ボディビルファンの間に囁かれる噂がある。
「日本クラス別には、必ずダークホースが現れる」
9月8日(日)、体重別で日本一を競うボディビル大会、第28回日本クラス別選手権大会65kg以下級で2位となった神谷勇斗(かみや・ゆうと/32)選手が、まさにその一人であろう。自身のインスタグラムにも「カッコよすぎ、イケメン色黒マッチョ」、「カッコいいー」などのコメントが寄せられ、次世代のスターを思わせる活躍に業界が沸いた。
【写真】バックポーズも圧巻!神谷勇斗選手の幅広い背中から丸々と連なる肩と腕
神谷選手は2023年、フィジークからボディビルへと転向元年にしてミスター沖縄を制覇。2年目、2大会目となる本大会で本命視されていた下田亮良(しもだ・りょうけん)選手を破り、銀を獲った。
ボディビルファンには既知になるが、これが異例の躍進と言われる理由の説明をしたい。3位となった下田選手は昨年、アーノルド・クラシック・ヨーロッパ2023(10月13日〜10月15日)ボディビル70kg以下級で優勝、今年もIFBB(国際ボディビルディング・フィットネス連盟)アジア選手権大会2024(7月6日・7月7日)において65kg以下級優勝の実績を持つ、国際的に活躍するボディビルダーだ。優勝者の木村征一郎(きむら・せいいちろう)選手は日本クラス別において4度優勝の実績を持ち、国内最高峰の舞台である日本男子ボディビル選手権大会(体重無差別)において最高位5位、ファイナリストとして例年名を連ねる大ベテラン。その間に、ボディビル歴わずか2年目の神谷選手が斬り込んだのである。
「フィジークのころからボディビルに憧れがあり、2017年から昨年までで除脂肪体重58kgから65kgのバルクアップをしてミスター沖縄に臨みました。優勝の直後から今年のクラス別での入賞を視野に入れており、まずは決勝にあがりたい、あわよくば3位に入りたい……というなかでの2位ということで、非常に驚いたとともにうれしく、今後の自信につながりました」
神谷選手に勝利をもたらした大きな要因といえる、近年の大バルクアップの経緯についてを聞いた。
「最も大きく変わったのは減量の仕方です。フィジークのころは絞りを重視するあまり、基礎代謝以下の食事に有酸素と過度の減量により筋肉まで削ぎ落ちてしまうことがよくありました。近年は減量末期でもカロリーやPFCに縛られすぎず、倦怠感などの体調にしっかり向き合って摂取量や活動量を調整するゆとりを持ったことでメンタルの不安定が無くなり、身体のリカバリーも十二分で大会までを過ごせたことで筋肉を残せています。ここが一番の課題だったので、大きな成功体験を積むことができてうれしいです」
食材の身体への相性も、様々に調べたという。
「僕の場合は、白米以外のカーボはトレーニングの出力が落ち、筋肉にも張りが出ませんでした。白米、鶏胸肉、卵、納豆、魚をメインに、ブロッコリー、ズッキーニ、しめじなど自分の腸に合った食材をしっかり食べ込んだことが増量・減量ともに役立ちました。また、最終調整においては水分・塩分量を減らしすぎるのは自分には合っていないということが沖縄戦で分かったので、今回は前日に水を1ℓ以上、塩分も2gは許容と変えたところ、過去一番の丸みのあるパンプ感を出すことができました」
できることは全てやろう。その決意のもと、トレーニング頻度からコンディショニングまでを全て見直したという。弱点部位から逆算してメニューを構築したことも、大きく身体の発達に貢献した。
「僕は大胸筋、広背筋下部、内転筋、ハムストリングと、主にフロントポーズで隠しようがない弱点が多くありました。なのでトレーニングに付随して、コンディショニングもかなり重視しました。関与する関節、胸郭、肋骨周りの筋肉についてマッサージガンからリリース、モビリティストレッチ、コンプレフロス、なんでも試しました。本当に出来ることはひとつも残さずやるという意気込みでやってきました」
「ボディビルのコンテストに向けて、食事やメンタルサポートなど常に側で支えてくれた妻に感謝したいです」
神谷選手が最後に口にしたのは自身の努力ではなく、家族への感謝であった。神谷選手は2022年のみ、どの競技においても大会出場をしていない。これは自身の転職、奥さんの妊娠・出産が重なったためである。「激動のなかにおいても恋人であった時代から変わらず支え続けてくれた妻が一番の勝因です」と頬を緩ませた。最後に、目下の目標を聞いた。
「今年は日本クラス別で終わる予定でしたが、日本選手権への出場を決めました。決める前は恐れ多さもありましたが、自分の強みを活かしてベストなコンディションで臨めば、1次予選突破も全然あり得ると思っています。ダークホースとして番狂せを起こしたいです」
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
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執筆者:にしかわ花
『IRONMAN』『FITNESS LOVE』『月刊ボディビルディング』寄稿。広告・コピーライティング・SNS運用も行うマルチライター。ジュラシックアカデミーでボディメイクに奮闘している。