──その当時、すでにトレーナー的な立場だったんでしたっけ?
渡辺 うーん、そうですねえ。見たくなっちゃう……病というか。頑張ってるヤツは、やっぱりね。100でやってるヤツは、100で見たくなっちゃうんですよ。
──KRESTに移行したときに、ジムの設備が出来上がる前から練習されていたと聞きました。
渡辺 そうですね、内装工事が終わる前から。
武尊 壁がなかったですよね。
渡辺 そうだった。壁がまだなくて、ビニールが垂らしてあるだけで。ミットとタイマーだけあって、あとはストーブだけ。減量中の子とか、かわいそうでしたよ。
武尊 途中から床にマットを貼ったんですけど、マットがベロベロ剥がれて、足場はメッチャ悪かったですよね(笑)。でもそれ以前は横浜まで行かないといけなかったじゃないですか。あれがつらくて。
──横浜?
渡辺 ジムが出来上がるまでは選手の練習場所がなくて、K‒1ジム横浜で練習させてもらってたんです。
武尊 僕、K‒1のトーナメントの前だったんですよ。練習は全部横浜まで行かないといけなくて、すごいキツくて。
渡辺 ああ、ボロボロだったときか。あれはキツかったよなあ。
武尊 KREST所属ということになって一発目だったから余計に負けられないし、大変でした(笑)。
渡辺 最近、設立4周年だったので過去の写真を見てたんですけど、あの環境で、みんなよくやってたなと思いますよ。
武尊 いろいろあって雅和さんが責められてる時期があって、実際のことを知らない人たちからは雅和さんが選手を引き抜いたみたいに見られてたんですよ。そうなったときに、僕は一発目がそのトーナメントだったので、そこで負けたら「やっぱり抜けたら弱くなったね」って言われるじゃないですか。指導とかは全く変わってなかったのに。雅和さんのことを下げられないから、選手みんなで「死ぬ気で勝とう」って話してました。
渡辺 俺はプレッシャーとか感じる余裕もなかったよ。あのときはジム開設のこととか選手の試合のこととか全部同時に動いてたので、マグロみたいに全く止まらず動きまくってました。ずーっと動きっぱなしで、とにかく必死でしたね。みんなに苦労かけられないし、選手は横浜に練習しに行くストレスもあるだろうし。
──選手を負けさせられないですし。
渡辺 絶対それはありましたね。
武尊 あのときに、寝る時間もないぐらいに自分のことを犠牲にして選手のことを考えてくれるというのをみんなが再認識したし、だからこそ、どれだけ変なことをしててもこの人についていこうと決めました。
2人 ハハハハハ!
──変なことをしてても(笑)。
渡辺 まあ、僕は選手に近いんで。あくまでも彼らのトレーナーなんで、「先生」って呼ばれるのは嫌いなんですよ。
武尊 新しいタイプですからね。空手の道場とかだと師匠がいて、師匠のことは絶対っていう、そういうところが多いじゃないですか。雅和さんはいい意味で対等に接してくれるというか、こっちの意見もちゃんと聞いてくれるし、違うところは言ってくれるし。だから僕はすごくやりやすいというか。
渡辺 分からないですけど、僕がやめる頃にうまくいってたら、そのやり方が合ってたんじゃないですか。
──しかもKRESTは選手の数もすごく多くて、みんなタイプが違うわけだから余計に大変ですよね。
渡辺 違いますねえ。バラバラですよ(笑)。
武尊 雅和さんは選手によって指導の仕方も変えますよね。厳しく言う選手にはけっこう厳しく言うし。自分で上げられる人と、言われないと上げられない人がいるので。
──武尊選手のタイプは?
渡辺 武尊は絶対押さえつけちゃいけないタイプですね。彼のよさが全部消えちゃうので。止めるところは止めるんですけど、その時もグイッと引っ張って止めるんじゃなくて、柔らかく止めるというか。そうでないと、武尊が持ってる気持ちの強さとかが出なくなるんですよ。自然に強いタイプなので。「ナチュラル・ボーン・クラッシャー」というキャッチフレーズは、本当によくできてると思いますよ。
武尊 ハハハハ!
渡辺 マジで全くその通りですから。もう、ガチです!
──ではトレーナーとしては、そこまで難しい選手ではない?
武尊 いや、大変だと思いますよ。
渡辺 大変ではないです。
武尊 でもややこしくないですか?
渡辺 ややこしいけど、俺は楽なんだよ。
武尊 ホントですか!?(笑)
渡辺 武尊みたいに何でも言ってくれるほうが楽なんですよ。合わせやすいから。逆に隠すタイプの選手が難しいです。
──武尊選手の場合は、今どういう状態なのかが分かりやすいということですか。
渡辺 そうですね。それを出さない子は、こっちからジャブをチョンチョンと出さないといけないんで。
武尊 でも僕、メチャクチャ面倒くさいですよ(笑)。特に試合前とか。喜怒哀楽が激しすぎて、感情がグワングワン動くんで。それにミットとかもすごく難しいと思います。雅和さんはずっとやってくれてるから慣れてますけど。初めてミットを持ってもらう人とは、合ったことがないですから。打ち方もタイミングも独特だし、スイッチが入るとスパーぐらい激しくなっちゃうし。
──先ほどミット打ちを見させていただきましたが、確かにコーナーに詰めたときの勢いはすごかったです。
武尊 あんなの、普通の人は受けられないですからね。
渡辺 でも今日のはまだマシですから。
武尊 ですよね。今日はちょっと疲れてて、抜いてたので。でも1日に1回は顔面殴ってますよね(笑)。雅和さんはヘッドスリッピングでよけてくれるからいいんですけど。
──確かに何度もやってらっしゃいましたね。
武尊 あれができない人は倒れちゃうと思います。普通の人は僕のミット持てないんですよ(笑)。
渡辺 試合前のアップとか、ヤバいんですよ。
武尊 ああ、アップはヤバいですね。意識がないから。
渡辺 倒しに来てますから。でも、それを見ると安心するんですよ。「今日は大丈夫だ」って。逆に悩みがあると、「今日はこれこれがあるから、あんまりいけないですね」みたいになっちゃう。
武尊 試合後、雅和さんの足を見たらアザだらけになってるんですよ(笑)。
──大変ですね(笑)。
渡辺 いや僕、そういうのは大変と思わないんですよ。
武尊 そういうところが本当にありがたいです。
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