5月31日、神奈川・カルッツかわさきにて開催された、ゴールドジム主催のスペシャルフィットネスイベント『還暦スター誕生』。1970〜80年代に一世を風靡した伝説のオーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ)を彷彿とさせるこのイベントには、60歳から96歳までの参加者たちが集結。鍛え抜かれた肉体やダンス、歌唱パフォーマンスで観客を沸かせた。
そのなかで、歌い出した瞬間に会場の空気を変えたのが、「歌の部門」に出場したステージネーム「ワイルド」こと大西政一(おおにし・まさかず/62)さんだ。
最初に披露したのは矢沢永吉の名バラード『アイ・ラヴ・ユー、OK』。情感あふれる歌声と華麗なマイクスタンドさばきで、一気に矢沢ワールドに引き込んだ。続く『あんたのバラード』(世良公則&ツイスト)では、底知れぬ声量で観客を圧倒。まさにロック魂が宿ったパフォーマンスだった。
「矢沢永吉さんが大好きで、10年以上前からコピーバンドで歌っています。初めて永ちゃんの歌声を聞いたとき、あんなハイトーンは聞いたことがなくて衝撃でした。でも、どうしても自分には出せない。それが悔しくてボイストレーニングにも通い、ハイトーンの出し方を自分なりに研究しました」
本業は編集者。釣り専門誌の編集長や社長代行などを経て、現在はフリーで編集業に携わるかたわら、ボーカル指導も行っている。だが、大西さんの“本業”は、それだけでは語りきれない。
探求心旺盛な大西さんは、歌以外にも心揺さぶられるものに逆らわず、その道に分け入り、究めてきた。青春時代は極真空手に打ち込み、名だたる強者たちとしのぎを削った。ダンスに魅せられた時期には、後に有名グループとなるメンバーたちと日夜ステップを磨いた。そして、昆虫採集にのめり込んで40年以上。いつしか「オオクワガタ採集家」として知られる存在となり、さらに山で水晶を採るようになると、それが話題となって全国から問い合わせが殺到するほどに。
多趣味であり、その一つひとつを深めるあまり、すべてが趣味の域を超えてしまっている。
「好きだから夢中になれる。とことん探求したくなる。好きが一番。そしてそれが周りをハッピーにできたらベスト。60年生きてきて、それがたどり着いた答えです」
現在は、自作の歌詞にAIで曲をつけ、自身の歌声で英語のオリジナル楽曲を世界配信するという構想を進行中だという。「楽しい作業だから夢中になって、毎日すぐ朝になってしまうんだよね」。
その生き方から自然と思い出されるのは、サムエル・ウルマンの詩『青春』の一節だ。
「青春とは人生のある時期ではなく 心の持ち方をいう/青春とは人生の深い泉の新鮮さをいう」
大西さんの、こんこんと湧き出す“好き”の泉は、この先もきっと涸れることはないだろう。
取材・文:藤村幸代 撮影:中島康介