最終的には、いい身体をつくっていったら、自ずと成績が上がると自分は思っていますね。
━━審査基準は「気にしていない」という声が多いですが、一方で大会後のフィードバックが欲しいと思ったことは?
刈川 めちゃめちゃ思いますね。全員からもらいたいわけではないんですけど、来年に向けてのヒントになるので、欲しいです。
また、「今回の大会はバルクや絞りの面でこういう評価をした」とか、「こういう呼び方したのは、こういう理由がある」と、明確にしてもらえると、選手としても分かりやすいし、観客の方も納得感が得られると思います。
江川 僕から皆さんに聞いてみたいことがあるんですが、いいですか?身長順が良いのかバラバラの方が良いのか、皆さんの声を聞きたいです。僕はバラバラも面白いかなと思っています!
━━杉中選手は、身長順ではなかった2022年の日本選手権も出場されています。どうでしたか?

2022年日本選手権ファイナリスト入場後の比較審査。最近ではこの年のみ身長関係なくバラバラの並びでの比較となった(撮影:中島康介)
杉中 僕はバラバラが良いですね。身長順だと、登場が最初なので疲れますね。身長の高い刈川くんとか良いなって思います(笑)。
━━聞いてみたところ、どちらでも良いという声が多いですね。
扇谷 僕は、出されたテーブルで戦いますよ。
刈川 そうするしかない(笑)。
藤井 どっちでも良かったんですが、杉中さんのように出番が毎回固定のようになる方がいれば、そう思う気持ちは分かります。となれば、バラバラの方が面白くなるんじゃないかと思いました。
扇谷 観客の方はバラバラの方が面白そうな感じはありますよね。
選手は身体づくり、運営は演出を頑張って
━━話題を「演出」に移します。身体をより良く見せるために、そして選手の魅力を引き出すために必要な要素だと思いますが、「こんな演出が良い」といった意見や希望はありますか?
渡部 ステージは神殿が良いです!来年、ぜひとも復活させてほしいですね!また、フリーポーズは選手にスポットライトを当てた方がカッコ良くなると思うのと、比較審査でスモークを焚きすぎない方が見やすいんかな、と思いました。

渡部史也選手の「ステージは神殿が良いです!」から。2013年日本選手権にて。2014年からこの神殿の演出がなくなっている(撮影:徳江正之)
刈川 個人的には史也と一緒の意見で、ステージをカッコ良く作るっていうのが一番重要かなって思いますね。選手自身の魅力もありつつ、それを引き立てるのが演出とか音響だと思うんです。
僕たちも、これからもカッコ良い姿を見せられればなと思うし、自分たちがつくってきた身体を、よりカッコ良く見せるような演出をしてもらえるとうれしいですね。
杉中 今年のライティングは良かったですよね。あと、ステージの床が黒くしてあった点も。黒い床とライティングの相乗効果で、すごく見栄えも良くなるので、めちゃめちゃいいなって思いました。
藤井 個人的には、バックスクリーンが良いと思いました。遠い席の人でもしっかり選手が見えますし、選手としても後ろを向いたときに安心感があるというか。今後、スクリーンを演出に絡めて、より良く活用していくと、盛り上がって面白いかなと思います。
団体的に実現は難しいかもしれないですが、ジュラシックカップのように、ファイナリスト登場時にはスモークを焚いて、舞台の真ん中から出てくるような演出がすごく魅力的です。
扇谷 日本選手権でのファイナリスト登場演出は、特別感を出した方が良いかもしれません。そうすると、みんなが「目指したい!」と思える場所になるのかなって。正直、今は普通だと感じています。もしかすると、音響や司会者の声量も大事なのかも。
杉中 認知度を上げる、大会自体を盛り上げるためにもSNSの活用も大事になってくるのかなと思います。
今は、ファイナリストの皆さんのほとんどがYouTubeチャンネルを持たれています。僕も実際見ていますし、ファンの方ももちろん見ていると思うので、選手個人の発信にプラスしてJBBFのチャンネルも発展していくと、より盛り上がりそうです。

















