男性ホルモンの一種であるテストステロンを増やすことができると、さまざまな恩恵を受けられます。筋肥大の効率が上がることや、精神面にプラスの作用があることなどがその一例です。
今回は、テストステロンの値を高く保つために、普段の生活で気をつけたいポイントを紹介します。ぜひ、ご自身の生活に取り入れられるものがないか検討してみてください。
<この記事の内容>
食生活を見直してテストステロンを増やす
・・・テストステロンを増やす食べ物
・・・テストステロンを減らす食べ物
・・・大豆製品に関する誤解とは?
テストステロン増加に効果のあるサプリメント
まとめ
食生活を見直してテストステロンを増やす
テストステロンはステロイドホルモンと呼ばれる物質です。ステロイドホルモンを合成するためには、その材料となるコレステロールや、合成の経路を円滑に回すためのビタミン類が不可欠です。普段の食事でどのようなポイントに気をつければ良いかを解説しますので、参考にしていただければと思います。
テストステロンを増やす食べ物
まずは、テストステロンを増やす可能性のある食べ物です。食品は薬のように急速な効果をもたらすものではないですが、毎日意識すれば変化は蓄積しますので、注意できると良いでしょう。
・牛肉
牛肉は多様な観点からテストステロンの合成に影響する食品です。
まず、牛肉中の脂質には、ステロイドホルモンの材料となるコレステロールが含まれています。コレステロールと聞くと体に悪いものとイメージする方もいると思いますが、適切な量を摂取することは筋肉作りにおいて重要です。実際に、極端に脂質を制限するとテストステロンの値が下がることが分かっています(引用1)。ただし、摂取し過ぎはやはり問題なので、霜降り状態の部位よりは、赤身を選ぶと良いでしょう。牛肉は亜鉛も多く含みます。亜鉛はテストステロンの合成に関わるミネラルであることが、研究によっても明らかになっています(引用2)。たんぱく質もテストステロンの合成に関わるため、その点でも牛肉は優れています。
・牡蠣
牡蠣もテストステロンを増やすためにおすすめの食材です。
牡蠣100gには、テストステロンの合成に役立つ亜鉛が14mg含まれています(引用3)。牛肉にも亜鉛が豊富に含まれると紹介しましたが、脂身なしの牛もも肉100gに含まれる亜鉛の量は4.3mgです3。つまり、牡蠣には牛肉の3倍以上の亜鉛が含まれていることになります。
・卵
卵はさまざまな栄養素が含まれているため、筋肉作りを目指す方なら必ず食べてほしい食品の一つです。
卵の黄身には、ステロイドホルモンの材料となるコレステロールが含まれます。血液検査でコレステロールの値が高く、医師から指導を受けている場合は別ですが、それ以外の方は、テストステロンを増やすためには積極的に摂取したい栄養素です。また、黄身はビタミンDも豊富に含みます。血中テストステロン濃度にビタミンDが関係するという報告がいくつかあります(引用4,5)。ビタミンDは日光に当たることで合成することもできますが、デスクワークの多い方は、食事からの摂取も意識すると安心です。卵白に豊富に含まれるたんぱく質も、テストステロンの合成には欠かせません。
テストステロンを減らす食べ物
続いて、テストステロンを減らすもしくはテストステロンの働きを弱めてしまう可能性のある食品を紹介します。また、食品そのものではなく、テストステロンを減らすことが報告されている食べ方についても解説します。
・アルコール
アルコール、つまりお酒と健康についてはさまざまな意見がありますが、テストステロンに関しては、アルコールがマイナスの影響を与えるとされています。アルコールの摂取により、血中テストステロン濃度が低下することが、ヒトを対象にした実験でも動物実験でも明らかになっています(引用6,7)。血中濃度が低下する理由としては、テストステロンの合成量そのものが低下することに加え、一度作られたテストステロンが破壊されたり、血液中から取り除かれたりすることが原因とされています。ボディメイクを考える場合は、お酒はほどほどにするのが良いでしょう。
・過度なたんぱく質の摂取
たんぱく質は筋肉の材料となる重要な栄養素ですが、大量に摂取し過ぎると、テストステロンの値を低下させるという報告があります。イギリスの大学が複数の研究結果をまとめて評価した論文の中では、体重1kgあたり3.4gを超える量のたんぱく質を摂取すると、テストステロンの値が下がるとされています(引用8)。たんぱく質を豊富に摂取しているにも関わらず筋肉が思うように増えない方は、過度なたんぱく質の摂取でテストステロンが減少していることを疑ってみると良いでしょう。
大豆製品に関する誤解とは?
食品の最後に、大豆製品を紹介します。乾燥状態の大豆は、100gあたり33.8gのたんぱく質を含んでおり、植物の中では特にたんぱく質を多く含む食材だと言えます(引用3)。一方で、大豆に含まれるイソフラボンの構造が女性ホルモンと似ていることより、筋肉作りにはマイナスの影響を及ぼすという意見を聞いたことのある方もいるかもしれません。しかしながら、近年の研究で、このようなマイナス効果は実際には起こらないことが分かってきています。2021年に発表されたメタ解析論文では、ソイプロテインや抽出されたイソフラボン単体を摂取しても、テストステロンや女性ホルモンの値に変化がなかったことが分かっています(引用9)。また、マウスを使って大豆から抽出した油の効果を調べた実験において、油を摂取させたグループでは、テストステロンやテストステロンの分泌を促す黄体形成ホルモンの値が高くなることが分かりました(引用10)。これらのことより、大豆製品がテストステロンを下げるという意見は誤解であると考えられます。
テストステロン増加に効果のあるサプリメント
テストステロンを増やす可能性のあるサプリメントについても解説します。基本的には、正しい食事管理と運動が重要ですので、それにプラスアルファの効果を期待する程度のイメージが良いでしょう。
・クレアチン
クレアチンは、筋肉を大きくしたいと考える人だけでなく、多くのスポーツ選手にも取り入れられているサプリメントです。サプリメントの摂取で体内のクレアチンの総量が増えると、それだけ運動のためのエネルギーを効率よく生産できるようになります。その結果として、運動の持続時間が伸びたり、筋力が上昇したりという効果が望めます。クレアチンとテストステロンの関係については、クレアチンの摂取によりテストステロンの値が上昇したという報告もあれば、変化がなかったとする研究もあります(引用11,12)。クレアチンそのものがテストステロンを高めることに期待すると同時に、クレアチンでトレーニングのパフォーマンスが上がった結果としてテストステロンの分泌も促されるというスタンスでいると良いのではないでしょうか。
・ビタミンD
ビタミンDもテストステロンの合成に重要な働きを持ちます。ステロイドホルモンと似たような構造を持つため、セコステロイドと呼ばれることもあります。ビタミンDは、日光に含まれる紫外線に当たることで合成できますが、紫外線の弱くなる冬には十分な日光浴ができなくなることもあります。そのため、食品だけでなくサプリメントによる摂取も推奨できます。
・亜鉛
牛肉や牡蠣に含まれると紹介した亜鉛は、欠乏するとテストステロンの合成に影響を及ぼす栄養素です。若年被験者の亜鉛摂取量を20週間制限した実験では、血中のテストステロン濃度が有意に減少したことが報告されています(引用13)。また同じ実験の中で、高齢者を対象に6ヶ月間亜鉛のサプリメントを摂取させたところ、血中テストステロン濃度が上昇したことも分かりました(引用13)。亜鉛単体のサプリメントを活用しても良いですし、ZMAと呼ばれる、亜鉛、マグネシウム、ビタミンB6を組みわせたサプリメントの使用もおすすめです。
・カルニチン
カルニチンはダイエット目的で摂取されることの多いサプリメントです。主な働きは、脂肪が分解されてできた脂肪酸をミトコンドリア内に運び、エネルギー産生を助けることです。カルニチンは直接テストステロンの合成に関係する栄養素ではないですが、体内の酸化ストレスを低下させることで、種々のホルモンの合成量を高める働きがあることが、動物実験で報告されています(引用14,15)。ヒトに対して同様の効果があるかを判断するのは今後の研究次第ですが、有用なサプリメントである可能性は考えておいて良いでしょう。
まとめ
今回は、テストステロンを増やすための食事とサプリメントの考え方を解説しました。
テストステロンの合成に役立つ栄養素を理解した上で、まずは食事内容を見直してみると良いでしょう。その上で、不足する分をサプリメントで補う方法がおすすめです。マルチビタミンミネラル系のサプリメントを使用すると、今回紹介した亜鉛やビタミンDを合わせて摂取することができます。まだ使用していない方は、ぜひ検討してみてください。
執筆者:舟橋位於(ふなはし・いお)
1990年7月7日生まれ
東京大学理学部卒(学士・理学)
東京大学大学院総合文化研究科卒(修士・学術)
NSCA認定パーソナルトレーナー
調理師
東京大学在学中に石井直方教授(当時)の授業に感銘を受け、大学院は石井研究室で学ぶ。団体職員等を経て、現在は執筆業務および教育関連事業にて活動中。得意な執筆ジャンルは、運動・栄養・受験学習。
引用1. E.K. Hämäläinen, H. Adlercreutz, P. Puska, P. Pietinen. Decrease of serum total and free testosterone during a low-fat high-fibre diet. Journal of Steroid Biochemistry. Volume 18. Issue 3. 1983. Pages 369-370
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0022473183901176
引用2. Te L, Liu J, Ma J, Wang S. Correlation between serum zinc and testosterone: A systematic review. J Trace Elem Med Biol. 2023 Mar;76:127124.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36577241/
引用3. 文部科学省|食品成分データベース
https://fooddb.mext.go.jp/freeword/fword_top.pl
引用4. Trummer C, Pilz S, Schwetz V, Obermayer-Pietsch B, Lerchbaum E. Vitamin D, PCOS and androgens in men: a systematic review. Endocr Connect. 2018 Mar;7(3):R95-R113.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29449314/
引用5. Chin KY, Ima-Nirwana S, Wan Ngah WZ. Vitamin D is significantly associated with total testosterone and sex hormone-binding globulin in Malaysian men. Aging Male. 2015;18(3):175-9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26004987/
引用6. Gordon GG, Altman K, Southren AL, Rubin E, Lieber CS. Effect of alcohol (ethanol) administration on sex-hormone metabolism in normal men. N Engl J Med. 1976 Oct 7;295(15):793-7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/958274/
引用7. Steiner JC, Holloran MM, Jabamoni K, Emanuele NV, Emanuele MA. Sustained effects of a single injection of ethanol on the hypothalamic-pituitary-gonadal axis in the male rat. Alcohol Clin Exp Res. 1996 Nov;20(8):1368-74.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8947312/
引用8. Whittaker J. High-protein diets and testosterone. Nutr Health. 2022 Oct 20:2601060221132922.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36266956/引用9. Reed KE, Camargo J, Hamilton-Reeves J, Kurzer M, Messina M. Neither soy nor isoflavone intake affects male reproductive hormones: An expanded and updated meta-analysis of clinical studies. Reprod Toxicol. 2021 Mar;100:60-67.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33383165/
引用10. Su Y, Tian Z, Qi X, Luo D, Liu L, Liu S, Zheng D, Wei F, He Z, Guan Q. Effects of increasing intake of soybean oil on synthesis of testosterone in Leydig cells. Nutr Metab (Lond). 2021 May 26;18(1):53.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34039393/
引用11. D. Sheikholeslami Vatani, H. Faraji, R. Soori, M. Mogharnasi. The effects of creatine supplementation on performance and hormonal response in amateur swimmers. Science & Sports. Volume 26, Issue 5. 2011. Pages 272-277
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0765159711001171
引用12. Cooke MB, Brabham B, Buford TW, Shelmadine BD, McPheeters M, Hudson GM, Stathis C, Greenwood M, Kreider R, Willoughby DS. Creatine supplementation post-exercise does not enhance training-induced adaptations in middle to older aged males. Eur J Appl Physiol. 2014 Jun;114(6):1321-32.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4019834/
引用13. Prasad AS, Mantzoros CS, Beck FW, Hess JW, Brewer GJ. Zinc status and serum testosterone levels of healthy adults. Nutrition. 1996 May;12(5):344-8.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8875519/
引用14. Rezaei N, Mardanshahi T, Shafaroudi MM, Abedian S, Mohammadi H, Zare Z. Effects of l-Carnitine on the Follicle-Stimulating Hormone, Luteinizing Hormone, Testosterone, and Testicular Tissue Oxidative Stress Levels in Streptozotocin-Induced Diabetic Rats. J Evid Based Integr Med. 2018 Jan-Dec;23:2515690X18796053.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30168346/
引用15. Li XF, Shi ZD, Song H, Wang YL, Li QC, Diao XH, Pang YW, Zhou SH, Liu HY. Protective effects of L-carnitine on reproductive capacity in rats with diabetes. J Physiol Pharmacol. 2021 Feb;72(1).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34272348/