ボディビルダーやフィジーカーといった競技者が最も関心をよせるホルモンは、やはりテストステロンだろう。しかし、テストステロンの値を維持するのは、とても困難も伴うことが多い。そこで本記事では、米国フィットネス誌が、さまざまな専門家・競技者へのインタビューによって蓄積された知見をまとめ、実践しやすいコツとして伝授した内容をわかりやすく解説する。
(IRONMAN2026年4月号「from IRONMAN USA」より転載)
日常生活でテストステロンを高めるには
読者の中には、筋肉を成長させるため、日頃からテストステロンレベルを意識している人も多いだろう。では、日常生活においてテストステロンの分泌に影響する要因は何だろうか。
テストステロンは性別を問わず体内で産生されるホルモンだが、男性でもテストステロンレベルが低い人はいる。
テストステロンレベルが低下する原因は、トレーニング強度や食事内容、さらには環境汚染や不摂生な生活習慣などが複雑に絡み合っている。
テストステロンレベルは、個人差や年齢差がある。一般的には、男性は女性よりテストステロンレベルが高く、男性でも思春期の頃は生涯で最もテストステロンが高値だ。また、中高年になると多くの人が若いときより筋量が増えない、筋力が伸びないと感じるようになる。
米国泌尿器科学会の基準によると、成人男性の正常なテストステロン値は300~1000 ng/dLの範囲であり、300 ng/dLを下回ると低テストステロンと診断される。加齢に伴ってテストステロンは低下していくが、現代社会では生活習慣や環境ストレスで低下が加速している。もちろん、テストステロンを頻繁に検査するのは難しいため、自分のテストステロンが正常範囲なのか正確に把握することはできない。しかし、下記のような傾向や症状が見られたら、病院でテストステロン値を調べることを勧めたい。
テストステロン値は日内変動が激しいため、正確な測定にはタイミングが重要となる。血中濃度がピークに達する午前7時から10時の間に検査を行うのが鉄則だ。このピーク時に低値が検出されるようであれば、慢性的欠乏の可能性は極めて高い。
こんな症状があったら低テストステロンかも?
●筋量と筋力の減少
●性欲減退
●気分の変動または意欲の低下
●不妊
●集中力の低下
●疲労感
●運動後の回復遅延
睡眠はテストステロン生成のチャンス

テストステロン合成のピークは、深い睡眠段階、ノンレム睡眠時だ。睡眠不足が続くと、正常なテストステロンの生成が阻害され、血中テストステロン濃度が低下する。
早めにベッドに入っても夜中に頻繁に目覚めてしまい、睡眠の質が低くなる場合は、テストステロンや成長ホルモンの分泌効率が悪化する。
睡眠不足が続くことで、ストレスホルモンであるコルチゾールが増加するとされている。コルチゾールとテストステロンは拮抗関係にあり、コルチゾールが体内で増加すると、テストステロンの生成が抑制される性質を持つ。このように、慢性的な睡眠不足はホルモンバランスを乱し、持続的な疲労感、筋力低下、性欲減退を招く。
7~9時間
落ち着いた静かな睡眠環境を整える。
外に出て太陽の光を浴びよう
日光浴をするとビタミンDが生成され、テストステロン産生が促される。複数の研究では、ビタミンDレベルはテストステロンレベルと正の相関関係にあることが示されている。
屋外活動をほとんどしない生活をしている人は日光浴不足になりやすい。その結果、ビタミンD欠乏症になりやすくなる。
屋外で活動することが少なく、ビタミンDが不足すると、体脂肪の増加や筋量の減少を招くリスクが高まる。また、日光浴不足は脳内のセロトニン濃度を低下させ、間接的にテストステロンの産生に影響を及ぼす可能性が指摘されている。
ビタミンDを生成する目的で日光浴を行う際は、効率を考慮し日焼け止めを使わないことが理想だ。
毎日15~20分
冬や日照時間の短い地域に住んでいる場合は、ビタミンDサプリメント、牛レバー、キノコ、卵、魚類などを摂取しよう。
本末転倒なオーバートレーニング

筋肥大のためには、トレーニングや食事だけでなく疲労回復も不可欠だ。十分な回復時間を考慮せずに高頻度・高強度トレーニングを行うと、オーバートレーニングに陥るリスクが高まる。オーバートレーニング状態ではストレスホルモンであるコルチゾールが慢性的に上昇し、テストステロンレベルが低下する。オーバートレーニングは免疫系を抑制し、筋肉組織の修復を遅らせるため、筋肥大には逆効果だ。
オーバートレーニングを避けるためには、強度に強弱をつけ、オフ日を組み込んだトレーニングプランが有効だ。オフの日にはウォーキングやストレッチなどのアクティブリカバリーを取り入れることで疲労の回復がさらに進むと言われている。
多関節種目 +疲労回復
ストレスをためない
現代社会を生きる私たちはさまざまなストレスにさらされている。慢性的なストレス状態では体内のコルチゾール値が常に高止まりしている。このとき、身体は筋肉の同化よりも生存維持機能を優先させる。先に解説したとおり、コルチゾールとテストステロンは拮抗的に作用するため、ストレス優位の体内環境はテストステロンにとってマイナス要因になる。
この問題に対処するには、自分にとってのストレス緩和方法を見つけることが必要だ。瞑想、深呼吸、適切な運動、そして趣味で気分をリセットすることで、内分泌系を正常なバランスへ戻す。メンタルの安定はインスリン感受性の向上や睡眠の質改善にも寄与し、結果としてテストステロンの産生効率を高めることになる。
不要なストレスをなくす
瞑想、深呼吸、運動、趣味を通じて、ストレスを解消する方法を探してみよう
加工食品はNG、自然食品も注意が必要

加工食品には精製糖、トランス脂肪酸、化学添加物が含まれており、テストステロンの分泌を抑える作用がある。特にトランス脂肪酸は精子の質の低下と関連していることが示されている。また、パンなどの精製炭水化物は、インスリン値を急上昇させ、ホルモンバランス全体を乱す要因となる。
ハムやソーセージなどの加工肉に含まれる保存料や硝酸塩は、内分泌機能を乱すことが研究で報告されている。長期的に摂取すれば体脂肪が増え、エストロゲンレベルも上昇する。その結果、成長ホルモンやテストステロンの産生能力は相対的に低下する。また、大豆やミントといった一部の植物性食品も、過剰摂取すればテストステロンレベルが低下する可能性があるため注意が必要だ。
意識すべき3要素
・良質な脂質
・高品質なタンパク質
・亜鉛
例)牡蠣、卵黄、赤身肉、脂の乗った魚、エキストラバージンオリーブオイル
アルコールで女性ホルモンレベルが上昇する
アルコール摂取は、テストステロンレベルを直接的に低下させる要因だ。特定の実験では、ビール中瓶1.5~2本相当のアルコール摂取を3週間継続しただけで、テストステロン値が約7% 低下したことが報告されている。日常的な飲酒は内分泌系に持続的なストレスを与え、テストステロンの産生を著しく減退させる。
さらに、アルコールはテストステロン合成に不可欠な亜鉛を枯渇させる。また、肝機能にダメージがかかれば、ホルモン調節能力が低下し、体内のエストロゲン代謝にも悪影響を及ぼす。アルコール代謝に伴うエストロゲンレベルが上昇すれば、テストステロンの低下を助長する悪循環を招く。さらに、過度の飲酒は睡眠障害、体脂肪増加も促進する。
約7%低下
ビール中瓶1.5~2本相当のアルコール摂取を3週間継続した場合
プラスチックを触るとテストステロンが減る?
プラスチック製品に含まれるビスフェノールA(BPA)は、テストステロンレベルに悪影響を及ぼすことが研究で示されている。
BPAは代表的な内分泌攪乱物質であり、体内でエストロゲン受容体とGタンパク質共役受容体に結合する。つまり、摂取されたBPAが偽エストロゲンとして機能し、男性の体内でホルモンバランスを乱し、テストステロン産生を直接的に抑制するのだ。
プラスチック製の飲料ボトルや食品容器、プラスチックの内張りがされた缶詰には注意が必要だ。特に加熱することでBPAの溶出が促されるため、容器のまま電子レンジで加熱するのは避けた方が賢明だ。
長期間にわたってBPA暴露を受けると、体脂肪の増加、生殖能力の低下、遊離テストステロンの減少などにつながる。
対策として、保存や加熱にはガラスやステンレス容器、またはBPAフリー容器を使うようにしよう。
治療の一環としてテストステロン補充
生活習慣の改善でテストステロンが正常値に戻らず、生活の質に著しい支障をきたす場合、テストステロン補充療法(TRT)を受けるという選択肢がある。これは臨床検査で「低テストステロン症」と診断された男性に対する医療処置だ。この治療を行うことで、エネルギーレベルの向上、筋量・筋力の回復、性機能の改善などが期待できる。
ただし、TRTにはリスクもある。ニキビ、むくみ、睡眠時無呼吸症候群、生殖能力の低下、心血管リスクなどの副作用が確認されている。TRTを用いた治療では、定期的な検査を受け、資格を持つ医療専門家の指導のもとで実施する必要がある。また、ドーピング規定がある競技に出場するアスリートは使用を禁止されている。その場合、テストステロンブースターである亜鉛、マグネシウム、ビタミンD、フェヌグリーク、アシュワガンダなどのサプリメントを使用しよう。










