「まさか優勝できるとは……。本当に信じられないです」そう興奮気味に試合を振り返るのも無理はない。同大会でこれまで通算8度の優勝を果たしている清水恵理子選手を抑えて優勝したのだから。
阪森香理(さかもり・かおり/54)選手がボディフィットネスから女子フィジーク(かつての女子ボディビル)へ本格転向を果たしたのは2022年。同年は全国大会であるジャパンオープン選手権で優勝、日本選手権で3位と幸先のいいスタートを切るも、翌23年の日本選手権では5位と後退。同年には日本マスターズ選手権にも初めて出場するが、清水選手に優勝を阻まれ、50歳以上級で2位に終わった。
そして迎えた、今年の日本マスターズ選手権大会。9月15日、福岡県北九州市で開催されたこの大会では女子フィジーク50歳以上級で優勝。そして、40歳以上級、60歳以上級の覇者と争われるオーバーオール(無差別級)では、60歳以上級を制した“あの”清水選手と直接対決。同選手権初優勝を飾った。
「私のなかでは『マスターズといえば清水さん』というイメージがあり、また今年も同じ舞台に並ばせていただくことになりましたが、(自分が優勝するのは)無理だろうな……と思っていました。だから本当に、今も(優勝したことが)信じられません」
この1週間前、阪森選手は階級別の日本一決定戦である日本クラス別選手権に出場。163cm以下級にエントリーし、日本選手権で4度も優勝している澤田めぐみ選手と対戦。敗れはしたものの、1位票を2つ奪うなど大きな爪痕を残した。日本クラス別選手権での健闘、そして日本マスターズ選手権での優勝。ここにきて阪森選手は上昇気流を掴んだ感がある。
「これまで私は、ただやみくもに重たいものを持ち上げるというトレーニングをやっていました。今はそうではなく、トレーニングに入る前に身体をコンディショニングで整えるようにし、またトレーニングもセット数を少なくするなどして休息を入れるようにしました」
さらには、減量中の有酸素運動も抑え気味にしたという。アスリートにとって練習のボリュームを抑えるというのは恐怖を伴う作業であるが、その試みが試合結果という分かりやすい形であらわれてきた。もしかして昨年までは、やりすぎていたのか?
「はい、やりすぎていました(苦笑)。また、オフシーズンのあいだに(体重を)のせすぎていたというのもあったと思います。以前は減量幅は10㎏以上あったのですが、今回のオフは体重が増え過ぎないように気を付けて、(減量幅を)10kgほどにとどめました」
一つのことをずっと続けていると、とかく人は頑固になりがちであるが、ときには心の柔軟性が求められる局面もある。現状を打開する際、そこでは自分自身を見つめる勇気と、変えることをおそれない勇気、その二つが必要となる。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材:藤本かずまさ 撮影:中島康介