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「デッドリフトは体型でその最適な重量が左右される」王道トレーニング種目のデッドリフトを攻略するために

今回はデッドリフトの効果とリスク、および行う注意点について解説していきたいと思います。

デッドリフトの効果とリスク

デッドリフト(この場合ルーマニアンデッドリフト)は股関節の伸展という動きがメインになります(写真1 −1)。従って主動筋は大殿筋になります。デッドリフトは比較的高重量を扱えるため、大殿筋を肥大、強化するには効果的なエクササイズであると言えます。また、体幹にかかる負荷も大きいので、体幹強化の効果も期待できます。しかしこれだけの効果が期待できる反面、当然リスク(危険性)も存在します。それは腰にかかる負担です。
デッドリフトは腰の骨(腰椎)に対して剪断力(背骨を真っ二つに折り曲げようとする力)が働くので、腰にとってはとてもリスクが高い種目になります。

以前解説した「立位体前屈テスト」がうまくできない場合、この種目で高重量を扱うことは、腰にとってかなりの負担がかかってしまうと言えます。

パーシャルレンジのデッドリフトの注意点

身体の柔軟性が乏しい場合、パワーラックのセーフティバーなどを用いて、パーシャルレンジで行う方法もあります(写真1 −2)。しかし、この方法は筋肉を大きくするという点においては効果が期待できますが、機能性という部分においては問題が出てきます。


それは、「関節の可動域の中での筋力の差」が大きく開いてしまうということです。
写真1 −2の種目で得られる筋力はあくまで膝の上から立ち上がるまでの筋力です。したがって写真1 −1のような膝下のポジションにおいて同じような筋力を発揮することはできません。このような筋力差は日常生活を送るだけであれば、それほど問題は起きないと思いますが、スポーツの場合は「関節可動域の中の筋力差」はケガの大きな原因になってしまうのです。
つまり、スポーツ競技力向上を目的としているトレーニーの場合、デッドリフトを高重量で行う前に、立位体前屈のテストをクリアすることが優先になってきます。スポーツ競技力向上を目的とした機能性を重要視したトレーニングにおいて大切なことは「全ての関節を、全ての可動域で、全てのスピードでコントロールできる」ことなので、可動域の中で筋力差が生まれてしまうと、スピードの調節ができないので、車に例えるとハンドルを切り損ねて事故を起こしてしまうということになります。
ボディビルディングを目的としたトレーニングが、スポーツ競技力向上に、あまり効果を発揮できない場合は、スピードと筋力のコントロールがうまくいっていないことが原因のひとつであると言えます。

人と比べたり、重量に固執しすぎないこと

もうひとつ間違いを起こしやすいのは「使用重量を決める際に人と比べてしまう」ということです。デッドリフトはトレーニーの体型でその最適な重量が左右されてしまいます。身長の低い人と、身長の高い人とではその条件が大きく変わってしまいます。つまり身長の低い人の方が、股関節の可動域や仕事量が少なくなるので、有利になります。身長の高い人が、低い人と同じ重量を扱う場合、そのあたりも考慮しながら行うことが大切です。「デッドリフトは何㎏挙げないといけない」ということに執着せず、自身が安全なフォームで行えることが大切になります。

リフティングベルトとストラップの使い方

次にリフティングベルトとストラップ(写真1 −3)についてお話ししたいと思います。結論から言いますと、リフティングベルトはデッドリフトを安全に行うため、ストラップは高重量を扱うために効果的です。もしトレーニングを行う目的がボディメイクであれば、この2つのアイテムは必要だと思います。
しかしスポーツ競技力向上を目的とした場合、筋力トレーニングとスポーツの条件がかけ離れすぎると問題が起こることがあります。
例えば柔道において、広背筋などの引く力が強くても、握力が弱いとその効果が発揮できないのは容易に推測できると思います。また、リフティングベルトを着用した状態では腹圧が入りやすくなりますので、ベルトを外してスポーツを行う場合、条件が異なるので同じように腹圧をかけることは難しくなります。
そのようなことが場合によってはパフォーマンスの低下やケガの原因になることも考えられます。
肝心なのは、普段からこの2つを常用して依存するのではなく、高重量を扱うときだけ安全のために着用するなど、必要に応じて使ったり使わなかったりすることが大切であると思います。
握力はオルタネイトグリップで握ることで、プロネイティッドグリップよりもその力を増大することが可能です。これは人間の機能である「両側性の運動よりも片側性の運動の方が大きな力を発揮できる」という機能を使います。
したがって、ストラップについてはオルタネイトグリップでも握力が持たないような高重量を扱うときのみに使用することをお勧めします。
また、リフティングベルトは3RM(3回挙上できる最大重量)以上の重量を使う際にだけ着用するというようにしても良いと思います。

腰が曲がった姿勢でデッドリフトを行わない

最も大切なデッドリフトの注意点は、腰椎を後弯させない(腰を曲げない)ということです。腰を曲げて高重量を扱うこと(写真2 −1)は、椎間板の髄核が後方に移動して脊髄を圧迫し椎間板ヘルニアなどの障害のリスクが高くなります。また、若いうちは大丈夫でも、年齢を重ねるうちに腰椎の変形が進んでいき、歳をとってから障害が現れる事例も見られます。
もし、デッドリフトで高重量を扱う場合は、最低限、腰が曲がっていないかを確認しながら行うことが重要です。デッドリフトは「ハイリスク、ハイリターン」の種目です。ですから上記のことを考慮に入れながら、リスクをどれだけ減らせるかが、より効果的に行うためのキーポイントとなるでしょう。


著者プロフィール
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/NSCACSCS/NPO法人JFTA理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF全日本ボディビルディング選手権6位。

アイキャッチ:Shutterstock

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