「ビギナーだよね?って思っちゃいました。みんな若くて、でかくて。ちょっと負けたくねえなって」
プロ野球 東北楽天ゴールデンイーグルス一筋で14年間プレーした岡島豪郎(おかじま・たけろう/36)さんが、今度はユニフォームではなくサーフパンツ姿でステージに立った。

初のフィジーク大会に出場した岡島さん
出場したのは、『JBBF第5回 宮城県ビギナーズ メンズフィジーク オープン大会』のビギナーズメンズフィジーク。結果は惜しくも決勝進出を逃したが、初めて目の当たりにしたフィジーク競技の世界は、岡島さんの心に火をつけた。
「悔しくて……もう1回やりてえなって思っちゃいました!」
プロ野球という世界から、なぜ“フィジーク競技”へ飛び込んだのか。そこには、競技者としての本能だけではなく、3人の子どもを持つ父親としての思いもあった。
楽天一筋14年、日本一も経験した男が選んだ第二の競技はメンズフィジーク
岡島さんは1989年9月7日生まれ、群馬県出身。関東学園大学附属高校、白鷗大学を経て、2011年のドラフト4位で東北楽天ゴールデンイーグルスに入団した。右投げ左打ちで、捕手と外野手を経験。2013年には球団初のリーグ優勝、日本一に貢献し、2024年には一軍通算1000試合出場を達成した。2025年シーズン限りで現役を引退するまで、東北楽天ゴールデンイーグルス一筋で14年間プレーした。

楽天イーグルスの現役時代
現役時代からトレーニングは好きだったという岡島さん。しかし、引退後に始めたボディメイクのトレーニングは、それまで取り組んできたものとはまるで違ったという。
「コロナ禍でフィットネスが一気に盛り上がったときに、コンテストの動画を見て『すげぇ身体だな』と思っていました。ただ、野球選手がやるトレーニングと、身体を見せるためのトレーニングは全然違います。引退して大会に出ようと思ってトレーニングを変えてから、『え⁉︎こんなに違うんだ!』と知って、その面白さにはまっていきました」
「いつまでも自慢できるパパでいたい」
岡島さんが2025年シーズン限りで現役を引退し、コンテスト出場を考え始めたのは2026年1月後半。2月1日には減量を開始した。
「野球選手って、引退したあとに体重がボンと増える人もいるんですよ。『現役のときはあんなにスマートだったのに』と絶対に思われたくなかったんです」
さらに大きかったのが、3人の子どもたちの存在だった。
「あとはいつまでも、かっこいいパパでいたいってことですかね。子どもたちに自慢してもらえるようなパパでいたい。『うちのパパ、今こんなことをやっているんだよ』と言ってもらえたら、僕もうれしいですから」
出場団体としてJBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)を選んだ理由にも、長年スポーツの世界で生きてきた岡島さんらしい価値観が表れている。
「ドーピング禁止を明確に打ち出していることが大きかったです。プロとしてスポーツをやってきたなかで、そこは自分が大事にしている部分でした。サプリメントを選ぶときも含めて、ナチュラルで取り組むことは重要でしたね」
野球は「全身をつなぐ」、ボディメイクは「一つの筋肉を狙う」
野球選手のトレーニングとボディメイクの最大の違いについて、岡島さんは『全身の連動』と『筋肉を単体で動かすこと』の差を挙げる。
「野球は、とにかく全身の連動です。脚から力をつなげて押す。クリーンやスナッチ、プル系の種目も多くて、身体の動きをつなげるトレーニングをします。でもボディメイクでは、胸だけ、肩だけを狙う。『こんな軽い重量なのに、こんなにきついの?』というのがすごく面白かったです」
同じベンチプレスでも、目的が変われば動きも別物になる。
現役時代は脚の力や反動も利用し、身体全体で重量を押し上げていた。ところが、現在指導を受けるトレーナーから、胸だけで押すフォームを教わると、思ったように重量を扱えなかった。

ベンチプレスは潰れるまで追い込む
「全然押せなかったですね。現役時代は脚も使ってとにかく一生懸命上げていました。でも今は、いかに胸だけで押せるか。振り返ると、昔は胸が上手く使えてなかったんだと思います。あと、トレーニングの違いでいうと、野球選手時代は試合で100%の出力を出さないといけないので、トレーニングで100%を使ってしまったら、試合でパフォーマンスを出せません。だからトレーニングは5~6割に抑えて、試合に100%を持っていく感覚でした」
一方、引退後は翌日の試合を考える必要がない。今では基本的に各種目を4セットをしっかりやり込み、最後のセットは潰れるところまで追い込んでいる。
「1~3セット目は自分で頑張れる重量にして、4セット目は潰れるまでやります。想像していたより全然、ずっときつくてビックリしました。でも、それが楽しいんですよね。もう病気かもしれないです(笑)」
野球で鍛えた身体が、必ずしも有利になるわけではない
「正直、野球をやっていたからフィジークで有利になることはあまりないと思います」
バットを振り、ボールを投げ続けてきたことで、体幹部は厚い。それは野球では強さになる一方、肩幅と細いウエストの対比が求められるメンズフィジークでは、必ずしも有利に働かないという。
「腹筋が人よりも大きいんです。バットを振ったり、投げたりしてきたので、やっぱり体幹が太くなるんですよね。背中だけを見れば『大きいね』と言われるんですけど、前から見るとウエストが細くないので、そこは不利なのかなと思います」

長年のプロ野球で培った、強みである背中
一方、野球経験が生きていると感じる部位もある。
「トレーナーからは『背中は本当に強い』と言われます。投げる動作やバットを振る動きでは、身体の後ろ側を使うことが多かったので、その影響はあるでしょうね」
逆に、現在の最大の弱点は胸。投球や打撃では胸よりも背面の筋肉を使う場面が多く、さらに肩や肘への負担を考え、現役中は胸を積極的に鍛えてこなかった。
「肘や肩が痛くて、ベンチプレスができない時期もありました。ダンベル種目に変えることも多く、重い重量を扱えないこともありましたね」
現在は胸上部の改善をテーマに掲げ、インクラインダンベルフライに手応えを感じているという。
現役時代にもっとやっておけばよかった種目
ボディメイクを本格的に始めた今、岡島さんが「野球選手時代にもっとやっておけばよかった」と感じる種目がある。
それがチンニング、いわゆる懸垂だ。
「野球でも絶対にやったほうがいいと思います。投げるときの引く動作や、打つときの回旋動作でも広背筋を使います。大胸筋は、つきすぎると投手にとって邪魔になる可能性もありますけど、広背筋はついて困ることがあまりないと思うんです」
チンニングをしながら腹部にも力を入れ、体幹を固める。そうすれば背中だけでなく、野球の動作につながる身体の土台も強化できると考えている。
岡島さん自身のチンニングは、肘を曲げ伸ばしするだけではない。下ろした局面で肩甲骨を開き切り、肩が耳の横に来るほど身体を伸ばしてから、再び引き上げる。
体重70kg台なら、この厳しいフォームで20回近く。取材時の体重約85kgでも14回ほど行えるという。背中の強さは、プロ野球時代から積み重ねてきた動きの証しでもある。
「僕はプロ野球選手でしたけど、ボディメイク競技を職業にしているわけではありません。負けて当然だと思っていましたし、そこに恥ずかしさやプレッシャーはなかったです。純粋にトレーニングが好きで、趣味の一つとして楽しんでいます」
「37歳からでも、ここまで変われるんだという姿を見せたいんです」
周囲からは「今は身体が大きくても、減量すればサイズは残らない」「そんなに甘い世界ではない」と言われていた。そして実際に絞ってみると、予想以上に筋肉が小さくなった。
「思ったより筋肉が残らなかったので、ショックでした。『俺、こんなに筋肉ないんだ』と思いましたね(笑)」
プロ野球で日本一を経験し、1000試合以上の一軍出場を重ねた選手でも、初めて飛び込んだ世界ではビギナーである。
しかし、だからこそ面白い。
「筋トレも野球も、何かを始めたからといって、すぐには結果が出ません。1~2カ月で判断するのではなく、年単位で考える必要がある。まずやってみて、時間をかけて、それでも駄目なら変えればいい。やらないことには始まらないですから」
初出場で決勝には届かなかった。それでも岡島さんは、すでに次のステージを見据えている。
「37歳からでも、ここまで変われるんだという姿を一般の方にも見せたいんです」
現役時代とは違う身体をつくり、違う舞台で勝負する。岡島豪郎さんの“第二の競技人生”は、まだ始まったばかりだ。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材・文:柳瀬康宏 写真提供:楽天野球団
執筆者:柳瀬康宏
『月刊ボディビルディング』『IRONMAN』FITNESS LOVE』などを中心に取材・執筆。保有資格は、NSCA-CPT,NSCA-CSCS,NASM-CES,BESJピラティスマット、リフォーマー。メディカルフィットネスジムでトレーナーとして活動もしており、2019年よりJBBF、マッスルゲート、サマースタイルアワードなどのボディコンテストに毎年挑戦している。










