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今さら聞けない「スクワット」の素朴なお悩みをバズーカ岡田が解決!

スクワットのスタンス、バーの担ぎ方などは人によって千差万別。ある人にとっては正解なフォームが、別のある人にとっては不正解であるケースも少なくはない。では、一般的な視点から推奨されるフォームや練習方法はいかなるものなのか。日本体育大学教授の岡田隆先生に解説していただいた。(IRONMAN2017年3月号から引用)

取材:藤本かずまさ 写真:北岡一浩 岡部みつる IM 編集部

Q:胸は張ったほうがいい?

A:胸を張る人、張らない人、両方いますが、どちらのフォームがいいのか、という問いに明確な回答はありません。まずは胸を張った際にどういうリスクがあるかを考えてみます。胸を張る、つまり胸椎が伸展すると、それに誘導されて脊柱全体が伸展し、腰を反らせることになります。強く反らせると、脊柱の棘突起どうしがぶつかってインピンジメントを起こしてしまい、腰痛が起こる可能性があります。
腰を反らせると、腰の後ろが詰まるような感じがすると思います。一時期、身体測定で行う上体反らしがよくないと言われたのはそのためです。
一般的なトレーニングの教科書に載っている「胸を張って担ぐ」という解説通りに行った女性や初心者のトレーニーは腰を痛める人が多いです。
トレーナーやスポーツ指導者などは、「腰を丸めると椎間板ヘルニアになる」と教わります。知識の浅いトレーナーがパワーリフターのスクワットの動作を見たら「腰を痛めてしまうフォーム」と判断してしまうかもしれません。
パワーリフターのスクワットのフォームは、胸椎のみを丸めています。腰は丸めていないのですが、知識の浅い人の目には丸めているように映ります。だから「危ないので反らせましょう」という指導になってしまうということはあると思います。
スクワットを行うと腰の後ろが詰まった感じがして痛いという人はフォームを見直してみましょう。

Q:担ぎはローバーとハイバーどちらがいい?

A:どちらがいいというわけではなく、目的や自分の体の特性に応じて担ぐ位置を選べばいいと思います。肩関節の柔軟性に乏しい人は、ローバーで担ぐのはつらいはずです。
また、ローバーで担いだ状態で上体を立てるとバーが落ちてしまうので、前傾するしかありません。すると股関節の動きが大きくなります。
スクワットの動作では足首、膝関節、股関節が動きます。多くの人がスクワットで鍛えたいと思う部位は太腿、股関節、お尻周りの筋肉です。フォームと効かせたい部位の関係については、膝と股関節の動きに注目すると理解しやすいです。
ローバーで担ぐとお尻を引かざるをえないので、股関節が動き、お尻周りの筋肉に効きやすくなります。
ハイバーで担いで前傾すると、前に倒れてしまいます。上体を立てて膝を曲げないとしゃがめません。すると膝関節主導の動作になるため、大腿四頭筋に効きやすくなります。スクワットを行う目的は何なのか。そこを明確にしなければ、正しい答えは導き出せないと思います。

Q:どのくらいまでしゃがめばいいのですか?

A:パワーリフィティングでのボトム、もしくはその少し手前のパラレルくらいまではしゃがんでいただきたいですね。その可動域が取れないようであればフォームを探求したほうがいいでしょう。ただ、深くしゃがんだ際のリスクも理解しておく必要はあります。
フルスクワットでうまくしゃがめないという人は、足首の前側、膝の前側を痛めてしまう可能性があります。最初から無理に深くしゃがみ込む必要はないと思います。
その種目を行うことで動く筋肉が鍛えられる。これがトレーニングの基本的な原則になります。膝を曲げれば大腿四頭筋、股関節を曲げればお尻周りの筋肉やハムストリングスが鍛えられます。
膝を最大限に曲げるにはフルでしゃがみ込むしかありません。太腿を鍛えたければフルボトムで行うべきですが、足首、膝を痛める危険性があるため、いきなりはおすすめできません。
股関節は、ローバーで担いでお尻を思いきり引きながらしゃがめば、膝や足首に大きな負担をかけることなく股関節を最大限に屈曲させることはできます。ハイバーで担ぐかローバーで担ぐかによっても、しゃがむ深さは変化するのです。
なかにはどうしても深くしゃがめないという方もいますが、人間の体はちゃんとしゃがめる構造になっています。身体機能が落ちているわけでもないのにしゃがめないという人は、「しゃがめない立ち方」をしているのだと思います。少しスタンスを変えるだけも立ちやすさ、しゃがみやすさは変わってきます。工夫をしながら、スムーズにしゃがめるスタンスを探してみてください。
効果と安全性を考えれば、まずはパラレルまではしゃがんでください。ちなみに私は完全なフルボトムでやっています。

Q:重量と回数、どちらを重要視したらいいですか?

A:自分のプライオリティーをどこに置くかということだと思います。高重量を上げたいのか、脚のサイズを大きくしたいのか、それとも体のスタイルを変えたいのか。あえて立ちにくいスクワットをやることで、重量は扱えなくても体のスタイルを変えるには有効なこともあります。まずは自分の目的をはっきりさせることです。重量を追い求めていくだけでは、トレーニングの楽しさも半減してしまうと思います。
研究者の世界では、どうしても1RMの重量に注目しがちです。ベンチプレスで60㎏しか上げられなかった人が2人いたとします。1人はトレーニングを行うことで80㎏まで上げられるようになった。もう1人は75㎏しか上げられなかった。そうやって1RMの向上率で比較することが多いのです。
ですが、マックス80㎏の人は1RMの80%の重量が6発しか上げられなかったのに対し、マックス75㎏の人は8発上げられたとします。そういった場合は、どのように評価するのか。
実際には最大筋力だけでは評価しきれない部分があるのです。また、トレーニングで重量だけにこだわりすぎると、壁を感じやすくなってしまいます。それではトレーニングの幅が狭くなってしまいますから。

Q:膝を内側に絞ったり、前に出る立ち方はNGですか?

A:スクワットには「膝を前に出してはいけない」「内側に絞ってはいけない」という2つの神話があります。確かにトレーナーの指導用テキストにも、そう書かれているものは多いです。 確かに膝を前に出すと、膝蓋骨が大腿骨に強く押されてしまいます。また内側に絞ると、内側側副靭帯が伸び、痛めてしまうリスクがあります。
ただ実際は、膝を内側に絞って上げるパワーリフターが好成績を収めることがあります。そもそも膝を絞ってケガをした、という人を私は見たことありません(笑)。膝を前に出すフォームでスクワットを行っているのにまったくケガをしない人もいます。膝を内側に絞るスクワットは危ないと言われてはいますが、これには二つのロジックが抜けています。膝を内側に絞るスクワットを行うと、体がその動作を覚えてしまい、その他の競技中に膝を痛めてしまうということなのです。スクワットそのものでケガをするということではないのです。
アスリートを指導しているトレーナーの目的は、筋力を強くすることはもちろん、競技の中でケガをしない体を作ることがメインになります。すると、トレーニングで選手に変な動作のクセをつけさせるわけにはいきません。スクワットという低速度の動作で膝を内側に絞れば、それがクセになって競技中でもその動作が出てしまうという発想なんです。だから「膝を内側に絞るスクワット」イコール‟悪”という結論に達してしまうのです。
そこには「スクワットで重たいものを担ぐ」という目的はありません。しかし、より重たいものを持ち上げるパワーリフティングでは、膝を内側に絞ることも一つの手段になります。
もちろん、それが優れたフォームだとは言えません。膝を内側に絞るということは、内側靭帯のテンションを借りて立ち上がるということです。
また、それほど重たい重量ではないのに膝を内側に絞らないと立てない場合は、立つために必要な筋肉の中に鍛え漏れている部分があるということかもしれません。できない動きがある。それは動作の中で使えていない筋肉があるということです。

Q:ベルトは使ったほうがいいのですか?

A:それほど重たい重量を扱わないときは、使用しなくてもいいと思います。自分で腹圧をコントロールする技術は、いかなる種目においても重要になってきます。ベルトを使わずに、自らの腹圧だけで上げる練習をするのはとてもいいことだと思います。
ただ、初心者のうちは腹圧の使い方がなかなかつかめないものです。脊柱起立筋で体幹を安定させようとするので、上体を反らしがちになります。インピンジメントを避ける意味でも、初心者のうちはベルトを使用したほうがいいかもしれません。
また、研究データが存在するわけではないですが、ベルトを締めてトレーニングを続けたらウエストが細くなったという声はよく聞きます。ベルトとウエストの太さにはなんらかの因果関係があるのかもしれません。

Q:カカトが高いシューズは有効なのですか?

A:足首の柔軟性には個人差があります。足首の可動域が制限されていて深くしゃがめないという人も多いです。そうした場合、カカトを上げれば足首が固い人でも深くしゃがめるようにはなります。
しかし、最初からカカトが高いシューズに頼らないほうがいいとは思います。しゃがみ方、立ち方、足幅、バーベルの担ぎ方などによって、しゃがみやすさは変わってきます。まずは自分で自然にしゃがめるフォームを探してみることが大事です。
「カカトの高いシューズがいいから」という理由だけで飛びついてしまうのは、思考が停止してしまっている証拠です。思考が停止したら、肉体の成長も停止します。探求して、自分で答えを見つけ出すことが大切なのです。
教えられたとおりのトレーニング、教科書通りのトレーニングの枠にとどまって、肉体の成長が止まってしまっている人もいるかもしれません。本来、人の体は裸足でもしゃがめるように設計されているはずです。自分の体の感覚は、自分で感じ取れるはずです。そういった自分の体の声に耳を傾けながら探求していくことで、新しいトレーニングの楽しさに出会えると思います。

Q:最適なトレーニング頻度はどのくらいですか?

A:私の個人的な見解ですが、週に2回くらいはやってもいいと思います。追い込むテクニックがうまくなってくると、脚のトレーニングを週に2回もできなくなってくるので、そういった場合は「週に1.5回」という考え方をします。回復力も個人差がありますので、「効果的な頻度」というものは人によって変わってきます。
ただ、弱い部位に関しては、高頻度でやるべきだと思います。弱い部位がある期間を長く過ごすよりも、短期間で弱点部位を克服して、あとは維持にまわったほうがいいという考えです。
当然、弱点部位の克服に時間を割く時期は他の練習の質は落ちてしまいます。そこはそこで理解して、なるべく早い段階で弱点を埋めることは決して悪い選択ではありません。自分の課題をしっかりと認識し、それまでの自分の方法論を壊してみるのもトレーニングにおいては有効な手立てです。
私は入学してきたばかりの大学生にはスクワット、デッドリフト、ベンチプレス、ベントオーバーロウイング、懸垂もしくはラットプルダウン、バックプレスなどの基本種目をよくやらせます。1日に1回はビッグ3のどれかをやって、その中で弱い種目は練習頻度を高めましょうという指導をします。
まだ若いということもあって、それらのメニューはこなせています。多いときで、同じ種目を週に4回やることもあります。


岡田 隆(おかだ・たかし)
1980年1月6日生まれ、愛知県出身。日本体育大学体育学部教授。日本体育大学体育学部卒業、日本体育大学大学院体育科学研究科修了(体育科学修士)、東京大学大学院総合文化研究科単位取得満期退学。ボディビルダーとして活動しつつトレーニングを指導。自身がプロデュースするジム「STUDIO BAZOOKA」、ボディケアスタジオ「ACTIVE RESET」を運営。


執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。

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