憧れの身体になれるのは一部の人だけ。そう考える人も少なくないだろう。今でこそ大会出場の常連でアナウンサーの安川侑希(やすかわ・ゆき)さんも最初は「自分には無理」という考えだった。ボディメイクと出会い、変化した身体や美の基準。どんな背景があったのか、過去から赤裸々に語ってくれた。
[初出:Woman'sSHAPE vol.29]
【写真】安川侑希さんの細いウエスト&美しい背中のバックポーズ
昔の自分はまるで鏡餅
「この身体は生まれつき」だと思い込んでいた過去
――昨年は『ゴールドジム・ジャパンカップ』(※)で優勝された安川さんですが、もともと美しいボディラインをお持ちだったのではないでしょうか。
※ゴールドジムが12月に主催するマッスルゲートの全国大会。
安川 全然そんなことないです。メリハリなんていう言葉が一つも当てはまらないような、絵に描いた寸胴体型だったんですよ。いわゆる中肉中背ですね。特に社会人3・4年目の頃は週8ぐらいで飲みに行っていて、ご飯もお酒も大好きだったので身体はプックプク、お腹周りなんてコンプレックスの塊でしかなかったです。ビジュアルとしては鏡餅のような体型でした。そんな丸々とした体型だったんですが、その当時それはそれで楽しく生きていたんですよ。なぜなら、丸々体型の自分しか知らなかったから。生まれつき私はこういう身体だから何してもいいやって半ば諦めの気持ちを持っていたんです。
――そのような体型だったとは……。今の姿から想像もつきません。
安川 それこそ当時はモデルさんのような、線の細い身体に強い憧れがありました。しかし、そのような身体は恵まれた骨格の持ち主、つまり限られた人しかなれない体型だと考えていました。「私なんかが無理」という考えが染みついていたので。そういった身体になるためには「ご飯を食べないこと」だと思い込んでいましたし、ダイエットするぞ!と意気込んでも結局食べちゃう。そんな自分がいけないんだと決めつけていました。
――トレーニングへの興味を持ち始めたのはどのタイミングで?
安川 筋トレ自体に興味はありましたが、最初はボディメイクに結びつかなかったんですよね。筋トレ=筋肉モリモリのイメージがあって。番組の取材をきっかけに『マッスルハウスジム』へ通うようになって女性も筋トレをしていること、そしてボディメイクをするためには筋トレが必要であることに気づきました。そこから少しずつ憧れの体型や、美の基準が変化していったように思います。ジムの会員さんや大会観戦に行くようになって、鍛えた身体はヘルシーでカッコいいと思いましたし、健康的な筋肉で作られた女性らしい丸みのある身体に憧れを抱き始めました。その頃には「華奢=美」という価値観から変わっていました。
たった1ミリの変化でも継続すれば大きな成長に
――これまで大きな挫折をせずに、トレーニングを継続できている理由についてお伺いしたいです。
安川 私の場合、「この人のような身体になりたい!」とか「めちゃくちゃ痩せたい!」といった明確な目標や強い気持ちは正直ありませんでした。マッスルハウスジムがすごく好きっていうところが原点かな、と。そして最終的には「人」が私と筋トレを結んでくれていると感じます。ジム仲間に恵まれたこと、大会に出るようになってからは競技者同士の輪がだんだん広がっていったこと……。一人では決して続かなかったでしょう。トップ選手が「トレーニングを始めるのに遅すぎることはない」とお話されることもしばしばありますが、正直「それは選ばれた人だから言えるんだ」と思っていました。でも今は自信を持って言えます。トレーニングは誰でもできる!って。
――それほど高尚な理想を掲げないで始まったトレーニングライフだったんですね。
安川 まさにそうです。だからジムでのパーソナル時間も本当に最初は遊びのような感覚でした。ボディビル業界からすると、マッスルハウスジムは聖地と言われる場所なので「いきなりハードコアなところに入ってすごい」とよく言われますが、実際のところ最初の1・2カ月は遊びに行くような感覚だったんですよ(笑)。合戸真理子さんのパーソナルは1日1組限定なので、予約を取ったら独り占め状態で。ジム滞在の3時間中2時間はおしゃべりをしていた記憶があります。筋トレもすごく優しい重量でストレッチのようなトレーニングから始まりました。最初は動かしたことがない関節や筋肉が筋トレで動くのが楽しくて。でも、続けていると物足りなくなってきて、重さを扱ってみたいとかハックスクワットをやってみたいとか、筋トレに対する興味が湧くようになったんです。こうしてボディメイクにつながって今の私があります。
――最初からハードなトレーニングをしていたわけではなかった、と。
安川 ハードルが低かったからこそ続けられたのでしょう。難しい種目や重たいものを扱いたい気持ちは分かりますが、私の場合はその部分を真理子さんがうまくコントロールしてくれていました。嫌にならない重さとかトレーニングメニューを組んでくれていたので、毎週土曜日はマッスルハウスジムに行こう!って思えたんだな、と。本当にちょっとずつ、1ミリずつの積み重ねです。
――今では24時間ジムにも通われているそうですね。
安川 筋トレを始めた当初は大会に興味すらなかったのに、一昨年、ジャパンカップの出場権を得られなかったのがすごく悔しかったんです。負けず嫌いな性格でもあるので、これは隙間時間にトレーニングしないと自分が目指したいところには行けないな、と。また、大会に出て他の選手を見たからこそ「私、もっと頑張れる。自分に負けたくない!」と思えたのも要因の一つです。
身体は作れる!と気づき抱いていた諦めがなくなった
――長い目で見ると大きな成長につながっているのがよく分かります。安川さんが感じるボディメイクをするメリットとはなんでしょう?
安川 先ほどもお伝えしたように、選ばれた人しか美しいボディラインは作れないと思っていました。でも筋トレに出合って「自分でもできるし、身体は作れる」と気付けたことは、人生において本当に大きなメリットだと感じます。もちろん筋トレだけじゃなくて食事内容の見直しやアイテムの相乗効果で身体は変化することを学びました。PFCバランスが整った食事は脂肪を落とす手伝いをしてくれましたし、安井友梨さんがプロデュースしているウエストシェイパーをつけるようになって明らかにくびれが誕生しました。普段の呼吸まで意識するようになって、自分の身体に抱いていた“諦め"が少しずつなくなったように思います。
――自分の身体への向き合い方や捉え方も変わってきたのですね。
安川 身体の変化に伴ってポジティブに考えられる癖がつきました。トレーニングって基本的にキツいし苦しいことじゃないですか。成果だって1日で出るわけじゃないですしネガティブな気持ちに陥ることもある。ですが、これを耐えて耐えて、耐え抜いた先の自分が輝ける瞬間を体験したとき、自信がみなぎるんです。今までやってきたことは無駄ではなかった、と。私の場合はコンテストが輝ける瞬間だったわけですが、こういった晴れ舞台は人によって違うはずです。来たるべき舞台に向けて歩む道の途中には、迷うことも失敗することもあるでしょう。それも含めて、挑戦することが大事だと思いました。すべてが自分の糧となり、引き出しになっているんだな、と感じています。
――筋トレや大会出場の経験は日常でも生かされている?
安川 はい、そう感じる場面はありますね。例えば、アナウンサーという職業柄、生放送で臨機応変に対応しなくてはならないときがあります。今までは想定外のことが起こるとドキドキが止まらず、あたふたしていた場面も少なからずありましたが今ではどっしり構えていられます(笑)。目の前で起こったことは変わらないので、焦るより落ち着いてやる方が、絶対にいい結果へとつながることを経験しましたから。
ボディメイクは自分の人生を豊かな方へ導いてくれるもの
――安川さんにとって、ボディメイクとはどんなものでしょう?
安川 人生が豊かな方へ転がっていく手助けをしてくれるもの。そして好きな自分になるための手段でもあると思います。私は「痩せているから、太っているからボディメイクをした方がいい」とは思っていません。自分が好きならどんな体型でもいいと思っています。ただ、自分の見た目にコンプレックスがあるのであれば、それを解消したほうが豊かに生きられると考えています。その課題を解消する方法の一つにボディメイクがある。決して「ボディメイク=痩せる」ものではない、というのが私の考えです。
――安川さん自身は、ご自分のことを好きになりましたか?
安川 なりましたね。鏡餅体型のときなんか、特に自分に対して興味もありませんでした。何でもいいや、自分はどうせこのままなんだからって。ある意味、自分から目を背けていたのかもしれません。でもボディメイクを始めてからは、自分と向き合う時間が増えました。例えば自分に似合う服やメイク、何をするのが好きなのか――。本能のままに生きてきて、自分を喜ばせることなんて考えてこなかったので、改めて「自分は何者なのか」と考えさせてくれる、良いきっかけになったと確信を持って言えます。
【マッスルゲートアンチドーピング活動】
マッスルゲートはJBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)とアンチドーピング活動について連携を図って協力団体となり、独自にドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト大会である。
次ページ:安川侑希さんの細いウエスト&美しい背中のバックポーズ
取材・文:小笠拡子 撮影:中島康介(大会) 岡部みつる(トレーニング)