年に1回しか姿を見せない男、西﨑空良選手。今年の舞台は10月19日のジュラシックカップだった。オープンクラスで優勝し、そのままの勢いでグランドクラスで7位入賞、そして腕・肩賞を勝ち取る。西﨑選手が持つ巨大な腕&肩の製造法は、意外にもシンプルかつ極められていた。
取材・文:小笠拡子 撮影:岡部みつる 大会写真:中原義史 Web構成:中村聡美

第3回ジュラシックカップ。ボディビルデビュー戦にして観客やボディビルファンに鮮烈な印象を残した
鮮烈なボディビルデビュー
大会当日は73㎏!
━━10月19日に行われたジュラシックカップで、ボディビルデビュー。仕上がり体重が昨年と比べてかなり増えていたとか。
西﨑 去年は根性で絞り続けて内臓機能に異常をきたし、医者にも「いつ倒れてもおかしくない」と言われていました。それでも有酸素をし続けていたら、筋量も全部持っていかれて、ディプリート後の体重が62・3㎏。カーボアップ後の体重は計っていないので、最終体重は分からないです。
一方、今年のディプリート後の体重は73・8㎏でした。今回、初めてカーボアップを2日+大会当日で行ってみました。大会前日は73・8㎏、当日は73・1㎏で仕上がりました。周りから「カーボアップが成功しているときは、次の日に減る」と聞いていたので成功したのかな?と捉えています。
━━カーボアップは、どのような内容で行ったのですか?
西﨑 カーボアップではひたすら炭水化物を食べていました。1日目が約1000g、2日目も1200g程度。当日もむくみなど全く気にせず、オープンクラスの決勝までにポテトチップス2袋やコーラなどを、食べて飲んでしていましたね。
もし、今回で負けても次に生かせるって思って、挑戦しました。
━━西﨑選手にとって、今大会の〝負け〞とは?
西﨑 オープンクラスで予選を通過できなかったら〝負け〞でした。ここ数年はずっと負け続けているので、予選を通過しなかったら、競技者として終わりかなっていう思いはありましたね。だから、オープンクラスで予選通過することが目標だったんです。
━━かなり慎重な目標設定です。
西﨑 大会前は過大評価されすぎだと感じていましたし、僕自身はボディビルってそんなに甘くない世界だと思っています。「こんなもんでいけるやろ」と、ナメてかかれるものではない。
ボディビルのデビュー戦で、オープンクラスに出てくるようなもの凄い猛者たちと戦って、そもそも勝てる気がしませんでした。なので、予選通過すれば万々歳だろうと思っていたんです。
━━不安ながらも、オープンクラスで優勝、グランドクラスで7位。さらに腕・肩賞受賞で、かなり会場を沸かせていましたね。
西﨑 下半身は不安だらけでしたが、上半身、特に肩と腕は日本一だと思っています。グランドクラスへの出場権を手にしたとき、腕・肩賞は「獲ったな」と。この部位だけは負ける気がしませんでした。
側から見ると意外に軽いが自分の中では高重量
━━素晴らしい腕・肩のトレーニングについて、教えてください。
西﨑 もともと、腕の感覚はいい方です。最近は三頭からやって、二頭のトレーニングに移ります。昨年の大会が終わって、腕の日に「二頭から始めるのがイヤやな」って思ったことがあって、三頭から始めてみたんですよ。
三頭筋がパンプした状態で二頭の種目をすると、感覚がより良くなっていることに気づきました。

バーベルカールではEZバーを使用。液体チョークを塗って滑りを防止。50~55kgで行っている
━━メニューの内容は?
西﨑 三頭筋の種目は、スカルクラッシャー、EZバーのフレンチプレス、ダンベルのフレンチプレス、EZバーのケーブルプッシュダウン。
そして二頭はプリーチャーカール、バーベルカール、インクラインカール、ノーチラスのバイセップスカールです。
僕のセットの組み方は1種目に対して何セット、と決めるのではなく、1部位のトレーニングに対してトータル25〜30セットするという風に、決めています。
三頭は25〜30セットですが、二頭は15〜18セット。というのも、2021年ぐらいから腕橈骨筋の炎症を起こしてしまって、握り込むのが痛いんですよ。なので、二頭だけ少なくしました。
━━それほど高重量を扱っているようには見えないですが、非常に発達しているのは感覚がいいからなのかもしれません。
西﨑 側から見たら「意外に軽い重量だ」と思われるかもしれないけれど、自分の中では頑張っても8レップしかできない重さでしています。だから重いです(笑)。
スカルクラッシャーは50㎏、EZバーのフレンチプレスは42・5㎏、ダンベルのフレンチプレスは27〜28㎏、EZバーのケーブルプッシュダウンはマシンによりますが、27㎏程度でメインセットを組んでいます。
プリーチャーカールは40㎏、バーベルカールは50〜55㎏、インクラインカールが18㎏で、ノーチラスのバイセップスカールは41㎏をしたらドロップして35㎏に。そして最後は自分の手で補助をしながら、ちょこちょこ動かします。
肩は4種目がベース
濃密すぎるサイドレイズ
━━ありがとうございます。続いて肩の内容を教えてください。
西﨑 肩もトータル25セットで組んでいて、内訳はフロントが15セットぐらい、サイドが10セットぐらいですね。
やっている種目はシンプルで、ダンベルとマシンのショルダープレス、そしてダンベルとマシンのサイドレイズの4種目がベースとなります。組むセット数は、ダンベルのショルダープレスが他と比べて、若干多めかもしれません。この4種目で25セット行かない場合は、バーベルのアップライトロウを入れますね。

三頭の種目、ダンベルフレンチプレス。重さは27~28kgで。ベルトをしっかり締めて体幹を安定させる
━━その種目を選ぶ理由は?
西﨑 身体全体を使って行えるというのもあり、重さが扱えるからです。でもやるのは本当に不定期で、やったとしても3セットぐらいの〝添え物〞程度です。
━━ベースとなる4種目は、具体的にどんな内容ですか?
西﨑 ショルダープレスは6〜7レップできる重さで、サイドレイズは僕の基準で高回数になります。ダンベルショルダープレスは片手42㎏で、サイベックスで行うマシンショルダープレスは60㎏。
ダンベルでのサイドレイズは片手22㎏で20レップほど→休憩→6〜7レップ→休憩→4〜5レップ→休憩→肘を真っすぐに伸ばした状態で、最後まで挙げられないけれど12レップします。
マシンのサイドレイズは36㎏で5セット。数は正確に数えていませんが、大体12レップで限界が来るので、限界を迎えたら32㎏にドロップ。6〜7レップで限界が来るので、肘を伸ばして10〜12レップほど、ちょこちょこ挙げるというのが中身です。
━━サイドレイズの中身が驚くほど濃いですね!昔からこれほど濃密なサイドレイズを?
西﨑 去年ぐらいからです。単関節種目に関しては、精神面があれば何発でもできるので。するからには出し切ろうと思っていて、そのマインドでやったらこの密度になりました。一生ネチネチやっているので、サイドレイズは正直なところ、しんどいです(苦笑)。
━━西﨑選手ほど発達した肩と腕をお持ちなら、「ここまでやらなくてもいいんじゃないか」と思ったことはありませんか?
西﨑 ありますね。それでもやり続ける理由は、やめると他の部位の回ってくる日が早くなり、回復が追いつかないから。回復期間を設けるためには、腕や肩を入れざるを得ないです。
ボリュームを減らすという手段もありますが、1部位に対して15セットだったら、多分物足りなく感じるんですよね。特別なことがない限り、25セットはやりたい。
あと、1時間半〜2時間はジムにいないと、ジムへ行っている意味を見出せなくて。できればやりたくないけど、やらなきゃデカくならないからやります。

二頭の1種目目に行うプリーチャーカールは40kgで。三頭筋から始めることで、二頭筋への刺激がより入るようになったとか
まず1種目を極めること
「自分はまだデカくなれる」
━━肩と腕をデカくしたい人は多いと思います。そういった人たちに向けて、西﨑選手ならどういうアドバイスをされますか?
西﨑 まずは量をやる。僕は1種目のセットが多いじゃないですか。こういう風に1種目を極めていくのがいいのかな、と。
いろんな種目を取り入れるのもいいと思うんですが、その1種目を極めてあげると、身体の使い方も分かるようになってきますし、質も上がります。この〝極める〞という点が成長にとって、大事になってくるのかなと思います。
━━西﨑選手が実際にされているのは、王道種目が多いですよね。
西﨑 そうですね、やっぱり結局はベースの種目に戻りました。目新しい種目をするのが悪いことではないのですが、基礎的な種目に絞って、最初から回数をこなした方が質も上げられるし、上手くなると思います。
僕自身も最初の頃に特殊な種目を入れた経験があります。フロント狙いのケーブルクロスオーバーとか、フロントレイズをしてみたんですが、「これをするんだったら、ショルダープレスでいいかな」と。
意味がないとかじゃなくて、僕にとって新しい種目というのは優先順位が低いっていうだけです。基礎種目の方がメイン種目に取り込みやすいので。

ケーブルプレスダウンは、膝をついた状態で行っていた。マシンによるが、使用重量は27kg程度
━━今後、挑戦したい大会は?
西﨑 1年に1回しか大会に出ない人間なので、色々迷っています。会う人ほぼ全員から、日本選手権の話題を振られますが(苦笑)、クオリファイを獲らないといけないので……。ファイナリストになるのが夢ではありますし、いずれは狙いたいなって思いますが、今はまだ検討中です。
ジュラシックカップでは3年ぶりに渡部史也くんと同じステージに立ちました。みなさんに「西﨑、ワンチャンあるぞ」という姿を見せられたのでは、と思います。
バックステージで扇谷(開登)選手や寺山(諒)選手を見たときの絶望感は、正直すごかったです。ですが、大会が終わった後に「自分はまだまだデカくなれる」ビジョンが明確に見えてしまいました。これからも、トレーニングで死ぬほど追い込みます。

ノーチラスのバイセップスカールマシン。41kg→ドロップして35kg→最後は自分の手で補助しながら動かす
にしざき・そら
1996年生まれ、大阪府在住。身長164cm、体重73kg(オン)、約88kg(オフ)。パーソナルトレーナーとして活動しており、大阪を中心に、不定期ではあるが、東京や名古屋でもパーソナルを受け付けている。第3回ジュラシックカップオープンクラス優勝、グランドクラス7位、腕・肩賞受賞











