御邊直人(おんべ・なおと/23)さんとボディメイクの出会いは、自分の尊厳を取り戻したいという切なる願いが発端だった。
「中学生から大学生まで野球をしてきて、高校は自分たちの代で夏の甲子園(履正社高校)を優勝しました。しかし、自分はベンチ外でした。大学でもチームは全国大会に出場しましたが、やはりベンチ外で悔しい思いをしました。このまま挫折ばかりの人生では駄目だと思い、メンズフィジークの大会に出場し優勝することを目標にボディメイクを始めました」
新たな目標として立てたボディメイク競技のため、これまでのトレーニングとは大きく手法を変えた。
「野球をしていたときは鍛える部位を分けてトレーニングするということはあまりしていませんでしたが、身体を変えるために部位別に変え、苦手な部位は週2回まわすようにしました。トレーニング時間を長くしてボリュームを確保するとともに、重量や回数を更新していく意識を強く持ちました」
控えであったとはいえ、12年間を過酷な練習に耐え、履正社高校など第一線の環境で邁進してきた御邊さんのポテンシャルは高かった。肉体は鍛錬にみるみる応え、初出場の『マッスルゲート別府大会2023』で、メンズフィジーク新人の部172㎝以下級優勝とジュニアの部のダブル優勝を飾った。その後も快進撃は続く。翌年の『マッスルゲート大阪高槻大会2024』ではジュニアの部優勝にくわえ、社会人や経験者を交えた一般172㎝以下級でも優勝を遂げた。筋肉量もさることながら、初心者の難関である減量を見事に絞り切った方法には、御邊さんならではの工夫が詰まっていた。
「好きなアイドルやラッパーのライブに通いまくりました。ライブは月に4回ほど、場所は問わずで夜行バスなどで行っていました。ライブがないときは温泉に行ったり、友達と会ったりととにかく空腹を忘れるようにしていました」
「初めての減量は4カ月間で15kgを落としました。次は少し緩めて4カ月で10kgです。たんぱく質量と脂質量を固定し、炭水化物量で調整する方法です。たんぱく質はささみ、脂質は魚系と卵、炭水化物は米と芋をメインで食べていました」
また、減量期と国家試験が被った時期には朝4時半に起きてトレーニングをしてから仕事に行き、帰ってからまた勉強に励むという超ハードスケジュールも乗り越えたという。そして昨年、ゴールドジム主催大会の地方戦優勝者が集う全国頂上戦である『ゴールドジムジャパンカップ2024』に参戦。メンズフィジーク172cm以下級優勝を遂げた。
張り出した肩と胸筋が映える逆三角形のプロポーションに、前面からでも見えるほど発達した広背筋と、ボディメイク歴たった1年半とは思えないほどの進化した姿を作り上げた日々について、御邊さんはとても有意義だったと振り返る。
「トレーニングでの効果を出すために食事を整えたり睡眠時間を確保するなどした結果、身体が大きくなるだけでなく健康面も良くなって、メンタルも強くなりました。まだまだ自分の理想とはほど遠いですが、将来的にはJBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)のオールジャパン選手権(メンズフィジーク部門日本一を争うステージ)で活躍し、多くの人から憧れられる選手になりたいです」
アルプススタンドから遠く見ていた煌びやかな勝利の瞬間を、自らの首にかかる金メダルとして掴み返した御邊さん。勝利や栄光は一筋縄で手に入るものではない。だからこそ、数多の悔しさと挫折に押しつぶされず、さらなる努力を積み重ねられる人は美しく、周りの心にも火を灯してくれるのだろう。
取材:にしかわ花 写真提供:御邊直人
『IRONMAN』『FITNESS LOVE』『月刊ボディビルディング』寄稿。広告・コピーライティング・SNS運用も行うマルチライター。ジュラシックアカデミーでボディメイクに奮闘している。