トレーニング

バルクアップのためのトレーニングで意識したいポイントは?(基礎知識編)

バルクアップトレーニング最近では、さまざまなメディアでトレーニングに関する情報が手に入るようになりました。初心者を対象にしたものだけでなく、トップ選手が自らのYouTube等で発信しているものまで幅広く存在します。ここで注意したいのは、バルクアップを成功させるためには、まずは基本の部分を押さえる必要がある点です。基本の考え方やテクニックが身につかないうちに応用に手を出しても、なかなか満足のいく効果が得られないこともあるでしょう。

今回はバルクアップのためのトレーニングの考え方について、基本的な部分にスポットを当てて紹介します。初級者の方も上級者の方も、今一度基本に目を向ける機会にしていただければ幸いです。

目次)
基本的なトレーニングの考えについて
 トレーニングの3原理
 トレーニングの5原則
重量やレップ数によるトレーニング効果の違い
 高重量低回数トレーニングの特徴
 中重量低回数トレーニングの特徴
 低重量高回数トレーニングの特徴
まとめ
引用

基本的なトレーニングの考え方について

トレーニングには3つの原理と5つの原則が存在します。原理や原則という言葉は、ほぼ全ての人に当てはまることが想定される場合に用いられる言葉です。すなわち、効果的なトレーニングを組み立てるためには、原理と原則を無視することは難しいということになります。今回は3つの原理と5つの原則について、厚生労働省が提供している「運動プログラム作成のための原理原則」を参考にしつつ解説をします(1)。

トレーニングの3原理

>>過負荷の原理

バルクアップトレーニング過負荷の原理は、身体にある程度の負担がかかる強度で運動を行わないと効果が得られないということを意味します。トレーニングで筋肉が増えるのは、強い負荷というストレスに身体が適応するためだと言い換えることができます。つまり、自分の身体の状態に対して負荷が足りていない場合は、満足できるほどバルクアップできない可能性があると言えます。筋力トレーニングにおいては、使用重量・レップ数・セット数・インターバル・フォームなどが、負荷に関わる要素になります。

>>可逆性の原理

「可逆」とは、逆の方向に進むことがあるという意味です。つまり、頑張ってトレーニングをしてバルクアップをしても、トレーニングを休止すればだんだんと元の身体に戻ってしまうということです。生物の身体は、外部からの刺激に適応するように変わっていきます。トレーニングで強い負荷がかかれば、それに対応するために筋肉が増えますが、トレーニングの環境から遠ざかってしまえば、不要となった筋肉は減っていく方向に身体は進みます。バルクアップを目指す場合は、短期的な視野ではなく、長く続けることを頭に入れておくと良いでしょう。

>>特異性の原理

トレーニングを行った部位の機能が向上することを指すのが特異性の原理です。例えば、脚のトレーニングとしてスクワットを繰り返し行えば、スクワットの使用重量が伸びたり脚の筋肉量が増えたりといった効果が得られるはずです。しかし基本的には、スクワットをして胸が厚くなったり腕が太くなったりということはないです。例外として、フリーウエイトを使ったストラクチュアルエクササイズ(スクワット・デッドリフト・ベントオーバーロウ)などでは、骨盤を安定させて力発揮のしやすい姿勢を作るなどの、他の種目に応用の効く技術が習得できるということはあります。特異性の原理はトレーニング以外のスポーツにも同じことが言えます。短距離走のフォーム練習だけでは、長距離走のフォームの改善は見込めないでしょう。バルクアップにおいては、特定の部位や種目に特化したメニューを組むのではなく、全身に刺激が入るような考え方をして、バランス良く身体を作る必要があります。

トレーニングの5原則

>>漸進性の原則
バルクアップトレーニング
トレーニングの効果を常に得るためには、負荷の量を少しずつ高めていかないといけません。より強いストレスがかかれば、身体はそれに適応するために筋肉を増やす方向に進みます。前回よりも重量や回数を少しでも伸ばすことを常に意識してトレーニングすると良いです。そのためには、トレーニングノートやスマホのメモ機能を活用して、毎回のトレーニング履歴を残しておくことがおすすめです。

>>全面性の原則
全面性の原則は、どこか一つの要素だけを鍛えるのではなく、全体に目を向けようという原則です。大きな括りで言えば、有酸素性能力(有酸素運動)・筋力(筋力トレーニング)・柔軟性(ストレッチ)などになります。バルクアップに特に着目するのであれば、やはり全身をバランス良く鍛えることが全面性の原則に沿った考え方だと言えます。競技の特性上、特定の筋肉のみ発達させたいなどの事情がある方は別ですが、そうでないのならば、全身を満遍なくトレーニングすることがおすすめです。フィットネス競技への出場を考えてバルクアップをするならば、やはり全身をバランス良く鍛えるという考え方は外せないはずです。

>>意識性の原則

与えられたプログラムを漫然とこなすような練習では効果が出にくいことはトレーニングにも当てはまります。トレーニングの目的を正しく理解し、その達成のために意識して取り組むことが大切です。バルクアップのためならば、より刺激が入るフォームを練習したり、毎回重量アップを意識したりすることが一つの例になります。

>>個別性の原則

バルクアップトレーニング個人によって適したトレーニング内容は異なることを示したのが個別性の原則です。有名なボディビルダーに憧れを持つことは、モチベーションを高めるという意味ではとても良いことです。しかしながら、初心者がいきなりその選手のトレーニングメニューや食事を真似するのは無謀です。特に現代では、さまざまな人が各々の意見をSNS等で公開していますので、自分に合った情報とそうでない情報を取捨選択することも求められます。我流でバルクアップの効果が得られない場合は、パーソナルトレーナーなどによる客観的な立場からの意見をもらうのも良いかもしれません。

>>反復性の原則

トレーニングに限らず、何かの技術を身につけるためには繰り返し練習することが大事です。バルクアップの場合は、筋肉に何度も負荷を与えることで、継続的な発達が見込めることが反復性の原則に当てはまります。また、試行錯誤しながらトレーニングフォームの練習をすることで、より狙った筋肉に負荷を与えたり、効率良く力を発揮できたりするようになります。1週間に1回のトレーニングよりも2回の方が効果が高いというデータは、このような2つの理由からも説明できると思われます(2)。

重量やレップ数によるトレーニング効果の違い

バルクアップという目的を達成するためには、筋肉を効率良く大きくする方法を選ばないといけません。選択する重量や挙上回数によって得られる効果が変わるため、自身の目的と照らし合わせながらメニューを構築できると良いでしょう。なお、ここでもやはり個別性の原理により、一般論から外れたメニューに強く反応する場合もあることには注意してください。まずは基本を試してみて、合わなければ自分流に変えていくという流れが良いでしょう。

高重量低回数トレーニングの特徴

バルクアップトレーニング高強度低回数トレーニングは、1RMの90%程度の重量を扱うのが特徴です。回数としては3回前後が基本で、筋力の向上に特に効果があります。3回から5回行える重量でトレーニングしたところ、9回から11回や20回から28回でトレーニングした場合よりも大きな筋力の増加が見られたとされています(3)。筋肥大が全く起こらないという訳ではないですが、全体として見た時のトレーニングのボリュームは小さくなるため、次に紹介する中重量中回数トレーニングよりは肥大の程度は小さくなりがちです。体重制限のある競技に参加するアスリートが、瞬発力向上のためにこのタイプのトレーニングを取り入れることが多いです。バルクアップを目指す場合にはあまり適さないタイプのトレーニングと言えます。

中重量中回数トレーニングの特徴

中重量中回数のトレーニングは、フィットネス競技を行う選手の多くが採用しているトレーニング法で、バルクアップ(筋肥大)には最も効率が高いとされます。中重量中回数トレーニングでは、8回から10回程度行えるウエイトを扱うのが一般的です。この重量は、1RMの80%程度に相当します。”American College of Sports Medicine” 誌は、トレーニング初心者は1RMの70%から85%の強度で8回から12回、上級者は状況に応じて、1RMの70%から100%の強度で1回から12回のトレーニングをすることを推奨しています(4)。上級者は自分に合った正しいフォームが身に付けられているため、重量や回数にバリエーションを持たせても筋肥大できる可能性があります。一方の初心者は、筋肥大を狙うのであれば、まずは基本に忠実に8回から10回できる重さを目指してトレーニングすると良いでしょう。回数が多めなので、正しいフォームを反復して覚えやすいのも初心者にとっては良い点です。

低重量高回数トレーニングの特徴

バルクアップトレーニング低重量高回数のトレーニングは、他のトレーニングと比べると厳密に回数が決まっていないです。このトレーニングの目的は筋持久力の向上で、それほど強い負荷がかからない状況で、長い時間筋肉が働けるようにすることを狙います。自重の腕立て伏せ30回や、1RMの60%程度のスクワット20回などが一例です。筋持久力を高めることが目的のトレーニングなので、筋肥大の効果はそれほど大きくありません。そのため、バルクアップとはあまり相性は良くないです。しかしながら、筋持久力が上がることで、中重量中回数トレーニングで完了できる回数が増える可能性もあるため、まるっきり筋肥大に効果がないとも言い切れないでしょう。また、低強度のトレーニングでも、完全にオールアウトするところまで行えば筋肥大の効果が得られるとする報告もあります(5)。

まとめ

バルクアップのためのトレーニング基礎知識を今回は紹介しました。細かいテクニックや流行りのトレーニング法に目を向ける前に、まずは基本となる原理・原則を押さえることが大事です。これらが身についてから、自分に合った新しいプログラムを模索するようにすると、うまくバルクアップしていくことができるでしょう。

 

執筆者:舟橋位於(ふなはし・いお)

1990年7月7日生まれ
東京大学理学部卒(学士・理学)
東京大学大学院総合文化研究科卒(修士・学術)
NSCA認定パーソナルトレーナー
調理師

東京大学在学中に石井直方教授(当時)の授業に感銘を受け、大学院は石井研究室で学ぶ。団体職員等を経て、現在は執筆業務および教育関連事業にて活動中。得意な執筆ジャンルは、運動・栄養・受験学習。

引用

(1) 厚生労働省|運動プログラム作成のための原理原則 -安全で効果的な運動を行うために

(2)Schoenfeld BJ, Ogborn D, Krieger JW. Effects of Resistance Training Frequency on Measures of Muscle Hypertrophy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2016 Nov;46(11):1689-1697.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27102172/

(3)American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19204579/

(4)American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19204579/

(5) Terada K, Kikuchi N, Burt D, Voisin S, Nakazato K. Low-Load Resistance Training to Volitional Failure Induces Muscle Hypertrophy Similar to Volume-Matched, Velocity Fatigue. J Strength Cond Res. 2022 Jun 1;36(6):1576-1581.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35622108/

 


-トレーニング
-