「食べないダイエットはダメ」。これは様々な情報が簡単に入手できる昨今では、もはや“当たり前”となってきている認識ではないだろうか。
JBBF(公益財団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)で活躍するビキニフィットネス(※)の小倉あれず(おぐら・あれず/27)選手は以前、「1日にお菓子のグミを1粒」で過ごすといった無茶過ぎる「食べない」ダイエットを繰り返し、ひどいときは胃に穴が空きかけ、救急車で運ばれることも何度か経験したことがあるという。「食べないダイエット」はなぜダメなのか?どうすれば健康的にダイエットができるのか?小倉選手の経験を通じて自身の食生活を見直してみてはいかがだろうか。
(※ビキニを着用してステージに立ち、細くくびれたウエストや丸みのあるヒップ、しっかりと作られた脚、肌の艶・ハリの良さなど、トータルパッケージで評価される女性競技)
[初出:Woman'sSHAPE vol.28]
食べなければ、きれいになれる?思い込みが招いた負のループ
──過去、無理なダイエットを繰り返した経験があるそうですね。
小倉 はい。私は、学生時代に12年間バレーボールを続けていました。まさにアスリートのような生活を送っていたので、いくら食べても太らなかったし、お腹も割れているくらいでした。ただ競技的に低く構える姿勢をとる時間が長いため、脚とお尻がガッチリしてくるんです。バレーを続けているうちはよかったんですけど、引退してからは、自分のなかでコンプレックスになっていました。
──競技者として「強い」足腰は強みですが、競技から離れると「太さ」が気になってしまう。
小倉 だからダイエットしようと思って、とりあえず「食べない」という選択をしました。性格上、コレと決めると突き詰めて取り組むので、食べないと決めたら本当に食べないので、すぐに10㎏近く体重が落ちましたが、求める身体とは何かが違ったんです。
──身体の質感が、ですか?
小倉 ブヨブヨしているというか、水っぽいというか。当時は「食べなければ痩せる、痩せればきれいな身体になる」と思い込んでいたんですよね。だから、こんなに食べてないのにきれいになれないの?これでも食べ過ぎ?と、食べることが余計に怖くなってしまって、1日グミ1個で過ごすようになったりして……。
──グミ1個って、お菓子のグミを1粒ですか!?
小倉 はい(笑)。ほかにもコグマ(サツマイモ)ダイエットとかファスティングとか……、当時流行っていたものは大体やりました。どれも痩せはするけれど、先ほどの話と同じで理想の身体にはならない。さらには、友だちとご飯に行ってもトイレで吐き戻すようになってしまいましたし、ひどい時は胃に穴があきかけて、週3回ペースで救急車に運ばれるようになってしまったんです。
──さすがに、病院でかなり指摘されたのではないですか?
小倉 食べなさい、と強く言われました。それで「食べないといけないんだな」と気づいたはいいのですが、今度は逆に食べることが止められなかったんですよ。落としたはずの10㎏もすぐに戻ってしまって、困ったなと。そうこうしているうちに東京から実家の栃木に戻ることになったのですが、それが大きな転機となりました。
コンプレックスを強みに変えてくれたビキニフィットネス
小倉 私が無理なダイエットを繰り返しているのを知った母が、勤めている整骨院に併設されているジムを紹介してくれました。筋トレは脚が太くなるっていう思い込みがあったので乗り気ではなかったのですが、とりあえず行ってみると、そこはJBBFの公認ジムで「強い足腰が生きるビキニフィットネスという競技があるんだけど」と、教えてくれたんです。
──競技との出合いが、間違いだらけのボディメイクから抜け出すキッカケになったのですね。
小倉 はい! 筋トレをするのは最初は少し抵抗もありましたが、コンプレックスだと思っていた下半身が強みになるのならやってみようかな、と気持ちを切り替えてからは早かったですね。週4、5回のトレーニングで、むしろ脚とお尻を強化していきました。
──トレーニング開始から半年でコンテストに出場しました。
小倉 最初は「来年あたり出られたらいいかな」くらいに考えていたんですけど、競技をもっと知りたくて長瀬陽子さんに連絡をとったところ話が進んで、半年後の栃木オープンに出場しました。でも、それがあったから「しっかり食べて、絞る」っていう取り組みにシフトしていけたんですよね。
──筋トレのように、食べることに抵抗はなかったですか?
小倉 初めはありました。食べて大丈夫かな?って。でも、それは知識がないからこその発想なんですよね。私はハマるととことん突き詰めるので、筋トレのことも食事のことも、競技に関するあらゆることをかなりの時間を割いて勉強したんです。学ぶほどに食べて絞ることがどれほど理にかなっているかがわかったので、すぐに抵抗なく取り組めましたし、最悪これが全部嘘だったとしても、それならまた食べなければいいか!くらいの感じでした(笑)。
──実際に取り組んだ結果、嘘ではなく理想の身体に近づいた。
小倉 少しずつ変わっていくボディラインを見て、ああ自分が求めていたのはこういう身体だ!と、感動しました。
競技生活における反省と3年目の取り組み
──トレーニングを始めて3年。競技を始めてから経験した失敗は何かありますか。
小倉 最初22年のシーズンで頑張りすぎたみたいで、大会後2週間で10㎏増えたんです。「食べちゃダメ」と思うほど過食が止まらなくて、一旦仕方がないと受け入れたうえで23年2月から始まる次の減量に備えていたのですが……。身体が低代謝になってしまって、何をやっても全く絞れない状態に陥りました。
──23年初戦、8月のスポルテックの結果は3位でした。
小倉 はい。結果もですが、納得のいく仕上がりにもっていけなかったことが悔しくて。そこからオールジャパン、グラチャンまでの3カ月間は、死に物狂いでした。これは本当に間違ったやり方なので、絶対に真似しないで欲しいのですが、1日あたりのカロリーをギリギリまで削って、さらに毎日3時間の有酸素運動をしてどうにか仕上げた感じです。結果を残すことはできましたが、取り組みとしては本当に良くなかったですね。筋肉量も落ちましたし。
──美談にしてはいけませんが、ギリギリを攻めても折れないメンタルがすごいですね。
小倉 ツラいと思い始めたら、それだけで、すべてが終わってしまうと思うんです。だから「こんなにカロリーを減らしてるのに、こんなに有酸素やっちゃう私、最高!素敵!」というメンタルでどうにか乗り切りました(笑)。
──大会後は、どのようにコンディションを取り戻しましたか?
小倉 ギリギリまでカロリーを落としていたので、いきなり通常カロリーに戻すと急激な体重の戻りでまたコンディションを崩しそうだと思って、メニューは減量食のまま食事回数を増やしました。あと、シーズン後はメンタルをリラックスさせることが大切な気がして、好きなお酒を量や頻度は気にしつつ飲んでOKとしました。
──減量食の内容は?
小倉 基本タンパク質量(体重×2)と脂質量(30g)は変えずに糖質量で調整しますが、最近やや停滞気味なので、脂質を少し減らして(25g)そのぶん糖質を増やして4〜5食とっています(左下囲み参照)。合計1250~1300kcalで少なめに設定しているんですけど、それは来月7月にゲストポーズが控えているので、2㎏くらい絞って臨みたいなと。
──ちなみに食事以外の面で、失敗の経験はありますか?
小倉 今のところはないですね。まだ3年目ですし、そのあたりはこれから経験していくのかもしれません。一応、ウエストを常に細くキープしてオンもオフもアウトラインは変えないことと、無理をしてまで高重量を追い求めすぎないことは、心がています。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
文:鈴木彩乃 撮影:EastLabs photo team