「45kg以上は太っている。太っている自分は許せない」
そんな体重の呪縛にかかっていたという出原美知子(いではら・みちこ/44)さん。出原さんは、JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)主催の『オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス2024』ビキニフィットネスの年齢別で3位の実力を誇る選手として活躍している。
40代から始めたこの競技はそんな呪縛から解放してくれ、さらに新たな価値観へと導いてくれたという。
思い込みからの脱却
高校生のころに社交ダンスを始め、趣味の範囲内で細く長く続けてきた出原さん。「社交ダンスは容姿も含めての競技でもあります。自分の中で、45kg以上の体型はきれいじゃないと思い込んでいた」と話してくれた。
この45kgという数字に縛られずっとダイエットをしてきたが、ビキニフィットネスの競技に出会ってから体重と見た目への考え方が大きく変わったという。
「この世界に入ったのが2022年。2023年のシーズンが終わった増量期で初めて50kgになりました。これまでの私は、50kgの身体ってズドーン!とした体型だと思い込んでいたのですが、トレーニングをしながらだとメリハリがあって素敵だな、って」
体重はただの数字であることを実感し、ますますトレーニングへの熱意が強くなっていった。
高重量一択で身体を作る
オフシーズンは身体を作り込む時期だ。2023年の大会シーズンが終わり、2024年に向けて出原さんが行ったことは「高重量を扱って身体の土台作りをすること」だった。ウエストを太くしないように、必要ない部位にまで筋肉をつけてしまわないように、と重量を攻めずにトレーニングをしてきた出原さん。
低重量・高回数のトレーニングは選択肢の1つだが「自分の中では、あまり納得できていなかった」と出原さんは言う。そのため2023年ラストの大会が終わったと同時期に、すべてのトレーニングを高重量に切り替えた。
「私も40代になって筋トレ経験ゼロから始めたため、この部位だけに効かせるとか高度なテクニックの前に基礎を作る方が大事なんじゃないかと」。
昨今のビキニ選手が行う筋トレのトレンドには逆行している恐怖はあったが、それでも体幹や脚を鍛える方が重要に感じたそうだ。毎週、脚の日は不安と緊張に駆られるそうで、特にスクワットをするときは戦闘モードだ。
「高重量のスクワットに切り替えてから、先週の自分を超えられるのか真剣勝負をしています。去年は85kgを1回だけ挙げられましたが、それ以上は伸びなくて……。今年のオフシーズンでどこまで伸ばせるか、ですね(笑)」
100kgスクワットができる身体を目指す
「最短で目標達成するのはあまり好きじゃなくて」と出原さんは笑う。100kgでスクワットができるようになりたい、というのが出原さんの目標の一つだが、「それまでの通過点を楽しみたい」のだそう。
つまり100kgという数字だけにとらわれるのではなく、今の自分が挙げられる重量と回数を増やしていく過程も大切にしたいということだ。現在は70kgスクワットを10回できる身体づくりに注力。
「自分の成長を噛み締めたくて。いずれ80kgでできるスクワットの回数も増えていくだろうし、1回だけであれば去年の85kgだって超えられるかもしれません。あと何年かかるか分かりませんが、小さな積み重ねを経て100kgに近づいていきたいです」
出原さんが紡ぐ成長の「点」は、いつか大きな1本道となって目標まで連れていってくれそうな予感がした。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材・文:小笠拡子 撮影:中島康介