今年のIFBB世界選手権で日本人女子初の快挙となる一般の部での金メダル、さらにマスターズ階級とマスターズオーバーオールを制し3冠に輝いたボディフィットネス選手の大谷美咲(おおたに・みさき/36)選手。実際に世界の様々な国の審査員からも「すごい」「素晴らしい」といった評価があり、また他国の観客たちからも「絶対に大谷が優勝だよ」という声が上がるほど、世界の舞台で評価された大谷選手。昨年の同大会では一般の部3位、マスターズ2位だった大谷選手が、「世界一」になるためにこの一年間取り組んできたこととは?
世界選手権では一般、マスターズ、マスターズオーバーオールの3冠達成、おめでとうございます。
「ありがとうございます、正直ホッとしています。2回目の世界選手権で、昨年よりも良い成績を取りたいと思っていたので。周りの方々からの期待も感じましたし、このような結果を頂けて良かったです」
昨年は一般の部3位、マスターズ2位という結果でした。
「良い成績は頂けたのですが、海外のトップの選手と比べると上半身のバルク、具体的には厚みと丸みが劣っていると感じました。なので、オフに上半身をしっかり作ろうと取り組んできました」
特に取り組んできた部位は?
「胸と腕、特に強化してきたのは胸です。ただ、やはりボディフィットネスはアウトラインがしっかりしていないと審査員の目にも留まらないので、背中をより広くすることも意識していました。また、胸を強化したのは、ビキニの形を、それまでの丸く大きな形のものから、三角形のあまり大きさを強調しないようなものに変えようと思ったことも理由の一つです」
なぜ丸型から三角型に?
「自分の体型にあまりフィットしていなかったんです。あとは、身体をしっかり見せる競技ということを考えた場合、丸型の大きいビキニでは大円筋付近までカバーしてしまうので、より背中の広がり感を強調できるのは三角型だなと。海外の選手たちがかっこよく三角型を着こなしていたことも理由の一つです。ただ、丸型ビキニの方が身体に合う人もいるので、そこは人それぞれですが」
三角型だと、より大胸筋の露出が増えますね。具体的にはどのように大胸筋の強化を?
「これまでとやることは大きく変えず、頻度を少し多めにして、挙上重量を上げるというよりは狙った箇所にピンポイントで効かせられるようにしました。具体的には、大胸筋が動く前に腕だけで動作してしまわずに、大胸筋が動いている、負荷が載っている状態のまま動作するようなイメージです。特に私は女性なので、ステージで目立ちやすい大胸筋上部を重点的に取り組んできました」
1年間の上半身のインプルーブを経て、今年の世界選手権では海外の選手と比べてどう感じましたか?
「身体の厚みは昨年に比べてかなり改善できたと感じました。特に胸周りはポージングにも影響が出やすい部位だと思うんですけど、昨年から大胸筋を強化してきたことで、しっかり胸郭を膨らませる意識ができるようになり、結果的にポージングも改善することができました。昨年感じた海外選手との上半身のボリュームの差は、今年はあまり感じませんでした」
ご自身のSNSでは、今シーズンはあまりコンディションが上がらなかったとありましたが、これは国内戦からですか?
「そうなんです。今年は、国内の大会へのコンディション調整に苦戦しました。今まで通りに減量しても体重が落ちなかったり、少し身体が水っぽいような感覚があったんです。それで、最後の調整で昨年より炭水化物量を減らして無理やり体重を落としたりしていました」
その原因は?
「トレーニングに行く時間が遅くなってしまって生活リズムが崩れたことや、女性特有のホルモンバランスの調整による影響が大きいと思います。トレーニングに行く時間は、気分でいつも夜遅くに行っていたのですが、それがあまり良くなかったのかなと」
そのような中でも国内戦全勝、世界選手権でも優勝されました。苦労したコンディション面は海外選手と比較してどうでしたか?
「海外の選手は脚のカットがはっきりと出ている人が多いなという印象でした。ただ一方で、細かな身体の作り込みであったり、ポージングの粗さだったりが目立つ選手も多いとは感じました。しっかり脚も腕も太いんですけど、砂時計のようなⅤシェイプは際立っていないというか。メリハリが目立っていない選手が多かったように思います。そんな中、私が評価された点はまさにそのような、身体の厚みも含めて昨年よりも充実したアウトラインと、ポージングにあると思います」
特にアウトラインは、ポージングで作り出せる面もあるかと思います。
「私はウエストが細い方ではないので、細く見せるための工夫はしています。腹直筋を引き上げ、ウエストが一番細く見える位置でキープできるように練習していました。それも不自然ではなく、自然にその位置でキープできるように意識していました」
逆に、海外選手を見て「ここは勝てない」と感じた部分はありましたか?
「やはり骨格の優位性では勝てないなと思いました。特に一般のオーバーオールで優勝された選手を見て、正直『これは厳しい』と思いました。その選手には特にバルキーな印象は受けなかったのですが、骨格的にメリハリが出やすく、かつ下半身にしっかり筋量があってカットもあって。それでいてステージングも美しくて、すごく華のある選手だと感じました。なので、ポテンシャルの部分をどれだけカバーしていけるのか、という点はとても難しい課題だと考えています。今後はそのような高いレベルでの戦いになってくると思うので、大きさというよりも、砂時計のようなアウトラインに向けて、細かい部分の作り込みを追求していかなければいけません」
今回、IFBB世界選手権で日本人女子初の一般の部での金メダルを獲得されました。これは女子フィットネスの歴史を変えたといえます。
「すごく光栄なことだと思っていますが、女子初というところはあまり特別に思っていません。その年その年で出場選手も違えば審査基準も違ってくるので。ただ、優勝した事で日本のフィットネスの良さを世界に知ってもらえたと思うので、今後もこの様な流れになっていけば、もっと日本のフィットネスが評価されていくと思います」
今回の優勝は、ボディフィットネスという競技がより多くの人に知られるきっかけになったと思います。今後どのようなカテゴリーになっていって欲しいですか?
「女子人気ナンバーワンのカテゴリーになっていって欲しいです。ボディフィットネスは、まだまだ多くの人には知られていないカテゴリーだと思うので、これからどんどん挑戦する人が出てきて欲しいなと思っています」
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取材:FITNESS LOVE編集部 写真:Igor&Jakub