
クラシックバレエで培った身体感覚をもとに、初心者向けのバレエクラスのほか、ビューティーストレッチやヨガクラスも指導するインストラクター・大野麻里(まり)さん。ゴールドジムのスタジオでは、呼吸や姿勢を整えながら“自分の身体と向き合う時間”を提供している。凛としてやさしい笑顔の奥にある、彼女のレッスン哲学とは――。
取材・文:藤村幸代 撮影:小畑円香 Web構成:中村聡美
少女時代はバレエ一筋
━━もともと、プロのバレエダンサーとして活動されていたそうですね。いつごろからバレエを始められたのですか。
まり 5歳のころです。3歳上の姉が習うということで、その付属のような感じで母に連れられて始めました。当然、最初はまったく興味がなくてサボってばかり(笑)。でも、小学6年生くらいで、より厳しいスタジオに移ったのが転機になりました。できない自分が悔しくて、そこから負けず嫌いに火がついたんです。
━━そうなると、やはり学生時代はバレエ中心の生活に?
まり はい。「食べる、踊る、寝る」だけの毎日でした。プロ育成の学校にも通っていたので、高校生のころは遊ぶ時間はほとんどなかったですね。国内で知られるバレエ団に入り、プロを目指していました。
- 現役バレエ時代の写真
━━プロを目指す中で、大きな壁にぶつかった経験はありますか。
まり 私は身長が172、3㎝あり、国内では大きすぎたんですね。その割には主役級ではなく、良くも悪くも目立ってしまう。それで精神的に疲れてしまった時期もありました。その後、自由度の比較的高い別のバレエ団に移籍したことで、バレエの楽しさをまた思い出すことができました。
━━バレエ時代の経験は、今のご自身にどうつながっていますか。
まり 当時は自分に足りない課題を明日までにクリアすることで精一杯。思い詰めるばかりの日々でしたが、今振り返ると、あれほど一つのことに全力を注げた時間はないというほどかけがえのない経験だったなと思います。バレエで培った集中力や身体の感覚、姿勢への意識は、今の仕事のすべてに通じているなと日々実感しています。
離れてみて気づいた「身体を動かす喜び」
━━その後、一度バレエから離れたと伺いました。
まり バレエという限られた世界で生きてきたので、社会の中で自分を試してみたくて、美容系の企業に就職しました。でも、半年ほど経って「やっぱり身体を動かしたい」と思ってしまって(苦笑)。仕事を辞め、大学時代にアルバイトをしていたゴールドジムに、また働かせてくださいとお願いしました。出戻りのような形で恥ずかしかったのですが。
━━それでも、やはり「身体を動かす」という本来の自分に合った仕事場に戻りたいと。
まり そうなんです。最初は以前と同じフロント業務で復帰したのですが、「経験を活かしてインストラクターとして教えたい」とお伝えしたら、先輩インストラクターの方が時間をかけて「教えること」を教えてくださいました。
━━バレエ経験を活かせるとはいえ、指導する立場では、また違った難しさがあったのでは?
まり 今も難しさを感じています。バレエって良くも悪くも言葉がいらない、身体で表現するものなので、言葉で表現するのが本当に難しくて。ふだんから喋ることが苦手なほうなので、最初はレッスンで語りかける言葉を一言一句ノートに書いたり、語彙を増やすために、思いついたときに言葉を書き留めたり。また、バレエは舞台の上なのでお客様の顔があまり見えないのですが、インストラクターはお客様の目を見てレッスンを進めるので、最初はたくさんの視線に押し潰されそうでした。
“踊れる身体”を元に考案ビューティーストレッチ
━━現在、ゴールドジムではどんなクラスを担当されていますか。
まり バレエ、ビューティーストレッチ、ヨガの3種類です。ビューティーストレッチは、踊れる身体になるために私自身が意識してきた姿勢や、ふだん取り入れてきたストレッチなどをベースに、月ごとのテーマを考えレッスン内容を決めています。

今日のテーマは「姿勢をつくる」。呼吸を整え、呼吸が全身に流れるようにストレッチ。バレエがベースのポーズなど様々なエクササイズで自分の身体と向き合い、続けるうちに身体に変化を実感できる
━━ご自身でメニューを組んでいるんですね。ちなみに、今日行っていたレッスンのテーマは?
まり 大きく言うと「姿勢をつくる」というテーマです。「姿勢をよくしてください」というと、肩まわりだけを意識する方も多いのですが、できればもっと身体の伸びを感じたいということで、足裏から脚の付け根の腸腰筋、上半身に意識をつなげて、より上下の伸び感を感じましょうというテーマで行いました。

━━レッスンは呼吸を整えるところからスタートしました。
まり 季節の変わり目は特に体調を崩しやすいので、最初に呼吸から始めました。また、バレエ団時代に自分で経験したのですが、呼吸が止まっていると身体が思うように動かないし、酸素が行き届かないので体力も追いつかず、どんどん息苦しくなってしまうんです。だから、どんな動きをするときも「呼吸と共に」とお声がけしています。
━━片膝をついて行う腸腰筋エクササイズでは「上下に気持ちよく伸ばして」という言葉が印象的でした。
まり これもバレエ時代の経験から来ていて。頑張ろうと緊張しているときほど、肩や首に力が入ってしまうんですよね。そんなときに脚のつけ根やお腹まわりを意識すると、自然と呼吸が流れて酸素が身体に巡る感じがします。足先から頭までのつながりと伸びをしっかり感じるためにも、上下をつないでいる腸腰筋に意識を向けてほしいなと。

━━今回のレッスンで一番バレエの動きを連想させたのが、最後のバランスエクササイズでした。
まり 片脚で立ち、もう一方の脚を後方へまっすぐ伸ばす「アラベスク」というポーズがベースです。ただ、上体を起こすのはちょっとハードルが高いので、上げた脚と上体を水平にしてハードルを下げました。片脚でバランスを取ると、意識できていたつもりでも体幹の使い方などの課題があらわになります。また、腿の内側にもアプローチできるポーズということで、ふだんはなかなか意識しづらい内転筋にも意識が向くようになるのでお勧めです。
━━レッスン後に「キツかった」と言っている方も、ちらほら。
まり メニューを決めるときに実際に通してやってみますが、私でもけっこうキツイです(笑)。最初は慣れない動きが多くてキツイと感じるかもしれませんが、続けるうちに自分の身体の変化を感じられるようになりますし、1カ月、3カ月と続けていると「ここが伸びた」「呼吸が楽になった」といった実感も出てきます。その達成感が次へのモチベーションになると思います。

━━実際に「ここが変化した」という声が届いていますか。
まり 肩が上がらなかった方が「先生のクラスを受けてから上がるようになりました」とか、スイミングのクラスを受けている方が「背泳ぎが心地よくできて、今までより長い距離を泳げるようになった」とか。ビューティーストレッチの効果を実感されて、それを何かにつなげることができたという感想をいただけるのは本当にうれしくて、インストラクターとしてのやりがいを感じます。
舞台の感動をスタジオで
━━初級者向けに行っているバレエのレッスンでは、どんな内容を?
まり 私が担当するゴールドジム戸塚神奈川店では他の先生のバレエクラスも多いので、内容がかぶらないように心がけています。具体的には、クラシックバレエの基礎的な動きに加えて、作品の一部をモチーフにした「バリエーションレッスン」を取り入れています。ひとつのバリエーションを1カ月かけてマスターしますが、少しでも〝舞台〞の雰囲気を味わってもらいたいなと思っています。

基本プラス、実際の演目と同じオーケストラの音楽で踊るなど、舞台と同じ空気感を味わえるレッスン
━━技術と共にバレエを踊る楽しさも伝えたいと。
まり 本当にその通りで。私自身、昔はバーレッスンやセンターレッスンの基礎練習が大嫌いで(苦笑)。それをやらないと踊れないし怪我もするからと自分に言い聞かせて、何とか頑張ってやっていた経験があるので、大切な基本プラス、実際の演目と同じオーケストラの音楽で踊るなど、舞台と同じ空気感を味わい、非日常を楽しんでほしいなって。
━━バレリーナになり切れる瞬間。伺っているだけでワクワクします。

まり 初めてバレエに挑戦する方も多くて、最初は靴下で参加していたのが「楽しいのでバレエシューズを買いました」と。シューズを買ったらもう後戻りはできないので(笑)、継続していただいています。また、新しいバリエーションに取り組む前にはその演目の背景もお話するんです。それをきっかけに興味を持ち、実際に公演に足を運んでくださった方も。バレエに興味を持っていただけて、とっても嬉しいですね。
━━まりさんのレッスンはストレッチクラスもバレエクラスも、空気感がとても穏やかな印象です。
まり ありがとうございます。受講される方にはそれぞれのペースがあるので、緊張せずに自分の身体と向き合える時間にしてほしいなと思っていて。私自身もバレエ時代、踊りに集中していたときは、先生の声が全然聞こえないこともありました。同じように、レッスン中は私の声をBGMのように聞き流してくださってもいい、ここにいる間は緊張を解いて自分に集中してほしいと思っています。だからあえて静かにしゃべり続けて、皆さんが集中しやすい空間づくりを意識しています。
継続できたという達成感が内面の美しさにつながる
━━まりさんご自身で今後挑戦してみたいことはありますか。
まり 夢は大きく、という意味でいえば、今後もゴールドジムでの指導を続けながら、姿勢改善のエクササイズなど身体づくりのコンテンツをつくってYouTubeで発信したり、オンラインレッスンなどにもつなげていったりしてみたいです。やるならゴールドジムの広告塔になるくらいの気概を持って。
━━ヨガの指導もされていますし、発信できることはたくさんありそうですね。
まり 「バレエだけ」の時代が過ぎた後、25歳までは色々なことに挑戦して視野を広げようと決めたんです。ヨガのほかピラティスの資格も取得する予定です。経験を通して、バレエを含めて根本的な身体の使い方や意識の持っていき方は全て共通していると分かったので、さらに経験や体験を深めて、いつかそれぞれの良さを融合した自分なりのメソッドを作りたいなとも思っています。
━━〝まりメソッド〞の完成を楽しみにしています!最後に、日頃から身体をしなやかで柔軟にしておくことは、やはり美しさにつながると思いますか。
まり もちろん、日常の姿勢や動作などの見た目も変わってくると思いますが、継続することで得られる達成感が内面からの美しさにつながっていくと思っています。以前の仕事で多くの人がコンプレックスを抱えている姿を見て、「外見にとらわれず、自分で自分を嫌いにならない行動を心がけよう」と思うようになりました。レッスンでも「この場にいるだけで皆さんは偉いです」といつも言っていますが、1カ月でも続けられればそれが自信になり、自己肯定感にもつながっていくと思うんです。

ゴールドジム戸塚神奈川毎週月曜 19:30 ~ 20:30
ビューティーストレッチゴールドジム戸塚神奈川毎週月曜 14:00 ~ 15:00
ゴールドジム練馬高野台東京毎週水曜 11:10 ~ 12:10
おおの・まり
2001年8月16日生まれ。5歳のころに姉の影響でバレエを始める。2017年NBA全国ジュニアバレエコンクール東京 高校1年部門3位-1。2018年、高校3年生でバレエ団に所 属。2020年European BalletGrand Prixコンテンポラリー部門2位。24年9月にヨガ資格を取得。現 在は、ゴールドジムでバレエ、ビューティーストレッチ、ヨガのインストラクター「まり」として活躍中。
















