はじめに
「その腰痛、骨盤のゆがみが原因かも!?」「骨盤矯正で産後の不調を改善!」
―書店やWebサイトなどで、一度はこうしたキャッチコピーを見たことがあると思います。しかし、骨盤そのものがゆがんで変形することはほぼありません。
いわゆる「ゆがみの正体」とは一体何なのでしょうか? そして、実際に私たちが取り組むべき正しい対策とは?世の中に溢れる「骨盤」に関する誤解について、徹底解説し、本来あるべき対策の方法をご紹介します。
【動画】骨盤まわりのストレッチ|姿勢にお悩みの方にオススメ【10分間】
骨盤は「ゆがむ」のではなく「傾く」
骨盤は腸骨・仙骨・恥骨といった大きな骨で構成されています。骨同士をつないでいる仙腸関節や恥骨結合といった関節は「わずか数ミリ」しか動かない構造になっています。
そもそも、骨は非常に硬いものです。頭蓋骨や腕、脚の骨は曲がると思えないほど硬いのに、骨盤の骨だけがゆがむというのはおかしな話です。
骨の大きさや形は、生まれ持った骨格でほとんど決まります。股関節の角度や大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)の長さに数ミリ程度の差があることは、自然な個体差の範囲です。脚の骨の長さが違ったり、股関節のハマり方が違ったりすることで、その起点となる骨盤の傾きや見え方にも影響が出ます。筆者の私も例外ではなく、左足の踵の骨や左手薬指の付け根の骨が少し小さかったりします。
筋肉の末端は腱や腱膜という組織で骨にくっついており、筋肉が伸び縮みすることで身体が動かせる仕組みになっています。筋肉の動きや長さのバランスによってその人の姿勢が変わったり、骨の位置が変化したりします。
これを踏まえた上で、実際に「ゆがみ」と呼ばれているものは以下のような現象であることが考えられます。
骨盤の前傾・後傾(反り腰、猫背の原因となりやすい)
身体の前面と背面の筋力に差があると、骨盤が前後に傾くクセがつくことがあります。
例えばデスクワークが続き、身体の前面にある腹筋が短縮して、後面の背筋が伸ばされている状態になると、骨盤は後傾しやすくなります。反対に立ち仕事で後面の背筋が緊張して短くなり、腹筋群が緩むと骨盤は前傾しやすくなるのです。
左右の高さの違い(片方に体重をかけるクセ)
身体の側面にある骨盤の高さに関わる筋肉は腹斜筋、中殿筋、内転筋、腸腰筋などがあります。例えば、右足に荷重するクセが強いと左側の腹筋や腸腰筋などが緩み、左の骨盤の高さが上がってしまいます。
捻じれ(歩き方や筋肉の使い方の偏り)
骨盤周辺にある身体のねじれに関わる要素は、前後左右の筋力差、日常生活動作のクセなどが関係します。左回りの陸上トラックを周回して走ったり、右打ちでゴルフスイングばかりしていると、骨盤の動き方に左右差が生まれたりします。
これらは身体の使い方による筋肉のアンバランスやクセによって起こる骨盤の傾きの変化であり、骨自体がゆがむような変形ではないのです。
「骨盤矯正」で起きること
整体や骨盤矯正サロンで行われる施術は、多くの場合
・筋肉の緊張を緩める
・関節の可動域を一時的に整える
・リラックス効果を与える
といった目的で行われます。 しかし、「骨盤そのものの形を矯正する」ことは構造上不可能です。
つまり、骨盤矯正で得られるのは 普段の姿勢に気づくきっかけや一時的な緊張緩和による軽快感であり、根本的な対策には生活習慣の見直しや、姿勢を保持するための筋力トレーニングが欠かせません。骨格は筋肉によって支えられているため、いくらほぐして楽になったとしてもそれを支え続けることができなければ、また骨盤が傾いてしまうことになるのです。
正しい対策:骨盤は「使い方」で変わる
骨盤まわりの不調や見た目の左右差を改善するには、筋肉と姿勢のバランスを整え、維持し続けることが最も理にかなっている方法です。
①姿勢の習慣を見直す
- 長時間座るときは30分ごとに立ち上がる
- 片側に重心を偏らせすぎない
②柔軟性を取り戻す
- 骨盤の動きに関わる筋肉をストレッチする
- 股関節の可動域を確保する
③筋力を強化する
- 骨盤の上下にある胴体と下肢を鍛えて、骨盤の安定性を向上させる
- 腹筋と背筋を鍛える → 骨盤の上にある体幹部分の偏りを防ぐ
- 下肢を鍛える → 骨盤の前傾後傾、左右差の偏りを防ぐ
まとめ
「骨盤のゆがみ」について、骨自体が変形したり、ゆがんだりするのではなく、日常的におこなっている運動や習慣による筋肉のアンバランスによるものだという点はご理解いただけたでしょうか?習慣による変化は習慣によってしか解消されません。
筋肉のアンバランスやクセによる前後左右の傾きを整えたり、心身のリフレッシュを図るためにも、専門家によるメンテナンスは有用だと思います。ただし、それを維持するためにはトレーニングやストレッチも併せて継続しましょう。
骨盤は「ゆがむ」ものではなく、筋肉の状態によって「傾き」や「動きの偏り」が生まれ、不調につながることがある
骨盤矯正は一時的な変化にとどまる
根本的な解決は、姿勢習慣の改善・柔軟性の回復・筋力強化が必要
どんなことにも魔法のように解決してくれることはなく、小さな努力を続けないといけないのは心の奥底で分かっているはずです。このコラムをきっかけにセルフケアを始めていただけるとうれしいですね。
【動画】骨盤まわりのストレッチ|姿勢にお悩みの方にオススメ【10分間】
著者:前田 修平(まえだ・しゅうへい)
NASM-PES、はり師・きゅう師。ストレッチを中心とした身体のセルフケアを学べるYouTubeチャンネル『前田のまいにちセルフケア by GronG』を運営。登録者は29万人以上(※2025年2月時点)。科学的な根拠をもとに、健康的な身体づくりのためのセルフケア方法をわかりやすく伝えている。
Web構成:中村聡美