10月19日(土)、第2回ジュラシックカップが熱狂のなか幕を閉じた。
【写真】フィットネス界の革命児・KENTO氏が手がけるジュラシックカップ
ジュラシックカップはトップボディビルダー木澤大祐選手と合戸孝二選手を共同主催者とし、エンターテイメント性と競技性を両立した新しいボディビル大会である。開催に向けてのクラウドファンディングは1300万円を突破。会場は最大申し込み倍率5.1倍での満席、模様はYouTubeで配信され、41万回の再生数を残している。
その華やかな成功を支えたメインプロデューサーがKENTO(本名:須藤健人/30)氏だ。KENTO氏が携わるのはトップ競技者への栄養指導、YouTube配信、SNSの指導、アパレル展開の補佐、そして大会の運営と多岐に渡る。「フィットネス業界のイノベーションあるところにKENTOあり」と囁かれながら、表舞台には姿をほとんど現わさない謎多き人物。トップ選手に支持を受け、あらゆる領域の仕掛け人として策動するプロモートの鬼才が見据えるジュラシックカップの、そしてボディビル界の未来とは。
「昔から人の悩みを聞いて、解決策を考えるのが好きでした。その人の課題に対して、自分が何を提供できるか。それを一生懸命に考えて伴走し、解決できたときの喜びというのは何にも代え難いです」
幅広く手がける事業展開の理由について、率直な内情を語ってくれた。
「僕が現在携わっている全ての事業は最初から仕事として受けたわけではありません。個人的な相談を無償で手助けしていくうちに、規模が大きくなって事業化したものばかりです。なので、『何が本業なのか』とよく聞かれるのですが、どれも実は本業であって本業ではないです(笑)。抱える案件がどんなに大きな規模になっても、根っこの部分は居酒屋での悩み相談が仕事になった。そんなイメージです」
KENTO氏は高校生から海外を飛び回り本場のフィットネス文化を学ぶとともに、栄養学を研究。『忖度なしの栄養学 科学的根拠に基づいた「ボディメイク×ニュートリション」の新バイブル』(ベースボール・マガジン社/2021)を著したほか、今年、引退にして日本一となった木澤大祐選手の栄養指導において近年の競技成績向上に大きく関与したとして脚光を浴びた。また、栄養学と筋トレについてのYouTube配信『NEXTFIT KENTO』は総再生回数3400万回を超える。その発端のどれもが、最初は小さな悩み相談が発端だったという。
ジュラシックカップは、当初は体育館でのジムコンテストだった
「木澤さんと合戸さんが“自分達の理想を詰めた大会をやってみたい”と構想し、相談をいただいた段階では、どこかの体育館を借りてジムのメンバーを競わせるという本当に身内だけのものでした。僕はそれでは勿体ないと思った。ボディビルに名を残す両雄が関わる大会が、そんな小さな目標でいいのかと。そこで、お二人に『その夢を日本一の大会にするから、僕に任せて下さい』と頭を下げました。その時点では僕にイベンターの経験はありませんでした。大会の運営に関わったこともありません。だけど、僕は目的地に対しての道筋を考え、成果に繋げるということには実績と自負があります。だから、未経験の領域である大会運営も必ず成功させてみせると思いました」
場所の設定、機材の発注、広報の手順など、一つひとつ手探りで模索して行ったという。
「目的地を設定したら、そこに到達するまでに必要なスキルは走りながら得ていく。厳密に決めるのは着地点のみです。目標があやふやだと、せっかくの努力が意味を失ってしまう。努力の方向だけは確実に正しく綿密な計画を立て、そこまでの走り方は走りながら考えています。なので至らない部分・反省点はすごく出てしまうのですが、次のさらなる成功のための伸びしろとして捉えて都度改善していくことで、もっともっと向上させていけると思っています」
なぜ、ここまで献身的に携わるのか。その理由は驚くほど感情的なものだった。
「突き詰めると“自分の半径の5メートルの人を幸せにしたい”というのが根源的な欲求だと思います。これは僕の生きる上のポリシーであり、楽しみであり、業務方針です。身近な人たちが幸せになることで、その人の周りの人にも幸せが波及する。ジュラシックカップでいえば、木澤さんと合戸さんの夢を叶えることで、大勢の選手の方々と観客の方々が幸せになってくれたと思います。このように、身近な人を精一杯幸せにすることが、ひいては大勢の幸せを生むと思っています」
利他の思想に行き着いたのは、利己の先にある世界を見たからだという。
「僕は自分のためだけの利益や楽しみの追求は、人生の初期で達成しているんです。やりつくして、その虚しさを心底味わった。そこで、本当に自分が求めているのは、共に喜びを分かち合う仲間だと思いました。仲間がいなければ、どんな成功も味気なく空虚です。そこから、誰かのために行動すること、人が幸せになるための裏方としての生き方を選びました」
新しい試みには逆風も吹く。業界が保守的であればなおその風は強い。有名選手が突然の活動方針転換をする傍らにKENTO氏の存在があることから、“フィットネス界のフィクサー(黒幕)”と呼ばれ、怪しげなイメージを持たれることもあるという。
「僕が表舞台ではなく裏方の仕事が好きすぎるというのもありますが(笑)、そうでなくともお金が発生する場には邪推がつきものです。ジュラシックカップのクラウドファンディングも、お陰様で一回目の開催は1000万円、今回は1300万円という高額な支援を得ることができました。でも、そこに“個人的な利益の追求”というのはありません。もちろん、労働に対して相応の対価というのは関係者は得ていますが、それ以外の全てを大会の成功に向けて使っています。興行には怪しげなイメージを持たれる方がいらっしゃるのは当たり前のことなので、できうる限り透明性を大切にしていくことで、それを払拭したいと思っています」
ボディビル業界のさらなる発展のために
KENTO氏がボディビル業界に深く携わる理由は、業界の一般認知度と訴求水準に対して、「もったいない」と感じた経験が大きいという。
「ボディビル業界は外部へのプロモーションという点では10年、20年遅れているといっても過言ではないです。中身がいくら良くても、見栄えが悪ければ手に取ってもらえない。僕はボディビルが好きで、その競技性は素晴らしいと思う。でも、魅せ方についての意識が非常に薄い」
これは、観客として多くの大会を観たなかで感じた不満が原体験になっている。
「一部の熱狂的なファンにのみ支えられるだけでは、世界の発展がない。発展がないということは、衰退してしまうということです。僕はボディビルを、もっとメジャーで皆が楽しめるものにしたい。ニッチだからこそ培われた深い世界観の良さをできるだけ壊さないまま、もっとたくさんの方に楽しんでもらえる競技にしたい。難しい課題ですが、やり甲斐があります」
構想を練るのは基本的に自分のみで行なっているという。たった1人で難問に挑み続けることに辛さはないのか、という問いにKENTO氏は「面白い」と答えた。
「僕は多分、究極は“永遠に考え続けなければならない何か”に挑戦するのが好きなんだと思います。簡単に結末が見えるものには、面白みを感じない。どうなっていくのか読めない、不確実だからこそ、成功に向けての努力が楽しい。栄養学を研究したのも、人体という机上の計算・理論だけでは太刀打ちできない、不確実なものに関与するということに底のない魅力を感じたからです。今は、ジュラシックカップを今後ブラッシュアップして続けていく上で、最終的にどんなものが出来上がるのか、その結末がみたい。きっとこれは永遠に解けないですから、長い挑戦になると思います。そこにひとりでも多くの人の幸せや楽しみを生み出せるといいなと」
最初は1人で取り組んできた課題だが、規模の拡大とともに協力者も増え、チームとしての力も増してきているという。また、現在のKENTO氏の主戦は海外法人向けのWEBマーケティング支援企業の経営であり、事業拠点も海外(UAE)のため生活の9割を国外で過ごす。フィットネスのメインストリームであるアメリカ・ヨーロッパで自分がどこまで通用するかを試すため、栄養学を始めとするオンラインコーチング事業(toC)・ソーシャルメディアサポート(toB)などからスタートした事業だ。
「日本が世界に誇るナチュラルボディビルディングも、いつか世界に持っていけたら嬉しいです。僕のことを信じて受け入れてくれている人たちの期待を超えられるように、これからも挑戦し続けていきます」
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取材:にしかわ花 撮影:中島康介
『IRONMAN』『FITNESS LOVE』『月刊ボディビルディング』寄稿。広告・コピーライティング・SNS運用も行うマルチライター。ジュラシックアカデミーでボディメイクに奮闘している。