熱狂を呼んだ2025年のJBBF日本男子ボディビル選手権。その裏にある、コールの呼び方、審査の進め方、演出、会場環境、そしてドーピング検査━━。誰よりも長くステージに立ったファイナリスト12名には、日本選手権がどのように映り、どんな可能性を感じたのか。それぞれが考える課題や改善点を聞いてみた。
取材:IRONMAN編集部・小笠拡子 文:小笠拡子 Web構成:中村聡美
座談会 当日出席者
- 扇谷開登
- 刈川啓志郎
- 渡部史也
- 藤井貫太朗
- 杉中一輝
- 江川裕二
ショーに寄りすぎない演出で
ただ、会場はもっと広く!
━━JBBFはボディビルを競技として、長年発展させてきました。そこが他団体とは異なる点です。JBBFの方向性に対して、思うことがあれば教えてください。
杉中 JBBFは他団体に比べると堅い感じがありますが、僕はスポーツとしてボディビルに取り組めるこの感じが好きです。僕だけでなく、他の選手からもそういう声を聞くこともあります。JBBFが盛り上がってほしい反面、方向性としては今のままが良いです。
扇谷 杉中くんが言っていることも、すごく分かります!JBBFの日本選手権はあくまで「競技」だから、ショーに近づけてほしいとは全く思わない。今はうまく言語化ができないんですけど、もう少しやり方は変えられそうな部分があると思うんです。ただ、それは運営の方だけじゃなくて、僕ら一選手の自覚や取り組み一つでもっと盛り上げられるのかなって。
現在は他団体の方で申し訳ないのですが、横川尚隆さんはたった一人でステージを盛り上げられて、ポーズ一つであれだけの迫力を出せる。今のJBBFでそれを誰ができるのかと言われたら、いるの かなって……。
自分はそれが悔しくて、もっと 注目されたい。ただ、ポーズ一つ取っただけで盛り上がったり、その選手のファンが会場に来てくれたり、そういうのも含めてボディビルディングをしていきたいなって思います。
刈川 僕が日本選手権に出る理由としては、これまでの歴史があって「日本選手権優勝」ということ自体に価値があるというか。そういうものに憧れるから出る、というのが大きいです。演出に関しては、ジュラシックカップに近いものが日本選手権でもあれば、よりカッコ良い姿を皆さんに見せられるし、競技としての魅力も相乗効果で上がると思っています。
━━ショーに寄りすぎずに、競技として盛り上げるには、見せ方の工夫や模索が必要そうです。
藤井 日本選手権は権威がある大会だと僕は思っているし、ここにいるみなさんもそう思っているはずなんですよね。ただ、会場の大きさと演出に関しては、他団体のいいところを取り入れていってもいいのかなと思います。
杉中 僕も同意見ですね、会場の広さは気になります。ボディビルは身体を見る競技なので、あまりにも広くて席が遠すぎると全然見えないと思いますが、モニターで見られるといいなとは思います。あの空間を味わえるだけでも、見に来る方は楽しめると思うので!
江川 僕もそう思います。日本選手権はチケットもすぐに売り切れちゃうほど、実際に生で観たい、会場の雰囲気を味わいたい人もいるはず。席は遠かったけど、ロビーで出待ちしていたら選手に会えるチャンスもありますしね。

2025年日本選手権のラストコール。最後にTOP6を呼び比較が行われた(撮影:中原義史)
登録費用や会場アクセス
選手ならではの声
━━選手の皆さんは登録費用が発生します。この件に関してご意見があれば、ぜひ教えてください。
扇谷 ファイナリストだけにフォーカスすると、個人登録をしているのは僕と藤井さんだけですが、地方大会で見ると個人登録の選手はたくさんいますよね。
登録費用に加えて、ボディカラーリングなどもしていくと、どうしても費用が増えていく。こうなると、学生さんはたくさん出たくても、億劫になってきちゃうのかなって。JBBFを盛り上げるためにも、そういった点の改善も必要かもしれないと思います。
藤井 僕はずっと個人登録です。その背景は、単純に活動拠点が加盟ジムではないからというのが主な理由ですが、所属するメリットがもっとあればと。
せっかく加盟ジムや都道府県連盟の体制がちゃんとあるのに、帰属意識が高まるような要素が少ないように感じます。これってすごくもったいないなと思っていて。「この加盟ジムの代表」や「都道府県代表」という肩書きは、競技者でない方にも分かりやすく受け入れられますし、それが仲間意識を生みます。こういった意識がより多くの人に波及していけば、ボディビル・フィットネス業界全体の盛り上がりにもつながって良いのかなと思います。
━━加盟ジムがそもそも少ない地方もあります。ほかに何かご意見がある方はいらっしゃいますか。
江川 自分は広島在住なんですが、開催地について感じることがあります。昔から日本選手権の開催地は東京・大阪と交互でした。しかし、ここ最近は都心から離れたところが会場になっていて、東京・大阪という感覚があんまりなくて。
新幹線が停まる主要駅から近い会場だと、選手も応援に行く人も行きやすいのかなとは思います。そして東京・大阪にこだわらず、名古屋や福岡、広島など地方でも大きい都市でやるのもありかなとは思うんですよね。
━━これまで愛媛にお住まいだった渡部選手はどう思いますか?
渡部 遠いなとは毎回思うんですけど、僕が住んでいる場所が悪いから仕方ないか、と。ただ、会場は主要駅の徒歩圏内、また周辺にホテルがある方が良いですね!
JBBFの競技者たちは世界大会で戦いたい?
━━アンチドーピングを掲げていますが、ドーピング検査に対して思うところはありますか?
渡部 ファイナリストはドーピングをやってないですからね(笑)。そこへの疑いはゼロです。今まで通りトップ3を調べる方向で良いと思います!
杉中 日本選手権のファイナリストのドーピングチェックを増やすなら、地方大会の検査を増やした方が良いかもしれません。

━━世界選手権へのイメージもお伺いしたいです。
扇谷 本音を言うと、今の僕にとっては魅力的ではないですね。日本選手権連覇の方が、僕には価値が高いので、来年に向けて準備に入る方が先決でした。
渡部 僕は日本一になったら行こうかなって感じです。でも旅費は全部出してもらわないと、ちょっと厳しいですね!
江川 今の世界選手権ではなく、ボディビルがオリンピック競技になれば目指したいし出たいです。JBBFはこれからもナチュラルを追求していく団体として、その一点突破で良いと思います。
【当日座談会に出席できなかった6名の意見】
嶋田慶太
●コメントなし
寺山 諒
●若い世代に合ったプロモーションを強化すると良いと思う。
●無料配信ではなく低価格PPV化し、収益を演出・会場費・運営費に回すべきだと思う。
●収益の使い道が透明化されると支払いに納得感が生まれるのでは。
●選手数が増える未来を見据え、日本選手権の会場規模の拡大や家族席確保を希望。
●HPの見やすさ改善、動画・総評のアップの遅さ(1年前の大会動画が今上がるなど)を改善してほしい。
●ドーピング検査は日本選手権で「なし」にするのは危険だと思う。日本選手権での検査数を減らし、他大会へ回すのは良いと思う。
喜納穂高
●日本選手権など権威ある大会は、より華やかな演出にしてほしい。
●現状の注目度ならもっと大きな会場でも観客は集まるはずなので会場サイズを検討してほしい。
●選手受付から出番までの待機時間が長すぎるため、受付時間を遅らせてほしい。
須山翔太郎
●審査のバラつきをなくし、統一された枠組みの中でコールを行ってほしい。
●コールは審査員全員の総意を反映した形で進めるべきだと思う。
●大会前後や年間を通じて選手・大会のプロモーションを強化してJBBF活性化につなげてほしい。
加藤直之
●特に要望はありません。
下田亮良
●ボディビルのワールドゲームズ復帰を願っています。
●フィギュアスケートのように部位別に細分化した採点方式(腕・体幹・プレゼン能力など)を導入すると納得度が上がるのではないか。
●JADAによるドーピング検査を地方大会まで徹底し、検体数も増やしてほしい。これにより、興行的ボディビルとの差別化が進み、健全なスポーツであることを示せると思う。
●地方大会は進行や演出にムラがあるため、進行フローをテンプレ化して誰でも回せる仕組みを作ってほしい。演出は予算により難しいかもしれないが、進行の標準化は可能だと思う。
女子ファイナリスト座談会は2026年2月号に掲載!

















