コンテスト前にストイックに絞りたい、太りにくい体作りを目指したい、肥満を解消したいなど、あらゆる目的で減量に取り組む人は多いだろう。そこで、栄養とサプリメントのスペシャリストである桑原弘樹氏と、世界をも制した圧倒的チャンピオン・鈴木雅選手に、「減量の5箇条」をテーマとした対談を行っていただいた。両氏の考える減量の鉄則とは? ぜひ今後の参考にしていただきたい。
取材・文:飯塚さき 撮影:北岡一浩
減量中であってもしっかり食べること
桑原 鈴木さんの減量法でとてもいいなと思うのは、食べる減量をしていることです。食べないでいれば痩せるのは当たり前ですが、それだと筋肉を犠牲にしていることは間違いありません。どれだけ筋肉量を減らさずに体を絞れるか。実際には、食べるものやタイミング、トレーニングをどう変えるかなど、難しいことが多いんですが、鈴木さんのようにできれば理想です。
鈴木 ありがとうございます! おっしゃっていただいたように、私が減量で一番意識しているのは、食べることです。でも、本当に基礎的で、必要な栄養素を必要な分だけ入れること。動けないほど栄養が足りていない状態では当然筋量は落ちてしまうので、ハードにトレーニングできるくらいの栄養素とカロリーをしっかりと確保するのがベースです。一般的には耳の痛い話かもしれませんが、減量中であっても食事はバランスよく取るのが一番。糖質も脂質もタンパク質も、何も抜いてはいけないんです。私は、魚をよく食べるようにしています。生ではなく、焼いたり鍋に入れたりするほうがいい気がしています。同時に、摂取カロリーも、減量中はなるべく下げないような食事をしています。減量を始めてから途中でなかなか落ちなくなってくることがあると思いますが、それは代謝が落ちているからです。代謝を上げるために食べて、代謝を上げながら減量します。この減量法には、ある程度以上の期間が必要です。
桑原 ボディビルでは、絞れなかったら大会に出られないので、ビギナーになればなるほど焦って水抜きや食事制限などをする人は多いでしょう。極端に食べない人はたくさんいますが、それで筋量が守れるとは思えません。鈴木さんがこれだけの実績を残しているのは、やはり食べているからこそなんだというのは、説得力がありますね。
サプリメントは年齢と状況に応じて活用する
桑原 減量系のサプリメントは、燃焼・運搬・分解などとたくさんありますが、多くは肥満気味の人のためのものです。減量中で、すでに普通の人より体脂肪率の低い人が飲んでも、効果を実感しにくいでしょう。だからこそ、減量幅の大きい人は、減量系のサプリメントを使って、オフの期間にいつもより体重が増えないように抑える、減量初期に使うなどと活用してもらえたらなと思います。またその役割を理解しておくことも大切です。例えばCLAやカフェイン、コレウスなどは分解、カルニチンは運搬、ガルシニア(HCA)は燃焼といった具合にです。

鈴木 私は、昔は減量系のサプリメントも飲んでいましたが、今はまったく飲みません。飲むならカルニチンくらいですかね。明らかに発汗量が増えるので。
桑原 体内にカルニチンが少ない状態だと脂肪の運搬がうまくいきません。飲めば飲むほどいいというわけではありませんが、年齢とともに体内での合成量が減ってきますから、30代半ば以降の人はなるべく飲んだほうがいいと思いますよ。サプリメントは、年齢や状態に合わせてうまく使うことが大切です。
鈴木 私も、年齢を重ねて少しずつ摂るものが変わってきました。最近は、亜麻仁油やオリーブオイルは、そのまま飲んでいますし(笑)。
桑原 いいですねー、ボディビルダーっぽいね(笑)。
鈴木 だから、オイル系のサプリメントは飲んでいません。あと、カフェインがしっかりと配合されているファットバーン系のものは、体に合わないので飲みません。カフェインを摂ると動悸が激しくなるのと、摂らなくなったときに日中だるくなってしまうからです。ただ、汗が出て気持ちいいという人もいるので、合う人にはいいんじゃないかと思います。
桑原 十人十色ですから、自分に合ったものを見つけられるといいですね。
鈴木 他のサプリメントで言うと、夜中起きてしまったときにはグルタミンを飲むようにしています。
桑原 おーいいねー!
鈴木 そうすると、起きたときの筋肉の張りがいいんです。
桑原 メカニズムを説明すると、睡眠時は飢餓状態で筋肉がカタボリックに傾くので、グルタミンやEAAを飲むと筋の分解を抑えられるんです。昔、ボブ・サップがわざわざ目覚ましをかけてでもやっていたと聞きましたが、私のように50代も後半になると夜中に目が覚めてトイレに行きたくなります。それを逆手に取ってグルタミンを飲むようにしたら、僕も次の日すごく調子がよかったので、セミナーなどで皆さんに勧めています。でも、鈴木さんもやっているとは知らなかった。
鈴木 いや、私も桑原さんが勧めているとは知らなかったです(笑)。ただ、グルタミンの効果を感じ始めたのは、35歳を超えてからでした。背中のトレーニング後ですら、グルタミンを飲まないと、寒気がするようになりました。
桑原 トレーニング強度が高いってことでしょうね。僕なんかそこには及びませんが、たまに高強度のトレーニングができた日は、風邪の初期症状のような、体のだるさを感じることがあります。そのまま放っておくと、次の日から微熱が出たり、体調を崩したりするので、強度の高いトレーニング後はグルタミンを飲むようにしています。鈴木さんは、ほぼ毎日ハードなトレーニングをしているんですよね。どうやって毎日リカバリーしているのか、すごく疑問なんです。普通に寝て、起きたらリセットされているんですか?
鈴木 若いときはそうでしたが、今はそうでもないですよ。トレーニング前に動きのあるストレッチを入れ、さらにはトレーニング中は、ストレッチを挟んで血流と交感神を上げてからMAXにもっていくようにしていますし、サプリメントにしても、着るサプリメント(ベネクス)などの新しいものを取り入れつつ、うまく活用しています。逆に、ないと正直もうキツイです。
桑原 なるほど。僕は、ハードなトレーニングをしても次の日に疲労を引きずるだけなので、強度ではなく頻度でカバーするために、年間300回のワークアウトを掲げています。どうしても疲れが溜まっている日は、ほんの少しのトレーニング自体は行って、満足するようにするんです。だから、リカバリーの仕方はすごく知りたかった。
鈴木 ただ、私の場合は、きちんと栄養を摂っているので、むしろ減量中のほうが元気なんです。減量していないときのほうが、だれていてすぐ体調が悪くなります。トレーニングが終わった後の、全部が空っぽになった感覚は、減量時のほうがあるので、そんなときにグルタミンを入れると効果をより実感しやすいと思います。変な話、減量中のほうが体調はいいので、このまま1年間大会に出ないと自分はどうなってしまうんだろうって…(笑)。
桑原 でも、それも減量中にきちんと食べているがゆえですよね。
鈴木 昔はそうでもなかったんです。2010年に日本一になった後は、ギリギリでやっていて結構ヘロヘロでした。余裕を持ってできるようになったのは、ここ5年くらいかなと思います。
減量の〝カード〟は小出しにすべし
鈴木 減量には、トレーニング、食事、サプリメント、有酸素運動などと、カードがいくつかあります。そのカードを最初から何枚も出さないこと。例えば、まず食事を減らすのであれば、それだけを頑張って他は変えない。カードを一気に出してしまうと、代謝が下がって効率が悪くなってしまいます。一つのカードを試して計画的に落としていき、減らなくなってきたときにまた別のカードを切っていく方式のほうが、私はいいと思っています。
桑原 徐々にカードを切っていくためには、それなりの期間が必要だということも強調しておきます。計画的に進めることが大切です。
鈴木 私は、少しずつカードを切ることで、減量だけでなく、トレーニングそのものにも余裕が出てきたと感じています。昔は、トレーニングと併せて有酸素運動もしていましたが、今はまったく取り入れていません。
桑原 昔と今とで変わってきた余裕って、どんな変化なんですか?
鈴木 体が動いてきた感じです。前は、あまり理解せずにひたすらトレーニングしていて、使えてい部分が多かったんだと思うんです。徐々に考えながらトレーニングするようになって、股関節周り、肩甲骨周りの使い方、効かせ方がうまくなったと思います。今は、特別やらなくても絞れない部分が出てこなくなりました。エビデンス的には、部位ごとの脂肪燃焼はないと言われていますが、お腹の上部など昔なかなか絞れなかったところがあったので、体感的には一部の脂肪燃焼もあるような気はしています。
桑原 例えば、力士は四股を踏むので、脚にはあまり脂肪が乗りませんが、おなかにはたっぷり皮下脂肪がある。これは、見ようによっては部位別の脂肪燃焼です。つまり、効かせていないところには脂肪が乗りやすいということです。ただ、普通の人は体の一部の筋肉だけに効かせるなんていうことは難しいので、それはやはりトップビルダーの技術ですね。

いかなるときにも心を病まないこと
鈴木 減量でありがちなのは、全然落ちないといって落ち込んで、自律神経まで病んでしまうパターンです。自律神経が乱れると、昼夜逆転になってしまいます。交感神経が出ているときにしっかり動くことで脂肪が燃焼されるので、日中眠くて夜に眠れないと、むくんでしまって余計に落ちなくなるんです。
桑原 あまりストイックになりすぎると、心が窮屈になってしまいます。頑張るところは頑張る、緩めるところは緩める、そのバランスをうまく作って心を保つことが大切ですね。事実、あまり苦しそうに見えない人のほうが、減量はうまくいくんです。減量は、我慢比べではありません。
鈴木 つらい思いをするくらいなら、少し甘味のあるものを食べて満足したほうがいいですよね。
桑原 あとは、チートデーを設けておくのもいい方法だと思います。丸一日でなくて、一食の「チート食」でもいいんです。それがあると頑張れます。

鈴木 私のチートデーは減量食を多めに食べる程度ですが、我慢できない人は、むしろ積極的にチートデーやチート食を取り入れたほうが、精神的にすごくいいと思います。でも、たくさん食べてしまったことに罪悪感を抱いてしまうと、あまり絞れません。
桑原 そこで大事になるのは、チートデーをあらかじめ設定することです。我慢できずに突発的に食べてしまうと罪悪感につながるので、少し前から「この日の夜はチート食を食べよう」と決めておくこと。多くの人は、社会人としてお付き合いもあると思うので、「今週の金曜の夜は飲み会だからそれはチート食」と計画的に入れておくのが、上級者のテクニックです。
鈴木 それによって逆に落ちることもありますよね。
桑原 そうなんです。最初は怖くても、思い切って食べると、次の日の体重は変わっていなかったり、むしろ減っていたりすることもあります。計画性があれば罪悪感もなく、心にもいいと思います。
減量に睡眠は必須!しっかり寝よう
桑原 減量には、睡眠も大事です。寝ているときは、睡眠時代謝になるので代謝は落ちますが脂肪は燃えます。寝ている時間は長いので、その間の脂肪燃焼効率を上げるのは減量にはとても有利な方法なのです。ただ、睡眠時の脂肪燃焼条件は、空腹であること。寝る直前のプロテインや食事を避けたほうがいいのはそのためです。一方で、先ほど話したように、空腹だと筋肉がカタボリックになりやすいので、寝る前にグルタミンやアミノ酸を補充すると、理想に近いでしょう。日中は目一杯栄養素を入れてエネルギーを使って、寝ているときは筋肉の分解を守った上で飢餓状態にする。その循環がうまく回るといいと思います。
鈴木 減量中、睡眠時間が少ない日が続いて、ある日しっかり眠れると、それだけで体重が落ちることもあるので、不思議です。
桑原 もちろん、睡眠はリカバリーになっているので、しっかり眠れればトレーニングの質が上がって好循環になりますしね。
鈴木 私は普段、なるべく6時間は寝るようにしていて、日中にも10分だけ仮眠します。4時間半くらいしか眠れないときもあるのですが、それだとやはり体がだるく感じますし、トレーニング後にはすぐに眠くなります。そう考えると本当は7時間くらい寝たほうがいいのかもしれません。
桑原 運動強度が高いので、余計にそう感じるのかもしれませんね。
鈴木 睡眠は本当に大切なので、減量中、おなかが空いて眠れない人は、小腹を満たす商品をうまく活用するといいと思います。30~50キロカロリーのプロテインバーやヨーグルト、あとはダイエットコーラを飲んで乗り切る!という人もいます。
桑原 おなかが空いているのは血糖値が下がっているからなので、チョコレートを一かけらだけでも食べてほっとするなら、僕はそのほうがいいと思います。その一かけらで次の日脂肪が増えたり、たくさん太ってしまうなんてことはあり得ませんから
まとめ
まずは自分を知ろう
桑原 いろいろなトップビルダーのいろいろな減量法がありますが、それはその人個々にとっての正解であって、誰もが同じことをすればいいわけではないというのが、1つのポイントだと思っています。憧れの人のまねをするのはよくあることですが、よっぽど上手に取り入れないとうまくいかないんです。鈴木さんのまねをするなら、飲んでいるサプリメントだけではなく、トレーニングもライフスタイルも鈴木さんくらいにしないといけません。
鈴木 私も、ここ数年間で特に身にしみて感じているのは、自分を知ることの大切さです。私の場合、白米をたくさん食べると発汗量が多くてパンプもするんですが、玄米だとパンプしないし体重も減りません。小麦粉は、パンプはするけどむくんで体重は増えます。同じカロリー量でも、何を食べるかによってこれだけ違う。ある程度の期間をもっていろんなことを試すと、これを食べると調子がいい、これを食べたらダメだって、徐々に見えてくるんですよね。私は、乳製品と果糖が体に合わなくて、摂ると体重が落ちなくなります。逆に、それらを摂らないだけで体重は自然と落ちていくんです。自分の体にいいものを摂り入れていると、トレーニングの質も上がるので、減量中に筋量が増えます。自分の体質に合った食材やカロリー量を見極めていくことが、減量に限らず年間を通して大事なのかなと思います。
桑原 ボディビルは、ボディメイクの宝庫です。鈴木さんが言ったように、いろんなことを試せるし、それを楽しめます。僕は毎年出場するようなバリバリのボディビルダーじゃないけれど、たまに大会に出る年には自分なりに本気で臨むので、水抜きでも塩抜きでも極端なことから流行りのものまで何でもいろいろやりました。でも、やったからこそ自分の体に合っているかどうか、やっちゃいけないことなのかどうか、気づくんです。極端な塩分カットなんかは、本当に視界がぼやけてきて、細胞レベルでダメだっていうのが分かりましたから(笑)。
鈴木 私は昔(15年前)、当時流行りのケトジェニックダイエットをやって失敗したことがあります。それで、何でもバランスよく食べないとダメだなと分かったんです。
桑原 流行りや憧れの人の模倣だけで終わらずに、そこから自分自身の体の特徴を知っていくことがキャリアになるのでしょうね。 仮に最初の1年で失敗しても、少しでもその失敗から自分を知ることができたら、価値のある1年になります。
鈴木 本当にそうですね。特に、むくみなどの体調の良し悪しは、絞れているときに出やすいので、自分に合う食材やカロリーを見極めるためにも、まずは減量をしてみてくださいと私は言いますね。桑原さんがおっしゃるように、何でもやってみないことには始まらないので、たとえ失敗でも理由が分かればそれは次に向けての成功なんです。現代は情報量が多くなったせいか、そういった冒険をしたがらない人が増えたような気はします。でも、冒険してみたことが、その人にとっては意外と正解かもしれないんです。情報収集は大事ですが、身をもって試してみて自分に合ったものを探すことも、大切にしてほしいと思います。

桑原弘樹
1961年4月6日生まれ 愛知県出身。立教大学卒業後、江崎グリコに入社。スポーツサプリメント事業を立ち上げ、スポーツフーズ営業部長などを歴任し、現在はアドバイザー。桑原塾を主宰し、100人以上のトップアスリートのコンディショニング指導も行っている。
鈴木雅 プロフィール
1980 年12月4日生まれ 福島県出身。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、東京選手権大会で優勝。2010年から日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80kg 級、世界選手権80kg 級と2つの世界大会でも優勝を果たした。
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