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ダイエットやボディメイクと脂質 摂るべき脂質を理解しないと逆効果になる

時代は変わった。だから「脂肪」についての認識も改める必要がある。

すでにわかっている人も多いだろうが、脂肪には悪玉と善玉があり、全ての脂肪が身体にとって悪というわけではない。善玉の脂肪は体脂肪を減らし、健康を保つためにとても重要な役割があるのだ。

脂肪の中には不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸があり、脂肪の種類によっては熱産生を促して体脂肪の燃焼を助けたり、アナボリックに作用して筋発達を促したり、代謝を促進してコンディションづくりに役立ったりする。

他にも血管や細胞膜の強化、ホルモン分泌を促して健康づくりに貢献してくれる。

私たちの身体はとても精巧に作られていて、極端な話、脂質とタンパク質が摂れていれば、身体に必要なブドウ糖を様々な経路から作り出すことができる。

そうして作られたブドウ糖は、私たちが生きていく上で欠かせない機能を保つために消費される。

つまり、身体にとって有用なのは脂質やタンパク質(要はアミノ酸)であり、実際、この2つの栄養素には「必須」と名が付くものがあることは皆さんも知っているはずだ。

しかし、炭水化物については他の栄養素からブドウ糖を作り出せるため必須炭水化物と呼ばれるものはないのだ。

イギリスのケンブリッジ大学とハーバード公衆衛生大学院とが共同で行った研究では、様々な病気の発症と関連があるとされていた飽和脂肪についての見直しがされている。研究者たちによると、飽和脂肪の摂取を減らしながら、身体に有益とされている多不飽和脂肪を多めに摂取したところ、軽減されると思われていた心臓病の確率は下がらなかったのだ。

<本記事の内容>
脂肪には悪玉と善玉がある
トランス脂肪は避ける
飽和脂肪酸は悪者ではない
20%を超える脂肪食を維持しよう
エネルギーレベルを向上させるオメガ3
免疫機能を高めるクリルオイル
脂肪を味方につけてダイエットもバルクアップも成功させる

トランス脂肪は避ける

バルクアップ

トランス脂肪は最悪の脂質だ。トランス脂肪は人工的に作り出されたもので、植物や動物の脂から得られる天然の脂質とは元から異なっている。

植物油に水素を加えて高温で加熱すると固まる。これがトランス脂肪であり、部分水素添加油と呼ばれることもある。ちなみに、トランス脂肪の何が怖いのかよくわからないという人もいるだろうが、脂肪の水素化は、脂肪の化学構造を劣化させてゆがめてしまう点が怖いのだ。

トランス脂肪のような異常な脂肪を、私たちの身体は適切に代謝することができない。そういったことから不健康につながると考えられるので、少なくともトランス脂肪が含まれるとわかっている食品は敬遠したほうが賢明だ。

飽和脂肪酸は悪者ではない

ここからはトランス脂肪を除いた、飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸について話を進めていきたい。

多くの人は脂肪には2種類あると考えているようだ。ひとつは体に悪い飽和脂肪酸、もうひとつは体に良い不飽和脂肪酸という認識だ。そこからさらに分類するなら、飽和脂肪酸は単価飽和脂肪酸と多価飽和脂肪酸に分けられ、不飽和脂肪酸も単価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分けられる。

ただし、どれだけ細かく分類したとしても、私たちの身体には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の両方が必要であり、不飽和脂肪酸だけを摂ればいいというわけではない。この点は大切なので覚えておいてほしい。

例えば、細胞膜の50%は飽和脂肪酸で作られていることを考えれば、飽和脂肪酸を悪い脂肪と決めつけてしまうのは問題があるはずだ。パワーリフティング界の世界的な権威で、伝説のパワーリフターでもあるフレッド・ハットフィールド博士も次のように主張していた。

「飽和脂肪酸は筋発達を促す上で不可欠である。また、飽和脂肪酸は代謝を刺激し、神経と脳をつなぐ能力を高め(情報伝達が早くなる)、体内で作り出されるインスリンの分泌を積極的に促してくれる」

また、「プロテイン・パワー」の著者、マイケル・R・イーズ医学博士とメアリー・ダン・イーズ医学博士は、飽和脂肪酸が肝臓に脂肪酸の放出を促す働きをすると主張している。一般的に、アルコールを飲んだり、鎮痛作用がある非ステロイド性抗炎症薬を投薬していたりすると、肝臓でそれらが代謝される過程で、有毒な物質が肝臓を痛めるリスクが高まる。しかし、博士らによると、飽和脂肪酸による肝臓への働きで、肝臓が有毒物質から保護されるというのだ。

不飽和脂肪酸についての興味深い研究もある。オランダのワーゲニンゲン大学にある栄養学・代謝学・遺伝子学のグループに所属する研究者たちは、多価不飽和脂肪酸が代謝率を高める遺伝子の調節に不可欠な役割を果たしていることを発見した。多価不飽和脂肪酸が血中に放出されると、細胞内にあるミトコンドリアとペルオキシソームと呼ばれる2つの器官で代謝されるのだそうだ。

興味深いのはペルオキシソームの働きだ。この器官は身体を構成するすべての組織に存在していて、特に肝臓や腎臓には豊富にある。ペルオキシソームでは長鎖脂肪酸を積極的に分解し、熱産生を促す働きがあるのだ。また、ペルオキシソームが熱産生を促すと、ミトコンドリアも積極的に機能するようになり体脂肪の燃焼率が高まるのである。

20%を超える脂肪食を維持しよう

体内でのテストステロンの生成に脂肪食は欠かせないものだ。実際、1日の総摂取カロリーの25~40%を脂質にすると、体内テストステロンのレベルは理想的な高さに維持されるという研究結果が多く報告されている。

運動栄養学者のジェフ・ヴォレックとウィリアム・クレイマーの両博士の報告によると、飽和脂肪酸と多不飽和脂肪酸の比率において、飽和脂肪酸が優位であるときのほうが逆の場合よりテストステロンレベルを増加させるそうだ。ちなみに、多不飽和脂肪酸が優位な状況では体内のテストステロン生成率は低下し、酸化による脂質のダメージが起きやすくなるという。

また、複数の研究で、脂質の摂取量が低下すると、性ホルモン結合グロブリンのレベルが増加し、フリーテストステロンのレベルが低下してしまうといった結果が得られている。フリーテストステロンが低下すれば、テストステロンが発揮するアナボリック作用も弱められてしまうということであり、筋発達を望むアスリートにとっては見過ごせない問題だ。ここでの「摂取量の低下」とは、脂質が総摂取カロリーの20%以下になると、脂質の量が少なすぎてテストステロンの生成量が下がってしまうということなので覚えておこう。

エネルギーレベルを向上させるオメガ3

ハーバード大学に所属するウォルター・ウィレット氏は、植物油や魚油などは不飽和脂肪酸を得るための食材として優秀であると主張している。具体的に以下のような食材を示している。
●植物油:キャノーラ油、コーン油、オリーブ油、ピーナッツ油
●ナッツ由来の油:アーモンド、ピーナッツ、ピスタチオ、くるみなどの油
●魚油:サーモン、ツナ缶
●その他の油:フラクシード油

ウルミア大学(イラン)の研究者たちによると、1日1.8gのオメガ3を摂ることで、ワークアウト後の遅延性筋肉痛(DOMS)を軽減することができると報告している。また、オーストラリアのウォロンゴン大学の調査団も、オメガ3の多価不飽和脂肪酸は、心臓や骨格筋の細胞膜を自由に行き来することができる「特殊なタイプの脂質」であると述べている。

これにはどんなメリットがあるかというと、オメガ3は筋線維を出たり入ったりすることができるので、運動中のエネルギー源として利用されやすく、しかも、オメガ3脂肪酸がエネルギーとして消費されるので、酸素の消費量を抑制することができるのだ。特に全身のワークアウトでは酸素の消費量が多くなりがちだが、オメガ3によって酸素が温存されるので疲労回復能が高められ、エネルギーレベルも向上すると考えられる。

免疫機能を高めるクリルオイル

オキアミ(プランクトンの一種)から採れる「クリルオイル」には、オメガ3脂肪酸が豊富に含まれている。ただ、これまで行われてきた多くの研究では、クリルオイルによって競技能力が向上したという研究結果は得られていない。

それでも次のような報告がある。イギリス(UK)にあるアバディーン大学の研究者たちによると、運動によって低下する免疫機能がクリルオイルによって再活性化するそうだ。彼らが行った実験は6週間にわたって行われ、1日2gのクリルオイルサプリメントを健康な男女の被験者に摂ってもらった。また、全ての被験者には指定のワークアウトを行ってもらった。

実験の結果、運動を終えて3時間以内に、被験者たちの末しよう血液単核細胞の生成が促され、白血球の増加も見られた。これらは免疫機能が向上したことの証しである。

また、2009年発行の『ニュートリションリサーチ』誌に掲載された記事によると、1日2gのクリルオイルを4週間にわたって肥満の被験者に摂ってもらったところ、体内のオメガ3脂肪酸のレベルが増加したそうだ。

この実験からは、クリルオイルのオメガ3脂肪酸は、一般的な魚のオメガ3脂肪酸よりも体内に吸収されやすいことがわかった。さらに、一般的に脂肪は脂肪細胞に貯蔵されやすいのだが、クリルオイルは筋中にも取り込まれやすく、エネルギーを作り出す過程で見られるβ酸化(脂肪の分解)率が高まることが明らかになった。

脂肪とタンパク質があれば十分?

『プライマルボディ、プライマルマインド&プライマルファットバーナー』の著者であるノラ・T・ゲドガウデス氏は「十分な脂肪とタンパク質が食事に含まれていれば、私たちの身体は必要なブドウ糖を体内で作り出すことができる」と語っている。つまり、健康的な脂質とタンパク質をしっかり含む食事を摂れば、炭水化物に依存する必要はないというのだ。
また、多くの研究者たちが、植物のボリジから抽出されるボリジ油、ココナッツオイル、CLAやGLAなどのサプリメント利用を推奨している。これらの中には体内の炎症を促す働きを持つものもあるのだが、全ての炎症が悪いわけではない。というのも、例えば筋肉の炎症は、そこにダメージがあることを身体に知らせることになるので、炎症を緩和させる物質が対象部に送り込まれ、しかも、対象部の修復を促すために積極的にタンパク質が同化されるようになるからだ。

まとめ

脂肪食の全てが身体に悪いわけではない。極端なことを言えば、有害なのはトランス脂肪なので、これだけは敬遠したほうがいい。ただ、不飽和脂肪酸と同じように飽和脂肪酸も有用なので、これを完全に排除した食事は決して勧められない。

とはいっても、従来の認識どおり身体に良いのは不飽和脂肪酸である。理想から言えば、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の両方が摂取できるような食事を心がけるようにしてほしい。

減量期に入ると脂肪食をできるだけ排除した食事に切り替えてしまう人が多いが、一般的には総摂取カロリーの20%以下にまで脂肪食を抑えてしまうと体内のアナボリック活動も抑えられ、代謝も低下してしまう。つまり、脂肪食を排除してしまうと、筋肉が発達しにくくなり、休息時の体脂肪燃焼率も下がってしまうのだ。

減量中でも、できるだけ筋量を維持しながら体脂肪を燃やすためには、摂取カロリーを計画的に減らしながら、脂肪食については総カロリーの20%以上を含むような食事を摂るように心がけてほしい。

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佐藤奈々子選手
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