一般競技者からトップアスリートまで、さまざまな選手や一般の人の“食”を指導する管理栄養士・健康運動指導士のTejin(テジン)が、心身の活力に深く関わる「テストステロン」に注目し、食事の視点から分かりやすく解説します。
「最近、疲れやすい」「朝起きるのがつらい」「やる気が出ない」
こうした不調を年齢のせいだと感じていませんか。
実はその背景に、男性ホルモンの一種であるテストステロンの低下が関係している可能性があります。テストステロンは筋肉量の維持、体脂肪のコントロール、骨の健康、集中力や意欲の維持など、男性のコンディション全般に大きな影響を与える重要なホルモンです。
男性ホルモンとテストステロンの関係
テストステロンは「アンドロゲン」と呼ばれる男性ホルモン群の代表的な存在です。主に精巣で分泌され、筋肉や骨、性機能、精神面にまで幅広く作用します。
テストステロンは単に筋肉を増やすホルモンではなく
・代謝を高める
・内臓脂肪の蓄積を抑える
・ストレス耐性を高める
といった健康維持にも欠かせない役割を担っています。
男性の一生とテストステロンの変化
テストステロン分泌は10代後半から20代前半でピークを迎え、その後は年齢とともに緩やかに低下していきます。この低下自体を完全に止めることはできませんが、生活習慣によって「減少スピード」を緩やかにすることは可能です。
特に
・過度なエネルギー制限
・極端な脂質制限
・過度な飲酒
・慢性的なストレス
・睡眠不足
はテストステロン低下の要因となります。そのため、食事と運動を含めたトータルな生活管理が重要になります。
テストステロンに良い影響を与える食事方法
テストステロンを維持するうえで大切なのは、特定の食材だけに頼ることではなく、日常の食事全体の質です。
自分に合ったエネルギー量を確保する

エネルギー不足が続くと、身体は生存を優先し、ホルモン分泌を抑制する方向に働きます。一方で、エネルギー過多により体脂肪が過剰に増えると、脂肪組織でテストステロンが女性ホルモンへ変換されやすくなることが報告されています。
つまり、エネルギー摂取は「不足でも過剰でもない」適正な範囲を保つことが重要です。大会前のボディビルダーが強い疲労感や意欲低下を感じることがあるのも、過度なエネルギー制限が一因と考えられます。
極端な低脂質食を避ける

テストステロンは、脂質を材料に体内で合成されるホルモンです。そのため、脂質を極端に制限した食事を続けていると、ホルモン分泌量が低下しやすくなります。
「脂質=太る」と思われがちですが、必要な脂質までカットしてしまうと、かえって筋肉づくりや活力の低下につながることもあります。
特に、魚に含まれるEPA・DHAや、オリーブ油・えごま油などの良質な脂質は、テストステロンの合成や体内環境を整えるうえで重要な役割を果たします。大切なのは脂質を減らすことではなく、揚げ物や加工食品の脂質を控えつつ、良質な脂質を適量取ることです。
加工食品中心の食事を控える

ジャンクフードや加工食品中心の食事は、飽和脂肪酸やリン、塩分が過剰になりやすく、ホルモン環境や骨の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。特に加工食品に多いリンは、摂りすぎるとカルシウムの吸収を妨げ、骨への負担を高めることが知られています。
筋トレやスポーツで骨に負荷がかかる人ほど、素材に近い食事を意識することが重要です。
テストステロンに良い影響を与える代表的な食材
ねぎ類
玉ねぎ、にら、にんにくなどのねぎ類に含まれる含硫アミノ酸は、テストステロン合成に関与する酵素の働きをサポートすると考えられています。
抗酸化作用のある食材
体内の活性酸素が増えると、精巣の機能が低下しテストステロン分泌が抑えられやすくなります。運動量が多い人ほど活性酸素が増えやすいため、抗酸化栄養素の摂取が重要です。
【代表的な食材】
・トマト(リコピン)
・ブロッコリー(スルフォラファン)
・鮭(アスタキサンチン)
・りんご(ポリフェノール)

亜鉛を多く含む食材
テストステロンや精子の生成に関わる精巣や前立腺には多くの亜鉛が存在します。亜鉛不足はテストステロン低下につながることが報告されています。
【代表的な食材】
・牡蠣
・しじみ
・赤身肉
・レバー
・卵
・大豆製品

日本人の食事摂取基準では、30〜64歳男性の亜鉛推奨量は1日9.5mgとされています。
亜鉛は動物性食品に多く含まれる栄養素のため、植物性食品に偏りすぎない食事を心がけることがポイントです。
また、亜鉛は汗とともに失われやすいため、運動量が多い人や発汗量が多い人は、意識して摂取したい栄養素といえます。
参考:日本人の食事摂取基準(2025年版)/日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
まとめ
テストステロンに良い影響を与えるためには、特定の食材だけに頼るのではなく
・適正なエネルギー摂取
・良質な脂質の確保
・抗酸化栄養素とミネラルの充実
といった「食事全体の質」が重要です。
また、テストステロンは食事だけでなく、睡眠、運動、ストレス管理とも密接に関係しています。
極端な増量や過度な食事制限は、短期的な体重変化につながっても、理想的なパフォーマンスには結びつきません。クリーンでバランスの取れた食事を意識し、長期的にテストステロンと健康を守ることが、結果として高いパフォーマンスにつながります。
■参考文献
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
・文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
■著者プロフィール
申泰鎮(シン・テジン)
管理栄養士・健康運動指導士。高校時代のボクシング経験をきっかけにスポーツ栄養士を志す。現在はボクシングジムや大学ラグビー部で、増量・減量・コンディショニングに対応した栄養サポートを実施。競技者から一般層までを対象に、食事・サプリメント・身体づくりに関する実践的な支援を行う。執筆や講演活動も多数。










