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肩を痛めるリスクを減らすローテータ―カフの鍛え方

筋肉を発達させたいと思っている人たちは、対象筋をいかに強く刺激するかということで頭がいっぱいになりがちだ。しかし、肩に関して言うならもっと大切なことがある。それはもちろん、ケガの予防対策だ。トレーニングで肩を痛めてしまう人は多い。読者の中にも肩に痛みを感じてワークアウトを中断したり、しばらく肩を使う種目ができなかったという人も少なくないはずだ。確かに肉厚で幅の広い肩は、洗練されたフィジークを目指しているなら不可欠な部位だ。しかし、そのためにワークアウト量を増やしすぎたり、使用重量を重くしすぎたり、休養を犠牲にしてしまったりして、それがケガにつながっているケースが少なくない。もちろん、ワークアウトの量、頻度、使用重量を増やしすぎてケガをするのは肩だけに限らないわけだが、実は肩を痛める人が多いのには、もうひとつ別の理由がある。それがローテーターカフの存在だ。ローテーターカフの強化を怠ってしまうと、肩を痛める危険性は格段に高まってしまう。しっかり追い込んで肩の筋肉を発達させたいなら、ローテーターカフの強化、ケアを十分に行うことが大切になるのだ。

文:Steve Dorfint, CPT 翻訳:ゴンズプロダクション

ローテーターカフの基本知識

肩の関節は、私たちの日常生活でも頻繁に使われている。しかも肩関節の可動域はとても広いので、これもまた肩を痛める原因と言えるかもしれない。

肩関節の可動域が広い理由はその構造にある。イメージとしては、窪みの中にボールがはめ込まれ、そのボールが自由自在に動いているような状態だ(イラスト参照)。

窪みに例えたのが肩甲骨の外側上部にある「関節窩」、ボールに例えたのが「上腕骨骨端」である。そのため腕をグルグルとさまざまな角度で回旋させたり前方、後方、左右に動かすことができるのだ。そして、この肩関節を「支えている」のがローテーターカフで、これは4つの小さな筋肉によって構成されている。

ローテーターカフを構成しているのは棘下筋、棘上筋、小円筋、そして肩甲下筋だ。これらの筋肉には複数の腱があって、ローテーターカフと肩関節の骨とをつなぎ、重要な役割を果たしている。

ところで「ローテーターカフが肩関節を支えている」とはどういうことなのか。まず第一に、ボール状の上腕骨骨端が、窪みである関節窩の中から外れないようにすること。そして、回旋、挙上、降下など、肩と腕の動きに力を与えることだ。

これらの動きは、ジムでトレーニングを行うときはもちろん、日常の動作でも当たり前のように行っているものばかりだ。肩関節は私たちが日々の生活を快適に送る上で特に大切な役割を持っていると言えるだろう。

ボディビルと肩のケガ

筋発達が最優先のボディビルダーたちは高重量でのトレーニングを積極的に行っている。特に高重量が用いられるのはベンチプレス、デッドリフト、スクワットなどで、他にもオーバーヘッドプレスやバイセップスカールなどでもすさまじい重量を扱う人たちが大勢いる。そんなトレーニーたちは肩を痛めたことがないのだろうか。もちろんあるに決まっているわけだが、一度痛めたら懲りるだろうと思いきや、痛みが引くと再び同じことを繰り返してしまうのである。

通常、肩のトレーニング頻度は週1回程度だ。しかし、肩は胸や背中のワークアウトでも刺激を受けているし、脚や腕のワークアウトでも、高重量のバーベルやダンベルをラックに戻すだけで肩の筋肉は使われているのだ。つまり、肩はジムに行くたびに酷使されているわけで、むしろケガをしないほうがおかしいぐらいなのだ。

肩を痛めたら肩のワークアウトはしばらく休むことになるわけだが、実際のところ他の部位のワークアウトでも肩を使うので、種目によってはどうしても影響が出てしまう。無理してやろうとすれば肩の痛みはなかなか消えず、完治するまでかなりの時間がかかってしまうことが多い。

ところで、多くのトレーニーが経験している肩のケガは、具体的にどのようなものが多いのだろうか。代表的な肩のケガを2つ紹介しておこう。

❶肩関節インピンジメント症候群(Shoulder Impingement)
頭上にウエイトを押し上げる動作を頻繁に行っている人によく見られるのが肩関節インピンジメント症候群だ。この症状が起きると、日常の動作であっても、腕を頭上に上げるだけで肩にピリッとした痛みが走るようになる。悪化すると、背中に腕を回した時も激痛に見舞われ、ジムでのトレーニングだけでなく、日常生活にも支障を来すようになる。インピンジメントは、使いすぎなどによる腱の炎症や断裂が原因でむくみが起こり、これが動作中に肩関節の中で骨と骨の間に挟まれたり、ぶつかったりすることを指している。つまり、その挟み込みや衝突が痛みを招いているのだ。これを治すにはトレーニングを休み、安静にしているのが一番だ。そして、むくみや腫れが引いて炎症や断裂が治ったら、再び同じケガをしないためにも、まずはローテーターカフを強化する必要がある。痛みを我慢してトレーニングを続ければ、一度傷ついた腱の炎症は慢性になり、ローテーターカフはどんどん痩せてもろくなり、断裂を起こしやすくなる。すでに説明のつかない痛みがある人、トレーニング歴は長いが特定の動作が極端に弱いという人、肩を使った特定の動作だけはどうしてもできないという人は、もはや自力での改善は難しい。そういう症状を抱えている人は専門医の診断を仰ぎ、適切な処置をしたほうが賢明だ。今後の自分のトレーニングに関わることなので決して楽観視せず、肩の健康状態には細心の注意を払うようにしたい。

❷ローテーターカフの断裂(Rotator Cuff Tear)
ローテーターカフが断裂すると腕を持ち上げることができなくなり、冷蔵庫から牛乳パックすら取り出せなくなる。それくらい肩には全く力が入らなくなってしまうのだ。ローテーターカフの断裂は、前述した肩関節インピンジメント症が悪化したときに起きる可能性が高い。あるいは、上腕二頭筋の断裂を放置してしまった場合も、やはりローテーターカフの断裂にまで症状が悪化するケースがある。実際、ローテーターカフの断裂で診察してもらったところ、上腕二頭筋に断裂痕が見つかることもあるのだ。ローテーターカフが断裂したら、治すには外科的治療しかない。もちろん、手術をすれば術後のリハビリが必要になるため、本格的なトレーニングの再開までかなり長い年月がかかることを覚悟しなければならない。

ローテーターカフのケア

ジムに着いたら、ウォームアップもほとんどやらずに本番セットを開始してしまうトレーニーは多い。しかし、それはケガの原因になるし、特に肩のワークアウトではとても危険な行為であることを忘れないでほしい。ケガを避け、定期的にトレーニングを継続していくためには、以下の項目についての準備をしておくことが不可欠である。
●関節の健康
●正常な動作
●柔軟性
●ローテーターカフの健康

そして、肩のワークアウトを開始する前に、以下に紹介するローテーターカフの種目を積極的に行ってほしい。いずれも肩全体をウォームアップさせ、特にローテーターカフの柔軟性を高めて強化するのに役立つ種目だ。すぐにワークアウトを開始したい気持ちは分かるが、その焦りがケガを招く。ケガをすれば長期の休養を強いられることになる。わずかな時間をローテーターカフのために割いたとしても、そのほうがよほど今後の筋発達にプラスになるのだから、面倒と思わずにローテーターカフをしっかりケアしてほしい。

ローテーターカフの動き

ローテーターカフの種目は肩の内旋、外旋、肩甲骨面挙上などに着目したものだ。ローテーターカフをバランスよく強化するためにどの動きも欠かさず行うようにしたい。
具体的な種目を紹介する前に、内旋、外旋、肩甲骨面挙上についてまずは簡単に動作の解説しておく。
●内旋:身体の中心、もしくは内側に向かって腕を動かす動作だ。例えば腕を体側に下ろし、前腕を身体の正面に上げたところから、体の中心に向けて、前腕を水平に移動させるのは肩の内旋運動である。
●外旋:身体の外側に向かって腕を動かす動作であり、内旋運動と逆の動きである。例えば腕を体側に下ろし、前腕を体の正面に上げたところから、体の外側に向けて水平に移動させる動作というのは外旋運動である。このようにして行う内旋&外旋運動は肩から起こるものであることをしっかりと覚えておこう。
●肩甲骨面挙上:腕をまっすぐに体側に持ち上げたら、30度ほど前に水平移動させる。この状態は肩関節にとって最も自然な角度で腕が保たれている状態であり、肩関節を最大限に機能させることができる状態である。また、この状態は肩関節だけでなく、肩甲骨にとっても一番機能しやすい角度である。肩甲骨を動かす種目は数多くあるので、肩甲骨面挙上の動作も積極的に行って、肩関節と肩甲骨を自由に動かすことができるようにしておきたい。

それではさっそく、内旋、外旋、肩甲骨面挙上に着目した6つのローテーターカフの種目を解説していこう。

ローテーターカフの種目

クロスオーバー・アームリーチ
(Crossover Arm Reach)

①立位姿勢で行う。左腕を伸ばして身体の正面に上げ、そのまま右方向に水平移動させる。
②水平移動させた左腕の肘を右手で軽く押さえる。
③このままの姿勢を30秒保ったら、左腕を元の位置に戻す。同様にして右腕も行う。左右にそれぞれ30秒ずつ行って1セットとする。

ペンダルム
(Pendulum)

①柱や頑丈なテーブルに、身体の右側を向けて立つ。
②上体を腰から90度前屈させたら、その角度を維持するために、右手で柱やテーブルを掴んでおく。
③左腕の力を抜いてだらりと下げる。上体が前屈しているので、腕は床面に対して垂直(大腿部と水平)に保たれているはずだ。これがスタートポジション。
④腕の重さだけを使って、左腕で時計回りに小さな円を描くように動かす。振り子のように一定のスピードを維持し、描く円の大きさも変えないようにしよう。
⑤円を描く動作を10回繰り返したら、今度は反時計回りでも10回繰り返す。反対側も同様にして行う。

ストレートアーム・サークル
(Straight Arm Circles)

①両足を肩幅程度に開いて立つ。
②両腕を真横に、水平に持ち上げる。
③手で小さな円を描くように、両腕を回す。最初は小さな円を描くようにし、徐々に円を大きくしていこう。円を大きくしていくことで、上腕三頭筋のストレッチ感も強くなっていくはずだ。10〜15秒間続ける。
④今度は反対回りで同じように円を描く。最初は小さい円を描き、徐々に円を大きくしていくこと。

フィールドゴール・ローテーション
(Field Goal Rotation)

①両手に軽重量(1〜2kg 程度)のダンベルを握る。ただし、この種目を試したことがない人は、しばらくは重量を持たずに行ったほうがいいだろう。
②オーバーヘッドプレスのスタートポジションの姿勢を作る。つまり、肘を直角に曲げ、上腕と肩が同じ高さになるようにする。手のひらは正面に向けておく。ダンベルは耳より少し高い位置に来ているはずだ。
③肘、上腕、肩の位置は固定したまま、床面に対して垂直に立っている前腕をゆっくり前に倒していく。前腕が床面に対して水平になる地点を過ぎてさらに下ろしていくと、前腕が床面に対して垂直になる。これがボトムポジションだ。ボトムポジションでは手のひらは後ろを向いているはずだ。
④ボトムポジションで一旦停止したら、同じ軌道を通って前腕をスタートポジションまで戻す。これで1レップだ。
⑤10〜15レップ行うようにする。
⑥肩の可動域が狭い人は、最初からフルレンジで行う必要はない。まずは手のひらが床面に向くまで、つまり前腕が床面と水平になるまでを可動域にしよう。徐々に柔軟性が得られてきたら可動域を広げていく。ローテーターカフの種目であっても、無理をすればケガの原因になるので注意しよう。

サイド・ライイング・ダンベル・インターナル・ローテーション
(Side Lying Dumbbell Internal Rotation)

①軽いダンベルを右手に握る。
②床に敷いたマットの上に、体の右側面を下にして横になる。右の上腕は体と床の間に挟まれるが、肘と前腕は少し前に出しておく。左腕は左体側に乗せおく。
③右肘を90度に曲げ、腹に対して前腕が垂直になるようにする。これがスタートポジションだ。
④スタートポジションから肘を支点にし、弧を描くように右前腕が床に対して垂直になるまで動かす。これがトップポジションだ。
⑤トップで一旦停止したら、ゆっくり前腕をスタートポジションまで戻して1レップだ。
⑥左側も同様に行う。この種目は肩の内旋運動である。

サイドライイング・エクスターナル・ローテーション
(Side Lying External Rotation)

①軽いダンベルを左手に握る。
②床に敷いたマットの上に、体の右側面を下にして横になる。右腕は曲げて右側頭部の下にクッション代わりに置くと姿勢が保ちやすい。
③左の上腕は体側に乗せて固定し、肘は直角に曲げ、前腕と床が水平になるようにしておく。これがスタートポジションだ。
④スタートポジションから肘を支点にし、弧を描くようにダンベルを持ち上げる。
⑤前腕が床面に対して垂直になるまでダンベルを持ち上げたらトップポジションだ。
⑥トップで一旦停止してから、ゆっくりとスタートポジションまで前腕を戻して1レップだ。
⑦指定のレップ数を終えたら反対側も同様にして行う。この種目は肩の外旋運動である。

何種目行うのがいいのか?

ここで紹介したローテーターカフの種目は、肩のワークアウトの前に行ってほしいわけだが、たくさんやる必要はない。内旋、外旋、肩甲骨面挙上の種目をそれぞれ1種目ずつ選択し、合計3種目行うようにしよう。

肩のワークアウトが週1回の場合は、肩以外の上半身のワークアウトの日を1日選択し、その際にもローテーターカフのための3種目を行うようにしたい。

まとめ

ローテーターカフを痛めると、その影響は肩だけでなく上半身全体のワークアウトに広がる。つまり、ローテーターカフをおろそかにすると上半身の筋発達が長期的に停滞する可能性もあるのだ。そんな事態を何としてでも避けたいなら、日頃から積極的にトレーニングによってローテーターカフの強化に努めてほしい。

今回紹介したローテーターカフの種目は、肩のワークアウトの前に行う種目として取り入れてほしい。肩のウォームアップになるだけでなく、ローテーターカフが強化されるので肩の筋発達にも貢献するはずだ。

肩関節のケガによる心身が受けるダメージは計り知れないほど大きい。何週間、何カ月、場合によっては年単位でトレーニングを休まなければならなくなる。

私が左肩を痛めたときは、ケガをする前の筋力に戻るまでに半年かかってしまった。そして、左肩の調子が良くなってきたと思ったら、今度は右肩を痛めてしまったのだ。結局、左右の肩が以前のバランスを取り戻すまでに約1年間もかかってしまい、その間はボディビルコンテストにも出場することができなかった。

肩のケガは何としてでも回避しなければならない。そのためにはウォームアップを欠かさないようにするだけでなく、ローテーターカフの強化も必要だ。

肩のワークアウトの前に少し時間を割けばいいのだ。それをするだけで、トレーニングを自粛しなければならないような事態は避けられる。現在、すでに痛みがあるという人は、悪化してしまう前にまずは医師に診てもらおう。くれぐれも肩関節の痛みを放置しないようにしたい。

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