
2025年日本男子ボディビル選手権4位
寺山諒
バルク、バランス、ポージングの総合力の高さ。その完成度の高さから〝THEボディビルダー〟とも称される寺山諒。〝超高精密〟に練られたトレーニングプログラムを理論と技術を踏まえて部位別に解剖していく。短期連載第2回目は寺山選手の背中を覆う巨大な僧帽筋と広がりと凹凸を兼ね備えた高密度な背面に注目する。
背中は広背筋、大円筋、僧帽筋、菱形筋、脊柱起立筋など、多くの筋群で構成される巨大な部位だ。正面から見たときの逆三角形の土台となり、後方では広がり、厚み、凹凸の全てが問われる。自分の目で見えにくく、感覚をつかむのも難しい部位だからこそ、軌道、姿勢、呼吸、重心を高い精度で行う必要がある。
各トレーニング種目では、鍛えられる部位、負荷がかかるポイントであるPOF(ミッドレンジ種目:可動域の真ん中で負荷が増大する種目。ストレッチ種目:筋肉が最も伸びた状態で負荷が増大する種目。コントラクト種目:筋肉が最も収縮した状態で負荷が増大する種目)、グリップ(親指を巻き込むサムアラウンド、親指を外したサムレス、親指をバーに沿わせるサムアップ)、そして使用器具を紹介。そして種目の基本の動作に加え、寺山選手が実践するレベルアップのための動作ポイント、そしてよくあるエラーや修正ポイントをQ&A形式でまとめた『教えて、寺山さん!』も掲載していく。
取材・文:柳瀬康宏 撮影:中原義史 Web構成:中村聡美
ボディビル競技における背中の重要性と目標とするイメージ
背中は、ボディビルの7ポーズの中でも特に差がつきやすい部位だと思います。バックダブルバイセップスとバックラットスプレッドでは、最初に背中の凹凸感や広さに目がいきます。そこからハムストリングスや臀部、肩の丸みへと視線が移っていきます。つまり背中は、後ろ姿の第一印象を決める部位なんです。フロントで差がつかなかったとしても、バックポーズで差がつくことも多いです。広がりだけでもだめで、凹凸や密度も必要になる。ボディビルダーらしい迫力を後ろ姿で見せるためには、背中の完成度は欠かせないです。
背中トレで大事にしていること
背中トレで共通して意識しているのは、肩関節の動きと、腕を引いてくる動き、そして股関節を倒したり起こしたりする動きを、同時に始めて同時に終えることです。腕だけ先に引いたり、身体だけ先に起こしたりすると、刺激が偏りやすくなります。広背筋の起始から停止まで、下のほうまでしっかり刺激を通したいので、この連動はどの種目でも大切にしています。
メニュー構成の考え方
背中は最初に、しっかり引き切れて、なおかつストレッチも収縮も取れる種目を持ってきています。最初のラットプルダウンで出力をしっかり出して、そこからワンハンド種目で収縮を深め、ロウイング種目で中部から下部の厚みを作る。さらにフリーウエイトを挟みながら、最後はマシンとシュラッグで密度と僧帽筋を詰めていく。大きくそんな流れですね。それでは各種目を見ていきましょう!
第1種目ラットプルダウン
ターゲット:広背筋
POF:ミッドレンジ種目
グリップ:パラレルグリップ
背中の1種目目はラットプルダウンです。パラレルグリップを選んでいる理由は、一番力が出しやすく、なおかつ収縮もストレッチも取りやすいからですね。背中の種目は後半になるとどうしても引き切れなくなりやすいので、この種目はフレッシュな状態で最初に行っています。
基本動作
①バーを握ってシートに座り、パッドで身体を安定させる
②胸郭を立て、広背筋にテンションを作る
③肘を下ろすようにしてバーを胸へ引いてくる
④胸に当たる位置までしっかり引き切る
⑤コントロールしながら戻し、広背筋のストレッチを感じる(繰り返す)
動作ポイント
ラットプルダウンは、ただバーを引くだけでは背中に入りにくいです。まずはバーを持たずに、軽くお辞儀した姿勢から、手のひらを後ろに向けて水をかくような動きをしてみてください。そうすると、肘を下ろしたときに広背筋がどう働くのかを感じやすくなります。その感覚を作ってから軽い重量、そしてメイン重量へとつなげていくと、ギャップなく背中を使いやすくなります。
また、この種目では土台の安定も重要です。今回使用しているマシンはパッド位置が高く、足裏全体では踏みにくいため、母指球で踏ん張りながらパッドに腿を押し当てています。お尻が浮いてしまうと起始も停止も一緒に上がってしまい、広背筋のストレッチが弱くなるからです。あくまで土台を固定したうえで、胸に当たるところまで引き切る。その精度を大事にしています。
ラットプルダウン
下半身の安定が重要!
【対象部位:広背筋】


【動作方法】
①バーを握ってシートに座り、パッドで身体を安定させる
②胸郭を立て、広背筋にテンションを作る
③肘を下ろすようにしてバーを胸へ引いてくる
④胸に当たる位置までしっかり引き切る
⑤コントロールしながら戻し、広背筋のストレッチを感じる(繰り返す)
教えて、寺山さん!
ラットプルダウンで肩や腕ばかり疲れてしまいます。どうすれば背中に効きますか?
まずはバーを持たずに、広背筋が働く感覚をエアーで確認してみてください。そこから軽い重量、少し重い重量と段階的に上げて、同じテンションが取れるかを見ていくと良いですね。いきなりいつもの重量で始めるより、そのほうが背中の感覚をつかみやすいと思います!
ここに注目!
動画ではラットプルダウンのバーの軌道に対して身体がブレず、胸までしっかり引き切っているところを見てほしいです!
第2種目フロントプルダウン
ターゲット:広背筋
POF:ミッドレンジ種目
グリップ:アンダーグリップ
2種目目はフロントプルダウンです。ワンハンドで行うことで意識を入れやすく、アンダーグリップによってストレッチも収縮も取りやすい種目です。さらに片側ずつ行うことで、広背筋のラインをより明確に意識できます。
基本動作
①片手でグリップを握り、反対の手でパッドを押さえる
②足でしっかり踏ん張り、下半身を固定する
③身体を回旋させず、肘を下方へ引くように動かす
④収縮位置で一度止め、背中で締める
⑤ストレッチを感じながら戻す(繰り返す)
動作ポイント
この種目で多いエラーは、グリップを引こうとする意識が強すぎて身体が回旋してしまうことです。そうならないために、足でしっかりパッドを踏ん張り、へそから下の状況を変えないことが大切です。
さらに、引く側と反対の手でパッドを押さえ、身体が開かないようにロックしています。そして三角筋のピークあたりを下背部のほうへ当てにいくような感覚で股関節と腕が連動するように引いていきます。引き切ったところでは、握る力を少し緩めて背中の収縮を強める。引いて終わりではなく、引いて止めて、そこから戻す。この一瞬の止めが入ることで、収縮の感覚がより明確になります。
フロントプルダウン
引いて、止めて、戻す
【対象部位:広背筋】


【動作方法】
①片手でグリップを握り、反対の手でパッドを押さえる
②足でしっかり踏ん張り、下半身を固定する
③身体を回旋させず、肘を下方へ引くように動かす
④収縮位置で一度止め、背中で締める
⑤ストレッチを感じながら戻す(繰り返す)

教えて、寺山さん!
フロントプルダウンをすると身体がねじれてしまいます。どうすればいいですか?
グリップを引く意識が強すぎると回旋しやすいです。足でしっかり踏ん張って、反対の手でパッドを押さえて、まず下半身を固定してください。そのときの脚は、引く側の足を手前に置いてください。前に置いて踏ん張るとどうしても回旋しやすくなるんです。そのうえで〝横に振る〟のではなく〝縦に引く〟意識でやってみてください!
ここに注目!
フロントプルダウンの動画では、腕を引く動きと股関節の動きが同時に始まり、同時に終わっているところに注目してほしいです。文字だけでは分かりにくい連動の精度は、ぜひ動画で確認してみてください!
第3種目DYロウ
ターゲット:広背筋中部・下部、僧帽筋中部
POF:ミッドレンジ種目
グリップ:サムアラウンド
3種目目はDYロウ。上から引いてきた流れから、今度は前方から引く軌道を使って、広背筋中部から下部、さらに僧帽筋中部まで刺激を入れていきます。脇を閉じた状態で内側までしっかり引き込めるのが特徴です。
基本動作
①シートに座り、胸をパッドに当てる
②足裏全体で踏ん張り、体幹を安定させる
③収縮ポジションを作ってからストレッチをかける
④肘を身体の近くで引き、内側へ寄せる
⑤コントロールして戻す(繰り返す)
動作ポイント
この種目も、足の踏ん張りは〝後ろに引くため〟ではなく、〝体幹を安定させるため〟です。足裏全体で踏ん張り、股関節と膝の角度を固定しておく。胸はパッドから離れすぎず、みぞおちより少し上まではついている状態が理想ですね。そうしないと、股関節を軸に身体が振れてしまい、背中に乗せたかった負荷が逃げやすくなります。
DYロウ
体幹の安定が効かせる肝
【対象部位:僧帽筋中部、広背筋中部・下部】

【動作方法】
①シートに座り、胸をパッドに当てる
②足裏全体で踏ん張り、体幹を安定させる
③収縮ポジションを作ってからストレッチをかける
④肘を身体の近くで引き、内側へ寄せる
⑤コントロールして戻す(繰対象部位り返す)

教えて、寺山さん!
ロウイング系の種目をすると、腕だけで引いている感じになります。
最初から完全に脱力して引くと、腕が主導になりやすいです。まず収縮ポジションを軽く作って、〝ここで背中が働く〟という場所を決めてからストレッチをかけてください。そこから引くと、背中で引く感覚がつかみやすくなると思います!
第4種目ベントオーバーロウ
ターゲット:広背筋中部・下部
POF:ミッドレンジ種目
グリップ:アンダーグリップ
4種目目はベントオーバーロウ。ここまでマシンで背中が十分にパンプした状態で行うことで、フリーウエイトでも自然と背中を使いやすい状況を作っています。現在はアンダーグリップで行い、中部から下部へ強く負荷を乗せています。
基本動作
①バーベルを握り、真っすぐ立つ
②肩をやや外旋し、肩甲骨を軽く内転させる
③息を吸って背中と体幹にテンションを作る
④ヒンジ動作で上体を倒し、バーを引く
⑤緊張を抜かずに繰り返す
動作ポイント
背筋が曲がらないようにして、股関節から綺麗に身体を倒す(ヒップヒンジ)ことが大切ですね。重心は足裏の真ん中寄りですが、母指球でも踏めている感覚が大切です。踵に乗りすぎると膝位置が崩れたり、ハムストリングスのテンションが抜けたりしやすいんです。お尻の位置は高く保ち、膝は足首の上に置いたまま、背中全体でバーベルを吊るイメージですね。
ベントオーバーロウ
背中全体でバーベルを吊るイメージ!
【対象部位:広背筋中部・下部】

【動作方法】
①バーベルを握り、真っすぐ立つ
②肩をやや外旋し、肩甲骨を軽く内転させる
③息を吸って背中と体幹にテンションを作る
④ヒンジ動作で上体を倒し、バーを引く
⑤緊張を抜かずに繰り返す
教えて、寺山さん!
ベントオーバーロウをすると腰がしんどくなって、背中に入りません。
ラックアップしてから前傾姿勢を急いで作ると、腰から先に力が入ってしまいやすいです。まず真っすぐ立った状態で肩甲骨周りにテンションを作り、肘をほんの少し曲げ、そこから息を吸ってお腹と背中の圧を高める。その順番でヒップヒンジに入ると、前傾姿勢でも腹圧がかかりやすくなります。背中とお腹に圧がかかった状態で倒せると、かなり変わると思います!
ここに注目!
僕のベントオーバーロウは比較的テンポが速いんです。ただこれは腹圧がしっかりとかかって負荷が抜けないので広背筋にかなり刺激が入るんです。
第5種目マシンロウイング
ターゲット:広背筋中部、僧帽筋中部・下部
POF:ミッドレンジ種目
グリップ:サムアラウンド
5種目目はマグナムのロウイングマシンです。フリーウエイトの後に再びマシンへ戻すことで、一定方向へ引っ張られ続ける負荷の中で、終盤でも精度高く背中を追い込んでいきます。
基本動作
①マシンに座り、胸郭を立てる
②息を吸って、パッドでお腹を押し返すように圧を高める
③肩甲骨の位置を整えてから引き始める
④中部へ寄せるように引き切る
⑤コントロールしながら戻す(繰り返す)
動作ポイント
この種目では、最初に息を吸い圧を高めて、肩の位置を前から後ろへ移行させます。肩のポジションが前に残ったままだと、腕で引く割合が増えてしまうんです。逆に、息を吸って背中が働き始めると、肩が自然と正しい位置へ収まり、背中で引きやすくなります。
後ろから見たイメージとしては、広背筋中部から僧帽筋中部下部にかけて、横のラインを縮める感覚ですね。縦方向の種目とは違い、ここでは〝横へ寄せる〟意識が強くなります。足の踏ん張りも前後ではなく、下から上へ。パッドから身体が離れないように支えることが大切です。
マシンロウイング
〝最初に息を吸う〞がポイント!
【対象部位:僧帽筋中部下部、広背筋中部】

【動作方法】
①マシンに座り、胸郭を立てる
②息を吸って圧を高める
③肩甲骨の位置を整えてから引き始める
④中部へ寄せるように引き切る
⑤コントロールしながら戻す(繰り返す)
教えて、寺山さん!
ロウイング系で肩が前に出てしまいます。どうすればいいですか?
いきなり引き始めるのではなく、まず息を吸って背中の圧を高めてください。すると肩のポジションが前から後ろへ移って、背中が使いやすくなります。肩の位置が整うと、引きやすくなると思います!
第6種目バーベルシュラッグ
ターゲット:僧帽筋
POF:コントラクト種目
グリップ:サムアラウンド
背中の最終種目はバーベルシュラッグ。僧帽筋をしっかり発達させ、モストマスキュラーでも映える密度を作るための種目です。重たい重量を真っすぐ持つことで、僧帽筋だけでなく身体の軸そのものも意識しやすくなります。
基本動作
①セーフティを高めに設定し、バーを握る
②真っすぐ立ち、身体の軸を整える
③肩を真上へ挙上する
④上で一瞬止め、僧帽筋の収縮を感じる
⑤コントロールして下ろす(繰り返す)
動作ポイント
シュラッグでは、重力に対してどう動くかをシンプルに考えています。純粋に真上へ挙上し、真下へ下ろす。それだけです。意識するのも、僧帽筋でしっかり上げられているか、下げられているか、その一点ですね。
また、セーフティはかなり高めに設定しています。膝を少し伸ばせばもうスタートポジションが取れる高さにして、余計な労力を減らしています。終盤なので、そこに余計な力は使いたくないんですよ。重たい重量を扱ったあとにある程度回数ができる重量にすることで、その重さが軽く感じられ、動作のクオリティもさらに高めやすくなります。
シュラッグ
シンプルに「真上に上げて真下に下ろす」
【対象部位:僧帽筋上部】

【動作方法】
①セーフティを高めに設定し、バーを握る
②真っすぐ立ち、身体の軸を整える
③肩を真上へ挙上する
④上で一瞬止め、僧帽筋の収縮を感じる
⑤コントロールして下ろす(繰り返す)
教えて、寺山さん!
シュラッグで肩を回したほうが効くと聞いたのですが、本当ですか?
うーん…僕はあまりそう思わないですね。回すと重力に対して力の方向がずれる場面が出てしまうので、ちょっともったいないかなと。真っすぐ上げて真っすぐ下ろす。その中で僧帽筋にしっかり乗せるほうが大事だと思っています!
てらやま・りょう
1995年9月12日生まれ/東京都出身/身長170.4㎝、体重82.7㎏(オン)97.8㎏(オフ)/パーソナルトレーナー主な戦績2019年東京オープンボディビル選手権75㎏超級優勝2024年日本クラス別ボディビル選手権80㎏以下級優勝日本男子ボディビル選手権5位2025年日本男子ボディビル選手権4位第3回ジュラシックカップグランドクラス優勝31M.B.B.Jun.2













