ただ単にステージ上に並んで、ポーズを取っているだけではない。他の競技同様、ボディビルにも選手によってそれぞれの「闘い方」というものがある。「今年はでかい選手が多く出場することは分かっていました。そんな選手たちとバルクタイプ(筋肉量が多いタイプ)ではない僕がどこで勝負できるかといえば、バランスやプロポーション、ポージング、そして絞りになります。バルク以外のところではすべて勝つつもりで臨みました」
そう語るのは、8月11日に福井で開催されたジャパンオープン選手権を制した江川裕二(えがわ・ゆうじ/41)選手。ジャパンオープン選手権は体重別の階級制ではなくオーバーオール(無差別級)で争われる試合で、本年度は身体の大きな選手、いわゆるバルクタイプのボディビルダーが多く参戦。ステージはまさに筋肉怪獣大戦争の様相を呈した。その中で、優勝を勝ち取ったのが江川選手である。パワーファイターを巧みにテイクダウンして一本を奪うかのような闘いぶりで、オール1位票の圧勝をおさめてみせた。
「今年はよりハードに絞ろうとか、そういうのはなかったです。減量自体は、例年と同じように進めました。ただ、自分の中での絞りの基準を、自分の中で年々高くしているというのはあるかもしれません」
試合に向けては半年ほどの時間をかけて、約9kgを落としていく。炭水化物は白米に大麦を混ぜたもの300g(炊いた状態の質量)を1日3食。ここから少しずつ量を減らしていき、減量後期には200gまで落とす。有酸素運動の時間は特には確保せず、車で移動するところを歩いたりと日常の時間を活用。体重が減らない停滞期に入っても、そこで焦って食事量を減らしたり、運動量を増やしたりしてはいない。奇策には走らず、基本的なことをこつこつと積み上げていくのが江川選手のスタイルだ。
では、より理想の仕上がりに近づけるよう、試合直前になった段階で減量のギアをより上げるために取る秘策はあるのだろうか。江川選手に尋ねた。
「それが……、特にないんです。強いて言えば『気持ち』ですね。大会が近づいてきて、エントリー表や進行表が公式ホームページで発表されると、そこで僕はモチベーションが上がるんです。気持ちが燃えて、そこから自然と絞れていきます」
ジャパンオープン選手権は「いつか獲りたかったタイトル」という江川選手。今回は大きな選手たちを敵に回し、まさに気持ちで掴み取った勝利と言えるかもしれない。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
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取材:藤本かずまさ 撮影:中島康介
藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。