魚料理の体脂肪燃焼と筋肥大効果がすごい
生まれ育った環境にもよるが、泳いでいる魚を見て「うまそう!」と真っ先に感じる人などそう多くはいないだろう。実際、魚料理が苦手だという人は少なくない。その理由は、魚の臭いだったり、閉じることのない目だったり、奇妙な形が異様に思えてならないということではないだろうか。しかし、食材としての海の生物は健康と身体づくりに大変役立つ。筋肉を発達させたいアスリートなら、毎日のタンパク質摂取は習慣になっているはずなので、魚もメニューに加えることで、バリエーションに富んだ食事を続けることができる。というのも、魚はタンパク質の含有量が多く、例えばアトランティック・サーモン180g中には40g以上のタンパク質が含まれているのである。魚を食べるメリットはタンパク質の多さだけではない。魚の脂は魚油と呼ばれ、いわゆるオメガ3脂肪酸である。オメガ脂肪酸に関する研究は今も続けられていて、現段階でわかっているだけでも無数の健康要素が見つかっている。
文:Jenny Westerkamp, RD, CSSD 翻訳:ゴンズプロダクション
<本記事の内容>
心臓への作用
脳への影響
水銀が心配?
体脂肪の燃焼にも
競技能力への作用
オメガ6とオメガ3の比率
魚料理の利用法
サプリメントを利用するなら

心臓への作用
心臓の機能を正常に保ち続けることは、アスリートのみならずすべての人にとって重要なことだ。オメガ3は心臓の健康を維持する作用を持っていて、それだけでも摂取する価値がある。
オメガ3は多不飽和脂肪酸で、特にサーモン、イワシ、ニシンなどの魚に多く含有されている。オメガ3は血流を改善し、血管内に血塊が生成されるのを抑制し、血圧や不整脈の改善、中性脂肪の減少に働きかけることが知られている。
『ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション』誌に発表されたハーバード大学での実験によると、被験者に週1、2回の魚料理を食べてもらったところ、心臓病が死因となるリスクが36%減少し、それ以外の原因による死亡率も17%低くなったという結果を得たそうだ。
この実験を指揮したダリウース・モザファリアン博士によると、オメガ3の働きは人間を被験者にした実験で数多く示されているとのことだ。博士によれば「オメガ3の作用は様々あり、いずれも循環器系の健康維持に役立つことばかり」なのだそうだ。
魚に含まれるオメガ3は主に2種類に分けられる。ひとつがEPA(エイコサペンタエン酸)で、もうひとつがDHA(ドコサヘキサエン酸)だ。ハーバード大学のモザッファリアン博士によると、いずれも細胞膜を通過することができるので、魚料理をよく食べる人は細胞中に含まれるEPAとDHAのレベルが高い傾向が見られるらしい。
読者の中には、まだ心臓の健康を気にするような年齢ではないという若い人も多いだろう。しかし、若い頃からのケアが重要なのだ。特に心臓の病気は年を取ってから起きるものではなく若い頃から進行していくものなのだと、ジョージア州立大学の栄養&身体機能学の専門家であるダン・ベナード博士は警告している。
実際、昨年の11月に全米心臓協会が発表した研究内容には、子供でも心臓病の危険因子が見つかるケースがあると述べられている。たとえば動脈血管中に血塊が形成される予兆が見られることもあるようなので、心臓病の予防は若いうちから意識して対策をしておくことが大切であると言える。
脳への影響

魚料理がもたらすプラスの作用は心臓だけではない。継続して行われている実験や研究から、脳への働きも次々と発見されているのだ。たとえばオメガ3は気落ち、怒り、その他様々な精神疾患の緩和に役立つという研究結果が得られているのだ。
精神状態が改善されることで、トレーニング意欲を取り戻すことはもちろん、キャリアの積み上げなどに対しても意欲的に挑戦するエネルギーをもたらすことになるのである。
水銀が心配?
魚に含まれる水銀を恐れて魚料理には手が出せないという人もいるようだ。確かにそうだ。実際、水銀のレベルは魚のサイズ、年齢、捕食歴などによって影響を受け、長生きしてきた魚やたくさんの小魚を食べてきたサイズの大きい魚には水銀が蓄積されているものである。例えばサメ、カジキ、アマダイ、大型の鯖などは大きいため、水銀のレベルも多いはずだ。一方で、小型のマグロなどはそれらに比べると水銀のレベルは低い。魚に含まれる水銀については多くの意見があるが、魚を食べることで心臓や循環器系に得られる健康作用と、水銀がもたらす有毒性を比較した場合、やはり前者の健康作用に目を向けるべきだということが様々な研究から示されてきた。水銀を恐れて魚を食べないほうがよほど不健康であるというのがモザファリアン博士の見解である。
統計によると、魚を食べることで得られる心臓の健康と、PCBやダイオキシンによるガン発症のリスクを比較すると、養殖サーモンの場合なら100~370倍も前者のほうが高いことが示されている。これが天然のサーモンになると300~1000倍にまで跳ね上がるのだそうだ。それでも気になるなら、週に5食の魚料理を食べる人は水銀が多いと言われる種類の魚を少なめにしてメニューを組むといいだろう。自分で釣りをした魚を食べるという人は、釣った場所の水銀やその他の汚染物質の検査結果を確認するようにするといい。特に妊娠中、授乳中の女性の場合は、魚料理は週に360g以内にし、前述した大型の魚は敬遠したほうがいいだろう。
体脂肪の燃焼にも
ストレングス&コンディショニングの専門家であるブラッド・ショーンフェルド氏によると、オメガ3は体脂肪の燃焼を助ける働きを持っているということだ。EPAやDHAは細胞膜を通過することができることはすでに述べたが、細胞膜の内外をオメガ3が頻繁に行き来することで細胞膜の流動性が高まり、それによって細胞の代謝活動が活発になる。細胞の代謝が活発になるということは、脂肪燃焼のために働く酵素の活動が盛んに行われ、脂肪を貯蔵しようとする機能が抑制されるのだ。
ショーンフェルド氏によると、限度はあるが、オメガ3は身体の代謝を早めることができるということだ。また、逆にオメガ3が不足した食事を続けていると、体脂肪燃焼の効率性は低下するとも述べている。
では具体的にどれだけのオメガ3を摂れば体脂肪の燃焼が促されるのか。現時点では、この問いに対する答えは得られていないが、オメガ3についての研究は現在もなお世界各地で行われているので、いずれは答えが得られることを期待したいと思う。
競技能力への作用

魚油やオメガ3のサプリメントはアスリートにも人気がある。摂取する理由は健康のためもあるが、実は競技能力への効果を信じて摂っているという人も多いようだ。果たして本当に魚油やオメガ3は競技能力にプラスの働きをもたらすのだろうか。
2006年にインディアナ大学が行った実験によると、3週間にわたり被験者に魚油のサプリメントを摂取してもらったところ、運動が引き金となって発症するぜんそく発作に改善が見られるという結果が得られた。しかし、魚油が競技能力を高めるかどうかを決定づけるような実験結果は得られていないというのが現状だ。確かに血管の健康が整い、筋肉への血流量が増加するので、魚油によって競技能力が向上したり筋量増加が得られるのではないかという推測はできる。しかし、それを立証する実験結果はまだないのである。
ハーバード大学の研究者であるモザファリアン博士は、魚油と競技能力の向上には関連性がないと断言すべきではないと主張している。その理由について彼は次のように述べている。つまり、運動を行うと血流量が増大し、酸素が溶け込んだ血液が大量に対象筋に送り込まれるわけだが、このとき血管は拡張していなければならない。血管の拡張を促すのはオメガ3の働きのひとつである。したがって、酸素濃度の高い血液が対象筋に送り込まれることが筋発達を促したり、瞬発力を高めたり、速く走ったりすることになるのだとしたら、魚油やオメガ3は、やはり競技能力を高める働きを促すと言っても間違いではないと考えられるのだ。
オメガ6とオメガ3の比率
オメガ6は、もうひとつの多不飽和脂肪酸であり、コーン油、ひまわり油、ピーナッツ油、大豆油などに多く含まれている。私たちが日頃から食べている食事にはこれらの油を使った料理が多く、オメガ6は意識しなくても体内に十分に取り込まれている。オメガ6とオメガ3は、摂取する比率が20~30対1になるように食事内容を構成するのが理想だ。オメガ6はオメガ3よりも健康要素は少なく、人を被験者にした実験もオメガ3より少ないので、現段階では2つのオメガオイルを理想的なバランスで摂るということを念頭に置いておくといいだろう。
魚料理の利用法

循環器系の健康のために魚料理をメニューに取り入れるなら、一週間に2gのEPA&DHAを摂取するのを習慣にしよう。具体的に2gのEPA&DHAというのは、毎週1、2回程度の食事を180gのシーフード料理にし、そのうちの少なくとも1回は脂の乗った魚を組み合わせるようにすることだ。
中にはシーフードが苦手だという人もいるだろうが、その場合は乳製品やシリアルで「EPA&DHA配合」というものもあるので利用するといいだろう。
サプリメントを利用するなら
もちろん、手っ取り早く魚油のサプリメントを利用するのもいいだろう。ただ、魚をしっかり食べれば、オメガ3だけでなくタンパク質や微量ミネラルであるセレニウムなども摂取できるというメリットがある。また、まれに魚油のサプリメントが体質に合わず下痢をするケースもあるようだ。
さらに付け加えておくと、魚油のサプリメントはどれだけ摂取しても副作用みたいなものはないと思っている人も多いだろうが、過剰摂取はまれに出血をもたらす場合があるようだ。サプリメントを利用する場合はラベルをよく読んで、推奨量の範囲内で摂るようにしよう。一般的には一日0.25gで、EPAとDHAの両方が入っている商品を選択するといいだろう。
植物性のものしか受けつけない人ならフラクシード、キャノーラオイル、クルミなどにはαリノレン酸の短鎖オメガ3脂肪酸が含まれているので利用してみてはいかがだろうか。αリノレン酸は体内に入ると長鎖EPAとDHAにまで分解され、ここからは魚油を摂取した場合と同じだ。ただし、αリノレン酸がEPAとDHAにまで分解される過程は決して効率がいいわけではないので、植物性のオメガ3脂肪酸のみに頼らず、できれば魚由来のサプリメントを摂取することを勧めたい。
魚由来のオメガ3の場合、養殖のサーモンには天然ものよりもオメガ3が高含有されていることが知られている。その理由は、養殖の魚は定期的に十分な餌にありつくことができるので脂が乗りやすいからだ。
逆に、天然もののサーモンは鉄分が多い。天然もののサーモンは天敵から逃れるためにたくさん泳ぐ必要があるため、養殖よりも鉄分が多く含有されている。天然ものの身が赤いのは鉄分を多く含むためである。
シーフード料理を定期的に食べるなら、養殖ものにこだわらず、天然ものもときには食べるようにするといい。バリエーションが多いほうが長続きするし、より多くの栄養素を身体に取り込むことができる。このことはモザファリアン博士も勧めていることなので、様々な種類の魚を食べてシーフード料理を楽しもう。
ファーストフードの魚料理
外食をする場合、特にファーストフード店に行く場合は魚の揚げものはできるだけ食べないようにしたほうがいい。揚げものは魚に限らずカロリーが高く、しかも店によっては古い油で調理されていることも多いからだ。その場合、不健康なトランス脂肪や飽和脂肪を取り込んでしまうことになるので注意しよう。










