「70歳にして初出場です。温かい目でお願いします」
2月11日、高槻城公園芸術文化劇場で行われたマッスルゲート大阪高槻大会のエントリー表。ビキニフィットネスのコメント欄を見て「どんな選手が登場するのだろう?」というドキドキ感はいい意味で裏切られた。当日のステージにはビキニ選手、石川多津子(いしかわ・たづこ/70)さんの姿があった。
しっかりと鍛えられた身体は日ごろからの努力の賜物だ。石川さんは、フルタイムで仕事をしており、仕事以外の時間はほぼ毎日ジムにいるという。
「1週間のうち60~90分の筋トレを4回、45分のBODYPUMP(※)を2回、45分のダンスを5回、日曜日には75分の水泳で2500m泳いでいます。筋トレは、上半身と下半身、というふうに部位を分け、集中してトレーニングすることが多いです」
※スタジオでバーベルを使ってのグループレッスンで、持久系の全身トレーニング
石川さんのトレーニング歴は30年前にさかのぼる。
「40歳からフィットネスジムに通い始め、水泳とBODYPUMPを始めました。2年くらい前、日ごろの成果を試してみたくて大会を目指し、本格的な筋トレを始めました。器具の使い方、メニューの組み立て方など半年間パーソナルトレーナーに教わり、その後は個人でトレーニングを行っています」
大会初出場は2023年10月、マッスルゲート京都大会。ウーマンズレギンスよりも筋肉量が必要なレギンスフィットネス158cm以下級で5位に入賞。2024年2月の大阪高槻大会では同部門で2位という成績を収めた。
「それからしばらく動画で他の大会の様子を見ていると、京都や高槻で顔見知りになった選手がどんどんレベルアップし、ビキニに挑戦する姿を目の当たりにしました。そこで自分も目指そうかという気持ちになりました」
70歳でのビキニ挑戦。葛藤がなかったわけではない。
「年齢的にあまりにハードルが高すぎて悩みました。ヒールがはけるだろうか?試しに買おう。ビキニは?一応買ってみよう。お腹も引っ込めないと……そうしている間にビキニ体型に合わせたトレーニングをするようになっていました。あとは勇気と勢いです。そんなことで今回の高槻にエントリーをすることになりました」
ポージングはマッスルゲートの審査員で、ウェルネス選手の永吉令奈先生に連絡を取った。指先や姿勢、基本動作を習い、その後はマッスルゲートのYouTube動画を見て練習をしたそうだ。
「食事については、それほど神経質にはならず、食べたいものを食べる感じです」、石川さんは年齢と向き合いながら、極端なことはせずにビキニでの大会出場を準備してきた。
「今までダイエットなど考えたことはなく、十分な運動によってカロリー消費されていると思っています。大会3カ月前くらいからは、少し意識して脂肪分を控えています。体重の増減はプラスマイナス3㎏ぐらいです。高齢者になると過度な減量や水抜きといったことは無理です。健康が最優先の調整を行うことが必要になってきます」
ビキニ選手としての初めての大会。「温かい雰囲気のマッスルゲートは大好きです」と石川さん。
「今まで3回、大会に出場させていただきましたが、女性の控室では、朝の緊張が、時間が経つにつれて徐々に楽しい雰囲気に変わっていきます。私は初めてのビキニとあって落ち着かなかったのですが、先輩方と話しているうちにリラックスできました。同じビキニの舞台に立つ方は、何回か出場経験がおありで、『一緒にポージングの練習をしない?』と誘っていただき、控室の鏡の前で確認をさせていただきました。またどこかの会場でお会いできることを楽しみにしています」
結果はビキニフィットネス一般の部で2位、マスターズ35歳以上の部で3位。マスターズでは2位に1点差まで迫った。
「自分の課題は色々ありますが、とりあえずは、脚を鍛え、舞台上ではもっと優雅に振舞えるようになりたいと思っています」
石川さんは言う。
「運動とは無縁だった自分が40歳になり、仕事と2人の息子の世話だけの毎日から自分を育てることに方向転換したことは、今振り返れば大正解でした。水泳大会でタイムを1秒縮めるために必死で泳ぎ、また、理想のボディになるためにきつい筋トレで追い込む。これらは目標がないと頑張ることができません。そして現在70歳にして、これと言って身体に痛みがないことは幸せなことです。それは、長い年月をかけて少しずつ作り上げてきた結果だと思っています。これからも身体に負担のないよう、徐々に鍛えていきたいと思います」
【マッスルゲートアンチドーピング活動】
マッスルゲートはJBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)とアンチドーピング活動について連携を図って協力団体となり、独自にドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト大会である。
取材:あまのともこ 撮影:岡 暁