「何もわからないままボディメイクを始めたので、ひどい体型でした」
初心者時代をこう振り返った廣中れな(ひろなか・れな/34)選手。9月29日(日)に開催された『JBBFオールジャパン フィットネス チャンピオンシップス2024』のビキニフィットネス 163cm超級で2位と活躍する廣中選手に当時の誤った選択肢について尋ねた。
[初出:Woman's SHAPE vol.28]
筋肉が育てばそれでいい。ボディメイク自体を間違えて認識していた
──ご自身の初心者時代を振り返ってみて、今だからこそ分かる失敗はありますか?
廣中 「とにかく全体的に筋肉がつけばそれでいい」と思っていたので、自己流でトレーニングしていたことが一番大きな失敗ですね。1年目はトレーニング方法が分かっていなくて、参考にしていたのはYouTubeのトレーニング動画。ボディビルの選手が紹介する種目をやり込んでいました。今だから言えることですが、可動域が狭い初心者がトレーニング慣れをしている人のやり方を真似すること自体が間違いだったんですよね。身体の土台もできていないのに、応用やっちゃうみたいな。
当時、とにかく重量を追い求めたら自分が目指していたビキニ選手には程遠いバランスの悪い身体になりました。発達した三頭筋、鍛えた腹筋の賜物である太いウエスト、そして四頭筋の下部が大きく育った脚。一方、背中はとても華奢でした。ビキニフィットネスで求められているボディラインが分かっていなかったので、当時の私としては「全体的に大きく育っているからいいでしょ」と思っていたんです。ゴツい自分が好きでしたね(笑)。
──減量の面ではいかがでしたか?
廣中 ビキニで出ると決めてから半年後に初戦となる愛知県大会があったので、とにかく絞り切ることに集中しました。減量方法も分からなかったので、糖質をカットしてとにかく摂取カロリーを抑えたんです。タンパク質は多めに摂って、お仏壇に供える仏さんのご飯程度の量を1日3回、後はプロテインばかり飲んでいました。絞り切らないと自分自身の身体の課題が見えてこないと思ったから、そのような選択肢を選んだんですが、本当にしんどかったですね。
──ダイエットの方法として糖質制限はよく言われていますよね。ハードな減量やトレーニングの結果はどうでしたか?
廣中 初挑戦の年でも絞りは負けていなかったので愛知大会で3位をいただき、オールジャパンにも挑戦しました。でも直面したのは、他の選手との大きな身体の差。みんな肩が丸くて大きいし、背中も立派。でもウエストは細いので逆三角形のラインが美しくて。それに比べて自分の身体は絞りだけで、他はすべてダメダメでした。「自分は何をしていたんだろう」と、自分がしてきたことの間違いに気づいたんです。
基礎から教わることで蛹から蝶へと進化した
──間違いに気づいてから、どのように軌道修正をしたのですか?
廣中 人から教わり、しっかり復習することを繰り返しました。ボディメイクの軌道修正ができたのは、兵庫県にあるMAX GYMの木下喜樹先生に基礎を教えていただいたことが大きいと思います。初年度のオールジャパンで目をひいた選手がいて、その方が通っていたのがMAXGYMだったんです。その選手を通じて、大会の数日後に先生と会うことができました。最初は難しいトレーニングをさせられるのかな……と思っていたのですが、とにかく基礎ばっかりで。
──基礎というのは?
廣中 トレーニングをするときの身体の使い方です。当時、一番弱いし苦手だったのが背中で、先生にフォームを見てもらったら「可動域が狭い」と言われました。つまり柔軟性がないということなのですが、言われたときは衝撃でした。トレーニングで可動域がとれていないとは思ってもみなかったので。先生から「腕で引くのではなく、背中で引く、肩甲骨を動かす」と指摘されても、最初は言葉の意味が分からなかったほど、身体のことについて無知でした。それでも、教えてもらった通りに身体を動かしてみたら、初めて背中に収縮がかかる体験をしたんです。ロウイングではこんなに反らさなきゃいけないんだ、といったような基本中の基本をひたすら反復しました。
──初心者のうちに基盤を整えておくと、ボディメイクがスムーズになりそうです。実際、身体の反応はどうでしたか?
廣中 背中・お尻の上部・脚の上部など自分でトレーニングしていても筋肉痛になったことのない部位にしっかり痛みがくるようになりました。今まで自分は「基礎ができていると思い込んでいた」ことを痛感したんです。でも、これは教わらないと気付けません。同時に人から学ぶことの重要性を身に染みて感じましたね。筋肉がパーツパーツで細かく分かれていることも知らなかったので、トレーニングと同時進行で筋肉の勉強をするようになりました。先生が筋肉の名称を言ってくれるんですが、どこについているのか分からないと上手く効かせられなくて。今日先生が言っていた大円筋って、ここにあるんだ!とか、この筋肉に効かせていたのか!と、点と点が繋がるようになって、筋トレの面白さを感じるようになりました。
──テクニックよりも先に基本的な知識を身につけることで、相乗効果がより高まりそうですね。
廣中 ただ、どうしても左右差がなくならなくて……。特にサイドポーズを取ったときの回旋のしにくさや、大円筋の広がりの差がありました。これはトレーニングでどうにかできるものではない、骨格の歪みが問題だろうと思い、去年東京へ行った時にコンディショニングの先生にいろいろ教えてもらいました。
──ボディメイク=トレーニングという狭い視野で見るのではなく、骨格などの広い視野で課題を見ることも大切なんですね。どんなことを教わったのか、気になります!
廣中 普段からウエストを細くするためにシェイパーをしているんですが、安井友梨選手みたいにどんどん細くならない。そのことを相談したら、呼吸や姿勢に問題があることを指摘されました。「背中に空気を入れられるようになって」と言われた時は、何だそれ!と思いましたね(笑)。今は、骨盤の歪みを治すための呼吸エクササイズも普段のトレーニングとセットで取り入れています。
基礎とは姿勢と柔軟性 身体の土台を作ることで応用が効かせられる
──基礎を学んで、実践して、繰り返す。このサイクルが重要ですね。
廣中 筋肉の発達や大会準備に関しては、審査員もされている木下先生にお任せしているんですが、それ以外の部分は自分でも勉強しています。筋力トレーニング、姿勢、呼吸……。ボディメイクに関わることって結構多いんですよ。自分がなりたい身体になるためは、何が必要なのか学んでおくのはとても大切なことです。
──それは独学よりも人から教わった方が早い?
廣中 早くて確実ですね。無料で情報が手に入る時代だからこそ、「何が自分に合っているのか」が分からなくなってしまいます。私自身が最初に陥りましたから。ボディメイクは自分でもチャレンジしやすいものですが、最初のうちは人から教わって正しい知識をつけておくことで、遠回りをせずになりたい身体へ近づきます。初心者の方は基礎を一番大事にしてほしいです。基礎というのは、正しい姿勢と柔軟性のこと。この要素なくしてボディメイクは成り立ちません。最初のうちは硬くても、正しい姿勢で収縮を意識したトレーニングを行うことで柔軟性も着実についてきます。地味な動きかもしれませんが、もっとも丁寧にすべきところです。身体の土台づくりがボディメイクを制す、といっても過言ではありません。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材・文:小笠拡子 撮影:中島康介(大会写真)、岡 暁(トレーニング写真)