減量についての方法は、フィットネスだけでなく医療・健康分野や美容便やとも関連して、多くの情報が提供されている。しかし、ボティビルダーをはじめとしたアスリートは、体脂肪量をコントロールしつつ筋肉量を増やしていく増量に取り組まなければいけないケースもある。減量よりも増量の方が困難を伴う体質の人もいる。そこで、本記事では米国フィットネス誌が伝授する「増量期に成長するための3つの鍵」について詳しく解説する。
(IRONMAN2026年1月号「from IRONMAN USA」より転載)
トレーニングだけでは差は埋まらない

本誌の読者の大半は、ボディビルに興味を持ち、真剣にトレーニングを継続している人、あるいは実際にコンテストに出ている人たちだろう。彼らにとっての最大の関心事は、いかにしてアナボリズムを高めるか、つまり筋肉を大きくするかということだ。そのための方法は多岐にわたるが、今回は「何を摂取すべきか」に焦点を当てる。
HQC: 筋量を増やす最大要因

トレーニーの理想は、単なる増量ではなく、体脂肪を乗せずに純粋な筋肉のみでサイズアップすることだ。さらに言えば、除脂肪と筋肥大を同時進行させることだろう。
それが現実的かどうかはともかく、ある程度のコンディションを保ちながら筋量を少しずつ増やすならば、「HQC(ハイクオリティカロリー)」を勧めたい。これは文字通り品質が高く、カロリー値も高い食品を意味する。
摂取したカロリーは、主に次の経路で消費される。
カロリーの消費経路
①基礎代謝:生命を維持する
②活動代謝:運動などで身体を動かす
③熱産生:体温を一定に保つ(※)
(※)編集注:安静時の代謝比率は、骨格筋が22%、肝臓が21%、脳が20%。食事誘発性熱産生のエネルギー消費量は栄養素によって異なり、タンパク質のみでエネルギー摂取の約30%、糖質のみで約6%、脂質のみで約4%、一般的な食事で約10%になる。
通常、体脂肪を減らすには有酸素運動が効果的だ。しかし、基礎代謝や熱産生を高めることで休息時や睡眠中でも消費エネルギーが増え、体脂肪の減少が促される。
実際、肝臓や褐色脂肪組織、そして筋肉は、摂取した栄養素を熱エネルギーに変換する能力が高い。これらの組織を活性化することで、運動を行っていない時間帯でも減量効果を底上げすることが可能となる。
しかし、これには注意点もある。安静時の消費カロリーが増えると、運動に必要なエネルギーが不足するリスクがあるのだ。もし供給が追いつかなければ、トレーニング強度は低下し、筋修復に必要なエネルギーまでもが不足してしまう。これでは本末転倒だ。だからこそ、体脂肪の燃焼を促しながら筋肉を発達させるためには高カロリーなHQCが不可欠なのである。
HQCを活用する方法
HQCメニューの基本は、まずマクロ栄養素を厳選することだ。加えて、それぞれの栄養素が持つ役割を理解しておくことも重要である。言うまでもなく、筋肥大には十分なタンパク質量が必須だ。低GI炭水化物はゆっくりと消化されることで、トレーニング後の枯渇した筋グリコーゲンを長時間充填することに役立つ。また、良質な脂質を摂取することで、疲労回復や同化反応のエネルギー源を確保するだけでなく、テストステロンなどアナボリックホルモンを高めることができる。
同時に、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質といった微量栄養素も忘れてはならない。これらは体内の代謝反応における触媒として作用し、筋発達を化学的にサポートする。
【タンパク質源】
肉、卵、魚介類、豆類、無添加の乳製品
【炭水化物】
ジャガイモ、玄米、サツマイモなど
【脂質】
大豆、脂の乗った魚、オリーブ、アボカドなど
POINT
最初から完璧を目指す必要はない。まずは、1日1食をHQCメニューにし、徐々にその頻度を増やしていこう。
クレアチン: 安全性と有効性が保証されたサプリメント

クレアチンと人類の歴史
19世紀に発見されて以来、クレアチンに関する多くの研究が行われ、その作用が次々と解明されてきた。 例えば、筋中クレアチン濃度と身体機能に密接な関係があることは有名だが、これは野生のキツネと飼育されたキツネの筋肉を比較する実験で明らかになった。
古代ギリシャでは、オリンピック選手たちも大会前に大量の肉を摂取していたという記録がある。もしかすると、彼らは肉に含まれる何か(クレアチン)がパフォーマンスを高めることを、経験的に理解していたのかもしれない。
時代が変わり、冷戦時代にアメリカを中心とする西側諸国とソビエト連邦が対立する中で、スポーツ科学もまた競争の道具となった。この時期、東欧圏では国家主導のもと、肉や魚から抽出したクレアチンをアスリートに投与し、筋機能への影響を確認する実験が行われていたと言われている。
上級者でも成長を狙える
クレアチンが現代のスポーツ界で注目されるようになったのは、その効果を決定づける研究報告が広まった1990年代初頭のことだ。特筆すべきは、トレーニング歴の長い熟練アスリートを対象とした実験において、1RM(最大挙上重量)が約10%向上するという結果が示された点である。最大筋力が向上すれば、扱える負荷とレップ数が増加し、結果として筋肥大効果も期待できる。
中には、このようなクレアチンの効果に疑問を持つ人もいるだろう。しかし、実験に参加したのは初級者ではなく、トレーニング経験を積んだアスリートである。
トレーニング初心者はどのような刺激であっても比較的容易に筋発達が起きる。そのため、変化がサプリメントによるものか判別しづらい。対して、ベテランの身体は、多少の刺激では筋発達が起きにくい状態にある。そのような身体でも、クレアチンレベルを高めることで運動機能向上と筋肥大の兆候が確認されたのである。この実験結果は、クレアチンの有効性をより確実にするものだろう。
水分保持が筋肥大を加速する
長年の研究から、筋発達と筋中クレアチンレベルの間には密接な関係があることが明らかになっている。トレーニングで筋肉に負荷がかかると、筋肉はクレアチンを積極的に取り込もうとする。その際、水も一緒に筋中に引き込まれるため、筋中の水分量が増加し、急速
なパンプ感とサイズが得られる。中には1.8~3.6kgも重さが増加するケースもある。
一度濃度が下がれば水分も抜けるが、これを単なる水太りと侮ってはならない。細胞内に水分が増加すれば、水分の移動と同時により多くの栄養素が筋肉に運搬される。つまり、水分を蓄えている間に栄養が同化されれば、結果として筋線維の肥大につながると推測されるのだ。
ビルダー飲みは効果があるのか?
トレーニーの中には、ドリンクを作る手間を省くために直接クレアチンを口に含んだり、料理にかけたりしている人もいるだろう。このように摂取した場合と、水に溶かした場合とでは、得られる効果に差が生じるのだろうか。
結論から言えば、クレアチンは完全に溶かしてから飲むようにしたい。結晶が残ったままでは腸での吸収効率が悪く、筋肉へ届きにくい。そのため、粒子を細かく加工したタイプがお勧めだ。熱湯でクレアチンを溶かしてから飲む方法もあるが、熱によりクレアチンが変質するリスクも指摘されている。摂取タイミングとしては、吸収効率が高まる食事の前後や運動前が挙げられる。
クレアチンローディングで最大効果を狙う
ローディングと維持
サプリメントを活用すると、筋中クレアチン濃度は最大20%も増加することが分かっている。この効果を引き出すためにはローディング法が有効だ。具体的には1日20g(5g×4回)を5日間継続し、筋中のクレアチンレベルを一気に飽和状態にする。一度飽和すればそれ以上は取り込まれないため、6日目以降は1日5g 程度に切り替え、濃度が高い状態を維持する。
サイクルで頭打ちを防ぐ
クレアチンの安全性については十分な研究が行われており、そこまで敏感になる必要はない。ただ、クレアチンの効力は永遠に維持されるわけではない。研究によると、8週間程度で効果が頭打ちになると示唆されていることもある。そのため、一度クレアチン摂取を終了し、一定期間をおいてから再び同じサイクルでクレアチン摂取を始めるのも一つの方法だ。
BCAA: 筋量の減少に歯止めをかける

筋肉には約20種類のアミノ酸が存在するが、中でもBCAA(分岐鎖アミノ酸)と呼ばれるロイシン、イソロイシン、バリンは筋発達に欠かせない必須アミノ酸だ。
BCAAは筋タンパク質中の約20%を占めており、高強度の運動で消費されてしまう。したがって、特に減量中のアスリートはBCAAを活用することが多い。BCAAは直接的なエネルギー源になるだけでなく、筋肉の異化分解を促す酵素を抑制し、筋肉のサイズダウンに歯止めをかける。
研究によれば、たとえ食事量が十分であっても、BCAA の供給比率が低ければ摂取カロリーと消費カロリーのバランスが崩れ、除脂肪体重(主に筋量)が減少する可能性が示唆されている。もちろんプロテインや食事からも取ることができるが、運動後にアミノ酸を直接摂取する方が、より効率的とされている。
さらに、テストステロンや成長ホルモンなどのアナボリックホルモンの分泌を活発にする働きもある。BCAAの筋肥大効果は昔から知られていたが、その価値は過小評価されていた。今では、脂肪減少や疲労軽減のみならず、想定以上の筋発達作用を持つことが再認識されている。まだ明らかになっていない部分があるものの、アスリートならば早い段階からBCAAを摂取するべきだろう。
BCAAの使い方
ロイシン、イソロイシン、
バリンの理想の割合
2:1:1 (体重に応じて1日5~10gを摂取)
→トレーニング前・中・後がお勧め
編集注

「ガス欠」は本当にエネルギーが足りないのかBCAA不足が脳神経系に異常をきたす
BCAAと言えば、「筋肉の分解を防ぐ」、「疲労回復」のイメージが一般的だろう。しかし、近年の代謝研究により、BCAA は脳機能の正常化に不可欠であることが示唆されている。
運動中において、脳内ではグルタミン酸が興奮性の神経伝達物質の役割を果たす。このグルタミン酸のアミノ基の約25%は、ロイシンから供給されていると推定されている。つまり、血中のBCAA は筋肉のエネルギー源であると同時に、脳が運動の指令を下すための材料で
もある。
動物実験では、体内でBCAA を過剰に分解する、すなわち常にBCAA欠乏状態であるマウスを作製したところ、脳神経系に致命的な異常をきたしていることが判明した。さらに、このマウスは成長後にストレス下でてんかん発作を起こしたことが確認されている。
このメカニズムはヒトにも共通している。ある種の自閉症やてんかん患者の遺伝子解析で、同様にBCAA が欠乏する変異が見つかっている。彼らに対し、高タンパク食とBCAAサプリメントを摂取させたところ、血中BCAA 濃度の上昇とともに症状が改善したという報告がある。
もしトレーニング中にエネルギーの枯渇を感じたならば、それは筋肉のグリコーゲン切れだけが原因ではないかもしれない。脳内のBCAA 濃度が低下し、興奮性シグナルの合成が滞ることで、脳機能が低下している可能性が見えてきている。










