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「デッドリフトを安全に行う」ために必要な要素を解説

今回ご紹介するエクササイズは、少し不吉なネーミングの「デッドリフト」です。名前の由来は、戦争の際に戦死した兵士の死体を運んだことから来ているという一説もあります。このエクササイズは上体を倒し、比較的高重量を上げることで脊柱に「剪断力」(背骨を折り曲げる力)がかかることから、とてもリスクが大きいエクササイズであると言われています。
腰を痛めないためにもこのエクササイズを行う前に一度チェックしていただきたいテストがあります。それは小学校のときに行った経験もあるかもしれない「立位体前屈」です。ただしこのテストは身体の柔らかさだけでなく「機能性」も見ます。立位体前屈を細分化していくことにより、自身の身体の問題に気づき、その問題を解決することで、デッドリフトのリスクを最小限に抑えた状態で行うことが必要です。
デッドリフトを行う、または指導する際にそのフォームだけにとらわれると、後述するような機能性が欠如している場合は、理想的なフォームで行うことは不可能になります。言い換えれば「ハンドルが回らない車でコーナーを曲がろうとする」ということになってしまうのです。
デッドリフトは、ハイリスクですがハイリターンの種目でもあります。リスクを少なくしてこのエクササイズを行うことがとても重要なポイントになるでしょう。今回は、デッドリフトを安全に行うためのチェックポイントをご紹介します。

デッドリフトを安全に行うためのチェックポイントを知ろう

◆立位体前屈テスト
両足を揃えた状態で前屈する(写真1‒1)
チェックする項目は以下の4つです。詳細は自身では分からないと思いますので、鏡の前で行うか、スマートフォンのカメラ機能などを使い、客観的に見てみるといいと思います。
①地面に手をつけることができるか?
②骨盤の後方シフトができているか?
③骨盤は70度以上倒れているか?
④腰椎(腰の部分)は緩やかなカーブを描いているか?
写真1‒1はこれらの項目がクリアできていますが、もしクリアできていない項目があった場合、次に解説する「原因」と「気をつけなければいけないポイント」について確認していきましょう。

①地面に手をつけることができない(写真2‒1)


立位体前屈は、沢山の関節が関与するので一概にどこに問題があるかということは言えませんが、次の3つの原因(②、③、④)の中のいくつか、もしくは全ての項目に該当するかもしれません。身体が硬い場合、デッドリフトを「床引き(バーベルが床に着いた状態の低い位置から挙上)」する際に力が出なかったり、腰が曲がってしまったりするので危険度が高くなります。

②骨盤の後方シフトができていない(写真3‒1)

これは身体の動かし方の問題(運動制御)になります。上体を前に倒す際は、バランスを保つため、また、上半身とバーベルの負荷を相殺させるため、写真3-1のように「お尻を後ろに引く」動作ができていないと腰にかかる負荷が増大します。特に腰痛持ちの人はこの動作ができない場合が多くみられます。代表的な解決法は壁の前に、背中を向けて立ち、背中に棒を当てたままお尻を壁につけるようにしながらデッドリフトを行います(写真3‒2)。このエクササイズを繰り返し行うことで、ハムストリングが伸びる感覚が得られ、同時に骨盤を後ろに引く動作が学習できます。

③骨盤が70度以上倒れていない(写真4‒1)

主にハムストリングが硬くなっていることが原因です。この状態でデッドリフトを行うと、バーベルを引く際に腰が曲がってしまう傾向にあり、腰を痛めてしまいがちです。この場合ハムストリングをストレッチ(写真4‒2)もしくはリリース(写真4‒3)することで解決していくはずです。前屈した際に股関節に「詰まり感」がある場合は、お尻の筋肉をリリースするか、パーソナルトレーナーなどの専門家に相談するといいと思います。

④腰椎が真っすぐなままでカーブが少ない(写真5‒1)

高重量でデッドリフトを行うトレーニーは、腰回りの筋肉が硬くなっている場合が多く、そのため、血行が悪くなっている場合があります。また、腹筋群が背筋に比べて弱くなっている場合も、腰の柔軟性が低下します。このような場合の対処法は腰回りの筋肉を柔軟にすることです。例として、写真5‒2の「ベリーロール」と呼ばれるエクササイズを行うと改善するかもしれません。四つん這いの状態で、息を大きく吸って、ゆっくり吐きながら背中を丸めて行うこのエクササイズは腰の柔軟性を上げるだけでなく、腹筋群を活性化させる効果もあります。


著者プロフィール
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/NSCACSCS/NPO法人JFTA理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF全日本ボディビルディング選手権6位。

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