体幹を鍛えるベンチプレスは姿勢や細かい動作の差で効いてくる部分なども異なってくる。今更誰にこんなことを聞いたらいいのだろうか。というベンチプレスにまつわる素朴な疑問を井上大輔先生が解説してくれる。今回はベンチプレスの手幅はどのぐらいがいいのかを聞いてみた。
<本記事の内容>
ベンチプレスの手幅はどのくらいがいいのか?
●ベンチプレスで高重量を挙上したい場合は、手幅が広めのグリップのベンチプレス
●大胸筋を大きく動かし、肩のインナーマッスルも強化してスポーツに役立たせたい場合は、手幅が狭めのベンチプレス
ベンチプレスの手幅はどのぐらいがいいのか?
20年以上前に筆者がベニスのゴールドジムで「マイク・メンツァー」という当時話題になっていた「ヘビーデューティートレーニング」の指導を受けたときに言われたのが、「プレス系は手幅を狭くするように」というアドバイスでした。当時の私は手幅を広く握ると大胸筋を刺激し、手幅を狭くすると上腕三頭筋に刺激がいくと教えられていたので、彼のアドバイスに疑問を感じたのを覚えています。しかし20年後、その意味を理解することができました。
基本的なことですが、大胸筋の動きは肩関節の水平内転(写真1 -1)(写真1-2)であり、手幅を若干狭くすることにより、肩関節の水平内転の動きを引き出すことができるというわけです。
手幅が広いと肩関節の水平内転の動きが小さくなることから(写真1 -3)、大胸筋の発達を考えると手幅は若干狭めのフォームが適切であるということになります。(写真1-4)
肩甲骨が正しい位置にあると肩関節がスムーズに動きます。ベンチプレスで、肩関節の水平内転の動きを正しく行い、上腕骨の骨頭が関節をスムーズに回ることで肩のインナーマッスルの強化も期待できます。手幅を広く握ることの利点は高重量が扱えるということです。手幅を広く握るとバーベルと体幹の距離が近くなり、仕事量が減少します。
例えば、100㎏の重量を持って手幅を狭くしてバーベルを50㎝の距離を移動させると100㎏×9 .8m/s2×0.5=490J。100㎏の重量を持って手幅を広くし、バーベルを25㎝の距離で移動させると100㎏×9 .8m/s2×0・25=245Jと仕事量が半分になります。このことから、手幅を狭くしてベンチプレスを行うのは大変な労力を必要とするので、もし「高重量を挙上する」ことが目的であるならば手幅を広くする方が効率がいいということになります。
簡単にまとめると
●ベンチプレスで高重量を挙上したい場合は、手幅が広めのグリップのベンチプレス
●大胸筋を大きく動かし、肩のインナーマッスルも強化してスポーツに役立たせたい場合は、手幅が狭めのベンチプレス
というように、使い分ければいいと思います。なおボディメイクが目的の場合は、筋肉の発達を最優先に考えると、高重量のベンチプレスで筋肉に強い刺激を入れることも必要になってきますし、大胸筋の可動域を大きくとり、大胸筋を刺激することも大事になってきます。したがって、手幅を広めにとり、高重量で大胸筋を刺激する種目と、手幅を狭めに握り、大胸筋のストレッチ、収縮を最大にとる種目の両方を行うのがいいと思います。例えば手幅を広めに握ったベンチプレスの後に、手幅を狭めに握ったインクラインプレスを行うというような形になると思います。
文:井上大輔 <NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会>
井上 大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/ NSCACSCS/NPO 法人JFTA 理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF 全日本選手権 第6位。
NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会 TEL:078-707-3111