誰にでも理想の身体があるだろうし、その理想が変化していく人もいれば一貫している人がいるのも不思議な話ではない。JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)のボディフィットネスで活躍する安田千秋(やすだ・ちあき/39)さんの理想は「強い身体」だという。
競技デビューした2021年から全国レベルの大会でメダルを獲得し続け、2022年から世界選手権やアジア選手権などの国際大会に毎年出場している。すでに理想の “ 強い身体 ” には到達していそうだが、安田さん曰く「見た目だけでなく、身体の機能的な面での強さ」に魅力を感じ、新たな挑戦をしているそうだ。
国際大会の裏側で出会った新たな世界
職業は公認会計士で、もともとトレーニングとは無縁の世界にいた安田さん。30歳を過ぎて太ったことがきっかけで『RIZAP』に入会し、バーベルを扱ったトレーニングをするようになった。その中でBIG3を軸に、重量を扱うことの面白さにハマっていく。
ボディフィットネスの競技を始める前から、身体の形を作り込むより「物理的に強くて動ける身体に興味がある。少年漫画やゲームにいる強くて可愛い女の子が理想」と教えてくれた。
「私の理想はかっこいい見た目と肉体的な強さを兼ね備えた身体。そのためボディメイクの大会以外にパワーリフティングの大会にも出ていました。さらに機能的な身体が作りたくなったので、去年の最後の大会である12月の世界選手権が終わった翌週に興味があったクロスフィットジムへ行ったんです」
クロスフィットは、歩く・走る・起き上がる・持ち上げる・押す・引く・跳ぶなど、普段の生活の中で繰り返し行う動作をベースとしたトレーニング方法。まさに機能的な身体を作るには有効な手段の一つだ。
安田さんがクロスフィットに興味を持ったきっかけは、2024年10月にスペインで開催された『IFBBアーノルドクラシック・ヨーロッパ』だった。国際大会ではボディ系コンテストのほか、「フィットネスチャレンジ(※)」という運動能力を競うカテゴリーが開催されることがある。
※懸垂、ディップス、ダンベルスナッチなど6種目を各2分間反覆し、レップ数の合計を競うカテゴリー。
「メインはボディフィットネスでしたが、身体を動かす競技にも興味があったのでフィットネスチャレンジもダブルエントリーした」と話す安田さん。日本人で初めてのエントリーだったようだ。
「他の選手はフィットネスチャレンジ特化型の超パワフルな外国の方たち。話しかけてみたら最高に楽しい!と言っていたのが印象的でした。見ていて清々しく、決してウエストが細いVシェイプの身体というわけではないけれど、こういうたくましい身体もかっこいいなと思いました」
このときサポートしてくれていたビキニの髙田千広選手が「これってクロスフィットっぽい」と呟いていたのを聞き、安田さんは「クロスフィットというジャンルを練習すればいいのか」と思ったそうだ。
できない動きがたくさんある、だから楽しい
現在、クロスフィットジムにも行っているという安田さん。しっかり身体のベースが整っているゆえに簡単にこなしてしまいそうだが、意外にも「できないことがいっぱいある」そうだ。
「私は今までできないことをできるようになりたい、というモチベーションでトレーニングをしてきました。クロスフィットでは、ウエイトリフティングの動作や反動を使った体操の動作がありますが、まだまだ身体の連動性が下手。できるようになりたいことだらけで困っています(笑)」
そう話す安田さんの顔は高揚に満ちていて、まるで新しい世界の扉を開いたかのような声色だ。目下の目標は、壁なしの倒立プッシュプレスができるようになること。
その理由の一つを伺ってみると、「自重で壁なしの倒立ができたらいつでもどこでもショルダープレスができるな、と思って」とのこと。これまでの競技者としてのベースがあるからこその発想だろう。
見た目・スタミナ・機能すべてを兼ね備えた理想の身体を目指し、今は「身体が喜ぶトレーニングに身を置きたい気持ちが強い」という安田さん。2025年は “ ボディフィットネス・安田千秋 ” とは異なる新たな一面が見えるかもしれない。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材・文:小笠拡子 撮影:中島康介、中原義史