グラチャンでの接戦、そして世界の舞台で突きつけられた骨格の差。しかし海外選手の遺伝的な優位性を筋肉量でカバーし、「背中は1位か2位を争えた」と確かな手応えを感じるほどに作り上げた。グラチャン、そして世界選手権優勝まであと一歩へと迫る増原駿選手が語る、立体的な背中の作り方とは。
取材・文:柳瀬康宏 大会写真:中原義史、East Labs Photo Team トレーニング撮影:岡暁 Web構成:中村聡美

増原駿 2025年グランドチャンピオンシップス。4連覇を果たした王者・伊吹主税選手に3ポイント差で敗れ2位となった
━━昨年のグランドチャンピオンシップスの率直な感想を教えてください。
増原 グラチャンは、当然優勝を狙って出ています。ただ、バックステージで手島(祐)さんを見たときにすごい身体だったので、手島さんと僕のワンツーかな、と。順位発表で手島さんが4位で呼ばれたときは、僕が優勝かと思いました。
━━結果は、伊吹(主税)選手に3ポイント差で惜しくも2位。
増原 伊吹さんは弱点が少なく、完成度が高い。僕も仕上がりは良かったですが、全体で見たときに欠点が少ない方が強いですね。
━━昨年はオールジャパンを見送って、グラチャンを1発目に持ってきました。
増原 僕は連戦が得意ではなくて、1発目に合わせるのが得意なんですよね。あとはインパクトです。
━━インパクト?
増原 オールジャパンとグラチャンの審査員が被ることが多々あります。そうなったとき、「今年の増原はこういう身体」という印象が付いてしまいますよね。そこは避けたかったです。
━━特に見せたかったものは?
増原 仕上がりです。今年は減量がうまくいき、仕上がりの面では誰にも負けない自信がありました。筋肉量もある方なので、筋肉があって、なおかつ一番絞れていたら、評価せざるを得なくなるのではないか、と考えました。
海外の舞台で感じた「勝てる部位」
━━世界選手権で海外選手を見てどう感じましたか?
増原 感じたのは骨格の差ですね。海外の選手は肩幅があり、中東の選手はウエストが細いのに腹筋が強い。
━━筋肉量の差は感じました?
増原 筋肉量は負けている気がしなかったです。背中と肩は1位、2位くらいを争えていた感覚はあります。
━━では、総合面で差が出た要因は?
増原 全体的なバランスの遺伝的な要素ですね。ウエストの細さ、肩幅、その辺で1位の方と差があったかなと思います。2位の伊吹さんともそうです。

2025年IFBB世界男子ボディビル選手権。メンズフィジーク173cm以下級で優勝まであとわずかの3位
━━3位という結果をどう受け止めていますか?
増原 3位という結果がうれしいかと言われると、うれしくはないです。「世界3位おめでとう」と言われることに抵抗があるんです。階級別ですし、今回、中東開催でヨーロッパ勢があまり来ていない。もし揃っていたら5位、6位だった可能性もある。もしあそこで優勝できたとしても世界王者と名乗れるかと言われると名乗れない。条件が揃っていない中で称号だけ先に行くのが嫌なんです。
遺伝的要素を覆す背中のトレーニング
━━背中が強みの増原選手ですが、初心者が背中トレのコツを聞きに来たら、何とアドバイスしますか?
増原 肩甲骨をしっかり下制させることです。そこから全てが始まると思っています。例えば肩甲骨が正しく使えていないと、肩が上がったままラットプルダウンを引いてしまうことになります。そうすると、背中以外の筋肉を使うことになるので、効果が半減してしまいます。
またベントオーバーロウやダンベルワンハンドロウなどの足で踏ん張るような種目は、肩甲骨を使いやすくするために、ハムで身体を支える意識も必要ですね。まずは肩甲骨をしっかり落とすことからスタートです。

ロープーリーもVバーとストレートバーどちらも実施。ハムで身体を支え、とにかく引き込む意識で動作
━━背中トレの流れと種目を教えてください。
増原 基本は、全身運動に近い下から引く種目を前半に持ってきていますが第1種目はチンニング。
━━第1種目に選んだ理由は?
増原 トレーニング前にストレッチやコンディショニングをやらないので、背中のストレッチを兼ねてやっているんです。
━━こだわりなどはありますか?
増原 手幅は肩幅くらいでサムアラウンド。手首も割と入れ込んで掌屈気味で握ります。親指を外すと、ネガティブでスッと抜ける感覚が出てしまいます。脇を開かないようにして、肘を中に入れて、みぞおち辺りをバーに付けに行くイメージです。あと、動作時の脚は後ろで組みます。広背筋は尻の上の方からつながっているので、お尻は締めておきたいです。
━━ここからは下から引く種目が続きます。
増原 はい。ベントオーバーロウから入ります。重さを扱う位置づけなので、動きは直線的になります。イメージとしては弧を描きたいけど、無理に孤を描くようには引きません。効き感が6、重量が4くらいの感覚で抑えています。重すぎるとボトムで持っていかれて、広背筋に引っ掛けたままネガティブに耐えられず抜ける感覚が出るので。

背中トレ第2種目のベントオーバーロウイング。120~130㎏を4セット。重すぎると広背筋に引っ掛けながらネガティブに耐えられないため重量は抑えめ
━━そして動きが近い種目のTバーロウ。
増原 Tバーロウは背中トレのメニューで10年くらい外したことがないです。一般的なTバーロウマシンは足の位置が決まっていて、支点と足の距離が遠くなるとボトムで耐えられない。フリーウエイトは足を自由に置けるので、重りに近い位置に足を持っていけます。僕はVバーを引っ掛けて、Vバーの横に足が来る距離感でやっています。

第3種目のTバーロウは85kg(プレートのみ)で行う。この種目は唯一、背中トレで外したことがないほどお気に入りと話す。少し猫背気味にしながら巻き込んでみぞおちに当てにいくイメージ
━━この姿勢は腹圧の維持が難しそうです。
増原 腹圧は強くかけて固めるというより、軸を1本通す感覚です。固めると不要なところに力が入って、可動域も狭くなる感覚があります。誰かに軽く押されてもブレないくらいの軸をつくる、という感覚ですね。
あと、できるだけ上体が起き上がり過ぎず、引っ張ってくるというより、少し猫背気味にしながら巻き込んでみぞおちに当てにいくイメージです。

Tバーロウはフリーウエイトとマシン両方行う。フリーウエイトは広背筋狙い、マシンは僧房狙いと使い分ける
━━ワンハンドダンベルロウは高重量ですね。
増原 60㎏でやっていますが、本当は70㎏くらいでやりたいんです。でも今のジムは60㎏までしか置いてないので、自分としてはきれいにやる種目になっています。10回から11回くらいで限界が来るくらいですかね。
ワンハンド種目を入れる理由は、広背筋に入っているイメージがつくりやすいことと、可動域を取りやすいこと、肩甲骨の下制がしやすいことです。片手で支えられるので、ボトムでストレッチをかけやすいです。また引く際の身体の回旋を防ぐためには目線が大切です。目線は正面、もしくはやや下。個人的には上を見ると回旋しやすい。あと意識しているのは常にハムで支えられているかどうかですね。

ワンハンドダンベルロウ。60kgを扱うが、「本来は70kgぐらいで引き込みたいんです」と言う。可動域が確保しやすい理由からワンハンド種目を取り入れている
━━最後の種目がプルオーバーですが、この狙いは?
増原 コンディショニングのイメージですね。背中の日はチンニングとプルオーバーがその役割を担っています。背中は基本、肩甲骨を下制した状態で固定して動かしますけど、プルオーバーは逆で、肩甲骨を挙上させて、そこから下制させて持ってきます。肩甲骨の動きを確認する意味もあって、挙上と下制を繰り返しています。

締めはケーブルプルオーバー。肩甲骨の挙上と下制を繰り返す。コンディショニングの役割を果たしているという
━━意外にもデッドリフトはメニューに入れてないんですね。
増原 やってなかったですが、今回のオフから取り入れました。ベントオーバーロウを外してデッドリフトにする、という方向です。今は自分でやっているんですけど、デッドリフトがしっくりこなくて。藤井貫太朗選手に連絡して、デッドリフトを教えてほしいと言っています。大阪でデッドリフトと言えば藤井選手ですし、抜群に上手いので。
グラチャンと世界選手権優勝そしてその先へ
━━最後に、今後の目標を聞かせてください。
増原 次のシーズンは、グラチャン優勝と世界選手権優勝が絶対条件です。達成できなかったら、めちゃくちゃ落ち込むと思います。グラチャンで優勝できなかった昨年も落ち込んだので。世界選手権も伊吹さんには勝つつもりだったので、その雪辱を果たしたいです。あと、脚を出したくなってきました(笑)。
━━それはボディビルに挑戦ということですか?
増原 はい。脚トレもしっかりしています。ただ、フィジークで成績を残している選手がボディビルに行くとなると、見られ方のフィルターがかかります。フィジークのトップ選手が、ボディビルでも遜色ないレベルだと思われるくらいの筋量になってから出たい。初年度に出るなら、クオリファイも含めて、日本クラス別で3位以内に入れる自信が付いてからです。
━━時期の目安はありますか?
増原 グラチャン優勝して、世界選手権優勝したら、フィジークは一旦いいかなと思っています。そこが自分の中での最高到達点になるので。フィジークで思い残すことがなくなったら、次のシーズンがカテゴリー変更、というイメージです。それが来年かもしれないし、2年後、3年後かもしれない。ボディビルに行ったらフィジークには戻れないので、フィジークでやり残したことがない状態で臨みたいです。

ますはら・しゅん
1994年12月28日生まれの31歳。大阪府出身。身長171㎝、体重72kg(オン)、81~82kg(オフ)。介護施設長。2024年オールジャパン メンズフィジーク172cm以下級優勝。2024年グランドチャンピオンシップス メンズフィジーク3位。2025年グランドチャンピオンシップス メンズフィジーク2位。2025年IFBB世界男子ボディビル選手権メンズフィジーク173㎝以下級3位











