背中の基本種目をトップ選手はどう考え実践しているのか?ここでは切れ味鋭いバックポーズが持ち味の藤井貫太朗選手に、やり込んでいるデッドリフトの効果や狙いを詳しく聞いた。
文:柳瀬康宏 トレーニング写真:岡 暁 Web構成:中村聡美

なぜデッドリフトをやるのか
僕がデッドリフトをやり始めたのは、2018年ごろだったと思います。きっかけはとてもシンプルで、周りの選手がみんなやっていたからです。ビッグ3のひとつですし、「とりあえずやっておいた方が良い種目なんだろうな」という感覚で、とにかく重量を持つことを意識してやっていました。ですが、トレーニングを続けていく中で、自分の身体の使い方やフォームを見直すようになり、2022年ごろからデッドリフトに対する考え方が大きく変わりました。今の僕にとってデッドリフトは、特定の筋肉を狙う種目というより、『身体の土台を作る種目』という位置づけです。その結果として、他のトレーニングの質を高めるために行っています。
ボディビルのトレーニングでは、どうしても特定の筋肉に意識が向きがちですが、どんな種目でも土台となる体幹が安定していなければ強い刺激は入れられません。デッドリフトは、その土台を作る役割を担っている種目です。
デッドリフトの狙い・効果
デッドリフトで僕が一番重視しているのは、体幹の安定性です。コアがしっかり働くことで身体の軸が安定し、他の種目でもブレの少ないフォームでトレーニングができるようになります。例えばラットプルダウンやロウイング系の種目でも、体幹が安定しているかどうかで背中への刺激の入り方は大きく変わります。
もちろん、筋肉への直接的な効果もあります。特に感じるのは脊柱起立筋の厚み。バックポーズをとったときの背中の迫力は、デッドリフトの影響が大きいと感じています。
さらに、お尻やハムストリングにも強い刺激が入るので、ヒップラインやもも裏のハード感にもつながります。デッドリフトの動作は股関節の伸展、いわゆるヒップヒンジの動きが中心になります。この動作を高い強度で行うことで、下半身の後面の発達にも貢献していると思います。
- 「重心を常に真ん中に」ということだけを強く意識し、後は「握って、引くだけ」とシンプルに落とし込んでいる。昨年の日本ボディビル界を騒がせた藤井選手のバックポーズはこの種目の貢献が大きい(2024年撮影)
グリップや 手幅、足幅とその意図
グリップはオーバーグリップで握り、足幅は腰幅、手幅は肩幅程度にしています。いわゆる基本的なスタンスですが、これには理由があります。
まず手幅についてですが、広く握りすぎると前から見たときに肩のラインと手の位置がズレてしまいます。そうなると腕の位置が身体の真下から外れてしまい、上腕への負担が大きくなります。肩幅程度で握ることで、腕が自然に真下に垂れた状態になり、余計な負担を減らすことができます。
足幅を腰幅にしているのも同じく、力を伝えやすい位置だからです。足幅が広すぎたり狭すぎたりすると、膝が内側に入りやすくなったり、腰が丸まりやすくなったりします。腰幅程度にすることで、地面をしっかり踏みながら安定した力を出すことができます。

グリップに関しては、手のひら全体でバーを握るようにしています。サムレスグリップだと肩の安定感が弱くなる感覚があるため、しっかり握るようにしています。
また、デッドリフトでは肩甲骨を寄せる意識は特に持っていません。僕の中では、この種目は背中の種目というより下半身の種目です。肩甲骨など上半身の動きに意識が向きすぎると、下半身の力が抜けてしまうことがあります。背骨をまっすぐ保ちつつ、腕を体に引きつけた状態を維持することだけを意識しています。
藤井貫太朗の現在の背中トレ全メニュー
●1日目
ラットプルダウン
ローロウ
インクラインダンベルロウ
マシンプルダウン
●2日目
チンニング
マシンロウ
ワンハンド・ハイロウ
マシンプルダウン
※デッドリフトは尻・ハムの日に入れる
デッドリフトでの注意点
デッドリフトで一番重要なのは、重心を動かさないことです。そのために特に意識しているのは、バーベルが身体から離れないようにすること。バーは常に脚の真ん中の垂直線上を通るイメージで、身体に近い位置を通して動かします。バーが前に離れてしまうと、その瞬間に腰への負担が大きくなります。
そしてもう一つ大切なのが腹圧です。背中や腰が丸まってしまう場合。多くは腹圧が抜けている状態なんです。腹圧がしっかりかかった状態であれば、背骨の安定性も保たれます。逆にそれが保てない重量であれば、無理に扱う必要はないと思っています。
僕は現在、220kg〜230kgで5回を2セット、その後200kg前後に落として8回を1セットという形で行うことが多いですが、セット数は多くしすぎないようにしています。デッドリフトは体幹への負担が大きい種目なので、やりすぎると他の種目の質が落ちるので、あえてボリュームは抑えています。
ボディビルのための身体づくりにおいて、デッドリフトは行わなければいけない種目かと言うと、必ずしもそうではないと思います。ただ、体幹の強さや体の安定性を高めたい人にとっては、有効な種目です。フォームをしっかり作った上で取り入れることで、他のトレーニングの質も高まるはずです。
デッドリフト種目解説
●対象部位脊柱起立筋、臀部、ハムストリング
●重量・レップ数・セット数
220~230㎏×5レップス×2セット200㎏×8レップス×1セット
●セッティング
握り:オーバーグリップ、サムアラウンド
手幅:肩幅足幅:腰幅
●動作方法
手幅、足幅をセッティング
バーを握って、背骨を真っすぐにキープしながら引く
●ポイント
動作中に重心が常に真ん中にあり、その上で動作が行えている状態をキープする
ふじい・かんたろう
1995年9月19日生まれ/30 歳/大阪府出身/身長:168㎝/体重:73.5㎏(オン)、85.5㎏(オフ)/トレーナー/ 2024年大阪ボディビル選手権優勝、日本クラス別70㎏以下級2位、2025年ジャパンオープン優勝、2025年日本クラス別75㎏以下級優勝、2025年日本選手権8位
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