ジムではもっとも人気の高い種目であるものの、筋肥大、ボディメイクの観点からベンチプレスをトレーニングプログラムのなかから外してしまうボディビルダーも少なくはない。加藤直之選手がアイアンマン2017年5月号で解説したベンチに対するこだわりと重量を伸ばしていくためのポイントを紹介する。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩
――加藤選手がメニューからベンチプレスを外さない理由はどこにあるのでしょうか。
加藤 トレーニングを始めたころに教わった種目がベンチプレス、デッドリフト、スクワットの3種目だったのです。僕はこの3種目を基礎としてトレーニングを続けてきました。ビッグ3を中心としたトレーニングを続けてきたからこそ、今の体があると思っています。この3つは継続しなければいけない種目だと思いますし、経験上、その必要性も感じています。ベンチプレスは「胸に効かせる種目」というよりも「全身の基礎筋力底上げの種目」として取り入れています。重量を追い求めていく上で、ビッグ3はその基準となる種目、という認識です。この3種目の使用重量を、筋力が伸びているかどうかの指標にしています。筋力が伸びれば、それに伴って筋肉もついていくという考え方をベースに取り組んでいます。逆に言えば、減量中はこの3種目の使用重量が落ちていなければ、筋量は維持できているだろうと。
――加藤選手のベンチプレスのフォームは、アーチの作り方が特徴的です。
加藤 あのアーチを組むのは全身で重さを受けるためです。足からエネルギーをバーに伝えられるように、しっかりとアーチを組んでいます。考え方はパワーリフティングの選手に近いと思います。ただ僕が取り組んでいるのは競技ベンチではないので、自分の一番力が入りやすいフォームを探すようにしています。
――双子のお兄さんの加藤寛之選手がパワーリフターです。お兄さんのアドバイスを参考にすることもあるのですか。
加藤 あります。よくメールでやりとりしています。フォームを動画で見せてもらって、参考にすることもあります。
――フォームを作る際に注意している点は?
加藤 毎回、バーの下の、同じ位置にもぐれるようにしています。僕は上半身からフォームを作っていくタイプなのです。もぐる位置を決めて、肩甲骨を下げ締めて、手の位置を決めて、ベンチ台に足を乗せて、お尻を締めて、足を下ろす。肩甲骨は“寄せる”というより“下げ締める”(下制し、内転した状態)。締めたら、そのままの状態を維持します。足を下ろす位置は、感覚としては肩甲骨の真下に足裏があるように。足裏の真上にバーが乗っているようなイメージです。
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――バーの真下で踏ん張って、下から突き上げるようなイメージ?
加藤 そんな感じですね! 股関節を伸展させて弓のように体を張るイメージです。
――バーを下ろす位置は?
加藤 基本は剣状突起のあたりです。しかし、重量が重たくなってくると、肩甲骨を下制させたままだと、ラックアップができないので、バーを下ろす位置も少し顔の方にずれてきます。150㎏くらいまでは肩甲骨を下制してからラックアップできるのですが、170㎏くらいになると肩甲骨を下制させた位置からほんの少し挙上させてラックアップをして、そのまま下ろします。パワーリフターの方はもっと上手にやるのでしょうけど、僕はまだそのテクニックがいまいちなのです。
――筋肥大の観点からは、高重量のベンチプレスはどのような効果が得られるのでしょう。
加藤 ベンチプレスは胸に効かせにくいという人もいますが、効いていないと思っても、ベンチプレスで高重量が上がる人は、胸の筋肉も発達している選手は多いです。僕も正直なところ、パワーのフォームでも胸に刺激が入る感覚が掴めるようになってきたのは最近のことです。以前は背中やお尻、ハムストリングスがよく筋肉痛になっていました(苦笑)。それだけ全身運動ということですね。
――フォームを修正したのですか。
加藤 脇を少し広げた状態でバーを握るようにしました。下ろす位置を微調整していく中で、力を入れやすいフォームを探していったのです。今のフォームで行うようになって、尻は浮いてますが、重量も200㎏まで伸ばすことができました。
――取り組み方としては、あくまで“重量の追求”ですか。
加藤 ベンチプレスにおいては、重さを上げられるフォームをひたすら追求してきました。頻度は週に1から2回といったところです。今は4分割でルーティンを組んでいて、「脚」「胸」「背中」「肩」という順番で回して、2、3週間に1回オフを入れます。ベンチに関しては特にサイクルは組まずに、レップ数を調整しながら重量をキープしています。
――今年も「腕」の日は設けていないのですね。
加藤 体操時代に負ったケガの影響で、腕のトレーニングをした翌日はコンパウンド系の種目が厳しい時があります。ですから腕のトレーニングはやっても月2回程度です。胸や背中の日にコンパウンド系の種目を多く行っているので、そのときに腕に刺激は入っていると思います。
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