ケトルベルが世の中に浸透し、ホームセンターやSNSでも見かける機会が増えました。しかし、間違った使い方をすれば効果が出ないどころか、怪我のリスクすら伴います。では、どうすればケトルベルを正しく活用し、最大の効果を得ることができるのでしょうか?
本記事では、ストロングファースト(SFG)公認インストラクターであり、運動学・解剖学に精通するおの卓弥氏が、「機能と強さを同時に向上させる」ハードスタイル・ケトルベルの本質を解説。さらに、怪我を防ぎ、トレーニング効果を最大化する6つのキーワードについても詳しく紹介します。
初心者から経験者まで、安全かつ効率的にケトルベルを活用できる方法を学びましょう!
まず、正しく行うことからスタート
ケトルベルというものが世の中に出るようになってきた。あくまで以前との比較論ではあるが、トレーニング器具として認知され、ホームセンターや小売店でも販売され、テレビドラマの小道具でも見かけたり、インフルエンサーのSNSに登場する機会も増えた。
しかし、身体を壊し、効果がないといったやり方ばかりが目につくことに、恐ろしさを感じる。
本当に「身体の機能を正しく向上させることのみ」を目的としたトレーニングは、医療的、学問的な根拠が存在するものである。ケトルベル・トレーニングでは、「ハードスタイル=ストロングファーストが提供するもの」がそれに相当する。大学や研究機関で実験を重ね、確証を得たものだけを世の中に提供し続けている。
ハードスタイル・ケトルベルは、スポーツのパフォーマンス向上に大きな貢献を果たすのはもちろんだが、さらに強調したいのは、日々の生活や動きで、ストレス無き快適性を向上させ、同時に疲労予防・除去についても徹底がなされていること。時間とスペースを最大有効活用する技法と活用法が確立され、安全性についても深く強い指導が徹底されている。そこに「個人の経験則」というフワフワしたものはなく、すべて実験と検証の結果、皆さんに提供している。
トレーニングを語り、実践し、指導する際に、ほぼ100%聞かれる言葉として「どこに効く」というものがあるが、ハードスタイルでは、この言葉は主語にならない。全身性が強烈なキーワードであり、結果的にメインとして発達する部位はあるにせよ、目的は「機能と強さ」の同時向上であり、ここを絶対にハズさない。
ハードスタイル・ケトルベル・トレーニングは、人間の本来あるべき姿勢と動きを作り、さらに向上させるものとお考えいただいて間違いない。「身体を強くする」ことと同時に、それは進行し、これらはすべて同価値である。
全身の動きを良くし、強くするための4つの種目について解説する。
軽量のケトルベルを使用しても効果が実感できる。過剰に重いものは不要。男性なら12,16㎏、女性なら8,10,12㎏をスタート重量とするとやりやすい。また、できる回数が増えても、あわてて重いケトルベルを購入せずとも、より正しく、セット数を重ねることにフォーカスすると良い。重量を増やすのは、自分自身の体力と機能向上を確認してからで遅くない。

ケトルベルの部位名称
ケトルベルの部位名称。握り手はハンドル。横はホーン。

完全なポスチュアー+ハングポジション
デッドリフトのトップポジション=ハングポジション。腰から下はトリプルエクステンション。膝のお皿(膝蓋骨)をギュッと上げて、太もも前面にテンションを作り、同時にでん部の真ん中を強く引き締め、腹部の圧力も高くする。目線は真っすぐフラットに、前腕を胴体部に密着させ、肘はロックアウトする。ラットダウンするが、背骨近辺のテンションは一切不要。この姿勢が、ケトルベル・スィングの際にケトルベルが股下を通過する時も基本姿勢になる。
- 深いグリップ(ディープグリップ)ケトルベルを深くグリップすることが基本。そして、ハンドルの真ん中を持つことが正義とは限らない。種目や、自分自身のやりやすさの具合によっては、このように親指側に偏ってグリップすると良い感覚になることも多い。
- 指に頼った浅いグリップ。ケトルベル・トレーニングの際、このグリップの仕方では浅過ぎる。指の付け根は、手のひらの中央部近辺と認識し、そこで包み込むように「把握」する。手首も一緒に丸め込むような感覚でグリップすることからスタートすると分かりやすい。手首は絶対に反る形にしてはいけない。
ケガ防止と最大効果獲得の6つのキーワード
ケトルベル・トレーニングに限らない。トレーニングは、すべてのものが「危険を考える限り排除」したものを行わなくてはいけない。
ハードスタイルをおこなう目的は「機能と強さ」の同時向上であり、そこから派生して脂肪燃焼したり、体型がチェンジしたり、筋肉量が増えたり、運動能力が高くなる。
ケガの予防と、最大の効果獲得技法は同じ価値であり、また、技法も同じである。守るべき部位として、背骨、膝、肩関節が重要ポイントであり、機能向上として股関節が加わる。
ハードスタイルでは、姿勢を指導するときにも、良い・悪いという抽象的な言葉は使わない。すべての指導に具体性と明確な指標がある。
6つのキーワードは、未来永劫、自己防衛と成長に役に立つ。
1:ポスチュアー(posture)
姿勢というシンプルな意味から一歩踏み込んで、運動をするに適した基本的な正しく強い姿勢を指す。
頭部~体幹部~下肢、自由上肢、目線にも明確な定義がある。
ポイント
胸をオープンにするよりも、胸を横から見て左右の肩を一直線にするようにワイドに開く。
足裏を全部ピタリと接地する。足趾で掴む動作をおこなわず、浮かせない。
足幅はヒップ位置よりやや広く取り、つま先はフラット~外旋20度ほどを自由設定し、膝の方向と同じ向き。
胸・腹を潰さず垂直に立てて、腋の下を落とす。背骨は反らせず曲げずひねらずニュートラルをキープする。
2:呼吸(breathing)
呼気と吸気の役割と使い方に、明確な技法を確立している。
これにより、運動器のケガ防止のみならず、呼吸器や血管、循環器系も守り、能力も向上する。
3:パッキング(packing)
直訳は梱包:こんぽう。
身体に関しては肩関節、特に上腕骨頭を肩甲骨に押しこみ、安定させることを指す。パッキングが出来ていないトレーニーは多いが、逆に成長のための革命的キーワードにも成り得る。
4:セントレーション(centration)
直訳は中心化。
主に関節内で、動作の軌道が傾き無く中心部を通っている様相を指すが、体幹部に関しても使用。これが崩れることで怪我しやすくなり、能力が落ちる。
5:ロード(load)
直訳は荷重。
特に身体と床との接地面で、傾きがないようにする。シンプルにバランスが崩れて危険であると共に、能力を落とす大きな原因になる。4のセントレーション、COG(センターオブグラビティ:Center of Gravity=重心)と共に極めて重要。
6:ラットダウン(lat down)
ラットプルダウンいうマシントレーニング種目と混同する方もいるが、latissimus:略してlat(広背筋)をグッと下げた動きと姿勢を指す。パッキングと合体することで肩関節を守り、出力を強化する。
第2回では、ハードスタイル・ケトルベル・トレーニングの具体的な効果とケトルベルのメリットを解説します!
ただ鍛えるだけじゃない!ケトルベルで得られる効果と意外な落とし穴【ハードスタイル・ケトルベル・トレーニング❷】
おの卓弥(おの・たくや)
ストロングファースト(SFG:世界最大のケトルベル関連団体)認定インストラクター。外傷専門柔道整復師。内閣総理大臣認定スポーツ・サプリメントアドバイザー。解剖、生理、運動学的に正しいケトルベル・トレーニング=ハードスタイルを啓蒙するために、ブログ、インスタグラム、フェイスブック、X、YouTubeを展開。「ハードスタイル・ケトルベルSTUDYグループ」を運営し、500名近い会員を指導。正統指導者、チャンピオン、ダイエット成功者を生み出している。